漫画家の一条ゆかりさんは、日本の少女漫画界をリードしてきた方。作品が長く愛される理由のひとつには、ストーリーやキャラクターだけでなく、セリフのひとつひとつが女性の心に刺さるからなのではないでしょうか。
少女漫画界の巨匠
一条ゆかりさんといえば『有閑倶楽部』『デザイナー』『プライド』など、ヒット作を次々と刊行してきた、少女漫画界の巨匠です。そんな彼女が金言集『不倫、それは峠の茶屋に似ている』(集英社・刊)を出せた理由は、漫画のセリフひとつひとつがとても深く、たくさんのことを示唆してきた言葉のパワーがあるからではないでしょうか。
筆者自身、一条ゆかりさんの漫画でさまざまなことを教えてもらいました。最も刺さったセリフは『正しい恋愛のススメ』に出てくる「覚えておきなさい。お金もらったらプロなの」です。その言葉に大変感銘を受け、以降「どのような立場であれ、報酬を受け取るということは責任をもって労働しなくてはならないということだ」という意識がずっと根付いています。
華やかな世界の裏側
一条さんは華やかな世界を描くことが多く、芸能人や富豪など、キラキラした設定の女性が登場人物として出てきます。そして彼女の作品の魅力は、ただキラキラしているだけではなく、そうした世界で生きているからこその葛藤を描いているところ。だからこそ読者も自分とはかけ離れた世界に生きる登場人物たちに親近感を抱き、のめり込めるのでしょう。
華やかな世界で悩み、模索した末に答えを自ら見つけ出す登場人物たち。その際の心の叫びのようなセリフは本当にかっこよく、胸に刺さります。そしてそのセリフが自分の生きかたのヒントにもなる気がするのです。だからなのでしょうか、一条さんは、パーティーで、いきなり悩み相談をされることがあるのだとか。
吹っ切れた言葉
本書は、そんな一条さんの人生哲学が詰まったエッセイ集。そこには漫画と同様、思い切りのいい、人生に対して吹っ切れたかのような、読んでいてとても爽快になる言葉が揃っています。
人生にはいろいろな困難がつきまとうものですが、一条さんの漫画の登場人物は「しゃーない!」などと言いながら心を決め、直接それにぶつかっていくことが多いのです。その行動力は、作者さんにも備わっているのでしょう。人生に対してそういうものだよねと達観しつつも、決して諦めない姿勢がそこにあります。
入口を磨く必要
本の中には、ビシッと言い切る小気味いい言葉が並んでいます。たとえば「そのままのキミはたいてい汚い。入口が汚いと誰もノックしてくれません」も、読んでいてギクっとしてしまう人が多いのではないでしょうか。
一条さんは「見た目は家にとってのドア。ここが汚いと誰も訪ねてきてくれません。やはりきれいに磨く努力が必要なんですね」と説いています。多くの人が、いい出会いがない、いい人がいないと嘆いていますが、まずは我が身を振り返り、自分自身の外見や内面を磨き、人が寄ってくるようにすることが大切なのだなと思い知らされる言葉です。
原因は自分にあり
悩んでいるときに「周りのせい」「私は悪くないの」と自分のせいだとは考えない人に対して「甘いんだよ!」と一条さんは叱っています。確かに、さまざまな事柄は自分の受け止めかた次第なのかもしれません。
たとえば、失恋を引きずり何ヶ月もクヨクヨしている人もいれば、「もっと綺麗になってやる」とエステに通い始める人もいます。エステに通うようになったのは「綺麗じゃなかったことに原因があるのかもしれない」と考え、それを克服しようと前向きになったからかもしれないのです。
「悩みの原因の大半は、本人に責任がある」と書く一条さんは、本の中で気持ちが前向きになれる考えかたをいくつも指し示してくれています。読んだ後、人生に挑んでみたくなる、そんな熱いエネルギーが込められている本なのです。
【書籍紹介】
不倫、それは峠の茶屋に似ている
著者:一条ゆかり
発行:集英社
仕事、恋愛、美容、生き方…悩めるあなたに贈る珠玉の言葉86!最後(!?)の描き下ろしショート漫画「その後の有閑倶楽部」も収録!