本・書籍
2022/4/18 6:15

幸福を贈り合うことで社会を変える——『世界は贈与でできている』

誰かに愛情を贈られると、こちらも愛情でお返ししたくなる時があります。その愛情のお返しは、贈ってくれた本人ではなく、他の誰かに向かうこともあります。こうした愛情の行き交いは「贈与」という考えかたで説明ができるそうです。

またあの体験をしたい

私にはまた行きたくなるお店がいくつもあります。またあの美味しいごはんを食べられる、また楽しい時間を過ごせるなど、行くとうれしいことが起きる場所だと信頼しているお店です。

 

都立多摩図書館に調べものに行った帰りに寄る喫茶店「クルミドコーヒー」もそんなお店のひとつです。お店の細部に至るまで可愛らしい工夫がなされていて、心くすぐられる発見の連続で楽しかったし、しかも出された食事がとびきり美味しかったのです。

 

心が満たされるということ

「クルミドコーヒー」では、お店自体が出版社を運営していて、お店でだけ買うことができる小さな本を売っていました。その試みもとても素敵でしたし、お店にはクルミとクルミ割り器が置かれていて、好きなだけクルミを割って食べることもできました。

 

店内はツリーハウスのような温かみある設計で落ち着けたし、伝票の代わりに小さな木の人形を渡され、それを渡してお会計をしたりと、童話の世界に入り込んだかのような小さなときめきの連続でした。店員さんとはほとんど関わらなかったのに、店内の仕掛けによりたくさんのサービスを受けたと感じられたのも、不思議で楽しい経験でした。

 

たくさん受け取ると返したくなる

世界は贈与でできている』(近内悠太・著/ニューズピックス・刊)にも、そのお店のオーナーの考えかたが紹介されていました。人は金額以上のものを受け取ったと感じると、また行きたくなったり、友人知人にそのお店を紹介したくなったりするのだそうです。確かに私はそのお店のことをTwitterに書いて、素敵なお店でしたと自主的に宣伝していました。

 

この本では「贈与」について深い考察がされています。贈与というと、私たちはどうしても贈与税などお金が絡むことを連想してしまいますが、本書でいう贈与とは「僕らが必要としているにもかかわらずお金で買うことのできないものおよびその移動」を指しています。たとえば親から子への愛情もそのひとつです。そして私のカフェでの体験もお店から贈与(過分な温かなもてなし)を受けたということで説明がつくそうです。

 

フリーと贈与の違い

2009年に『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン・著/NHK出版・刊)という本が話題になりました。このフリー(フリーミアム)という方法は、本を出版する前に期間限定で無料で本を全文公開するというような無償提供のスタイルです。当時は本を無料で見せるなんて、と驚く人も多かったですが、今ではSNSで無料公開されたコミックが後で本になることは珍しくありません。

 

フリーと贈与の違いは何かというと、フリーの場合は贈る側は大きな負担はない(元々ある原稿を公開するので)けれど、贈与の場合は、その人のために時間をかけたりと、相手に尽くす度合いが強くなっているように感じます。しかしそれを苦にしない意欲が贈り主にあるのです。それは贈り主自体が贈るほどの量の愛情を備えているからなのかもしれません。

 

幸せが連鎖する社会へ

『世界は贈与でできている』では、贈与には必ずプレヒストリーがあると考察されています。事前に誰かから何かを贈られているから、それを次の誰かに贈ることができるというものです。次の贈り先を誰にするかは自分が決めて行動するものなので、そこに自分の生きざまも現れることでしょう。

 

私が心地よく過ごした喫茶店も、オーナーやスタッフが日頃からあの童話的空間で十分に癒されているからこそ、来店者にもその素晴らしさを伝えたくて心憎い数々の演出を用意してくれているのかもしれません。そしてそのサービスを受け取り心が満たされた私も誰かに素敵な贈り物をあげたくなりました。そんなささやかな贈与の連鎖がこれからの心地いい社会を作るきっかけになるのだとしたら、とても素敵なことだと思うのです。

 

【書籍紹介】

 

世界は贈与でできている

著者:近内悠太
発行:ニューズピックス

最有望の哲学者、「希望」のデビュー作。「仕事のやりがい」「生きる意味」「大切な人とのつながり」-。なぜ僕らは、狂おしいほどにこれらを追い求めるのか?どうすれば「幸福」に生きられるのか?ビジネスパーソンから学生まで、見通しが立たない現代を生き抜くための愛と知的興奮に満ちた“新しい哲学”の誕生!

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