知らず知らずのうちに「女だから」「男だから」など性別で決めつけていたり、年齢や見た目から「〇〇なはずだ」とカテゴライズすることってありませんか? 自分の中にある固定概念を再確認できるのが、チョーヒカルさんのエッセイ『エイリアンは黙らない』(チョーヒカル・著/晶文社・刊)です。チョーヒカルさんは、ペイントアーティストとして日本だけでなく海外でも幅広く活動し、たくさんの人を魅了しています。
そんなアーティストさんが作品集じゃなくて、エッセイ? と思うかもしれませんが、彼女の生き様に惚れる人がたくさんいるはず! 今回は、日々悩みを抱えている人やモヤモヤと戦っている人に届けたい1冊をご紹介します。
「怒る」って大事だ
『エイリアンは黙らない』は、3つの章と2つのコミックが1冊にまとまったエッセイ集です。恋愛のこと、日常生活のこと、仕事のことなどチョーさんが感じていることがどストレートに綴られています。ハライチ岩井勇気さんの帯コメントには『すっぴんすぎるだろ。』と書かれてありますが、読み終わるとついそのセリフを言いたくなっちゃう内容でした。
いくつかのエッセイがある中でも私が「わぁ〜これ大事だ」と感じたのが、3章の『私たちはもしかしたら圧倒的に怒る経験が足りてないんじゃないか』です。友人と初めてアメリカ旅行した際、タクシーでトラブルがあり、逆ギレしてきたタクシー運転手さんに対して、冷静に怒りをぶつけた時のことが書かれてあります。
もし怒っていなかったら。もし戦っていなかったら。私たちが争いを避けるために理不尽を飲み込んでいたら、一体何が好転していたというのだろう。時々人は怒らなきゃいけないのだ、としみじみ思った。
(『エイリアンは黙らない』より引用)
結果、チョーさんが怒ったことでトラブルは解決し、ハッピーエンドになるわけですが、私たちは無意識に「耐える」ことを植え付けられてきたため、怒ることをできていない人間になっているのかも……と感じました。
匿名のSNSでダラダラと怒りをぶつけたり、自分よりも立場が弱い人に向かって無駄に怒ったりする人は別ですよ。そうではなく「おかしい」と思った時にはしっかり怒りをぶつけていいんだと感じたのです。無理に怒る必要はないけれど、耐えることは決して美徳ではない! おかしいことはおかしいってちゃんと言おう、そう背中を押してもらえるお話でした。
「モテたい」について考える
チョーさんのエッセイの中では、モテたいという言葉も度々登場します。最初のうちは笑いながら「あぁ〜私にもこんなことあったわ!」「わかる〜」と読み進めていたのですが、途中から様子が変わるものがありました。
ここで悲しいお知らせがあります。モテることで私は幸せになりませんでした。といっても私のモテレベルなんて本当にみみっちかったけれど。あんなに全ての価値を凌駕すると思っていた「モテ」はただの虚しいものだった。
(『エイリアンは黙らない』より引用)
今の自由で爽快なチョーさんを拝見すると想像するのが難しいのですが、以前は長い髪をなびかせていたり、ふわっとした服装をしていたり、「モテテンプレート」に当てはめて生きていたそうです。しかしこの「モテテンプレート」は自分専用ではないと気がつき、「私がなりたい私」を目指すようになったとのこと。
わ・か・る!!
振り返ってみれば、私自身も若いころはそうだったなぁ〜と思いました。流行りの〇〇、モテる〇〇、好きな人が好きなものを追いかけて過ごしていたように思います。私も頑張っていたんだなぁ(笑)。
また仕事でも「モテる」は度々顔を覗かせますよね。誰かに認めてもらいたくて、自分の気持ちを我慢しながらする仕事もいっぱいあると思います。そんな時は、チョーさんの「モテたい」話を思い出して、本当の自分を思い出さなくては……! もし、恋愛でも仕事でも「モテたい」と感じているのなら、テンプレートに当てはめて、自分が辛くなっていないか考えてみましょう。本当の自分を押し殺してまで、楽しくないモテを目指しているのなら、今すぐ自分サイズにすることをおすすめします!
男性って? 女性って? 性別なんて関係ない?
女性らしくや男性らしく、なんて言葉にいつの間にかがんじがらめになっていることってありませんか?
私は10年近く短髪なのですが、初めのころは「何かあったの?」と真剣な目で聞かれることもありました(今は短くしてもそんなことは言われませんw)。きっと、女性らしくないと思われたからでしょう。その人に悪意があったわけでなく、本当に心配してくれたのだと思います。
きっと髪型だけでなく、服装やしぐさにも「らしさ」を決めつけている人もたくさんいるのではないでしょうか? 究極は性別なんて関係ないじゃん! ってところに行き着いちゃうのですが、チョーさんの一文を読んで腑に落ちるものがありました。
男性にしか「男性性」がなく女性にしか「女性性」がないという考えだってとっくに時代遅れだ。性別なんか関係なく、自分のかわいい部分もかっこいい部分も愛したほうがいいに決まってる。かわいいワンピースもかっこいいスーツも、両方着こなせる女に私はなりたい。
(『エイリアンは黙らない』より引用)
性別による役割も当然あります。身体の違いも絶対ある。けれど、男性だから、女性だからという他人の常識に合わせる必要はない! もし自分のことがわからない、どうしても周りに合わせてしまってモヤモヤすると感じるのなら、『エイリアンは黙らない』を読んでみて欲しいです。チョーさん言葉に元気をもらって、ほんのちょっと前に進めるようになるはず。生きている限り悩みは尽きないですし、本の中でも自分の背中を押してくれたり、寄り添ってくれたりする言葉があれば、少しずつ自分にも自信が持てるようになると思いました。
【書籍紹介】
エイリアンは黙らない
著者:チョーヒカル
発行:晶文社
注目のペイントアーティストが綴る、複雑で、うまく生きられない中で、それでも違和感に声を上げ続ける「成長」と「主張」のエッセイ。