おひとりさま社会と言われ、ひとりでいろいろなことを楽しむ人が増えています。しかし、その一方で孤独を感じる人も増えています。不思議なことに、家族がいても孤独を感じる人がいますが、それはなぜなのでしょうか。
家族がいるのに孤独
筆者はシングルマザーでしたが、子どもが中学生くらいになるまで、ずっと孤独を感じていました。夫は去っていきましたが、共に暮らす子どもたちは可愛く、彼らの成長を見守ることは生き甲斐でした。それなのに、ある時深い孤独を覚えていました。
家には大人がいないため、ごく普通の会話をする相手がいませんでした。ご近所の噂や仕事のぼやきやニュースへの突っ込みなど、子どもには少し理解が難しい日常生活のささやかな会話、これがいかに自分のストレスを緩和させていたのかを、思い知らされたのです。
会話相手が必要
会話をしてくれる相手を求めて、友人や実家に電話をしたこともありましたし、占い師にゆ電話をしてグチを聞いてもらったこともありました。「今日、こんなことがあったんだよ」、「今日、子どもがこんなことをできるようになったんだよ」などという、大したことない話を、お金を払ってでも誰かにしたかったのです。
自分は今までそうやって1日の疲れを取り去っていたのだなと痛感すると同時に、会話相手がいないという孤独感に何年も悩まされました。独身だった頃は、ひとり暮らしだったのにここまでの孤独は感じなかったのです。孤独がつらさは、自分が抱えているストレスの量と関係するのかもしれません。
家族がいても孤独
『永続孤独社会』(三浦展・著/朝日新聞出版・刊)では、現代の孤独について、豊富な資料で解説されています。そこには、孤独を感ない人の割合を世帯種別に調査した資料が載っていました(三菱総合研究所2021年調べ)。すると、最も孤独を感じない世帯は、配偶者とその親と暮らしている50代女性で76.8%もの人が「孤独を感じない」と回答していたのです。夫や親の世話で忙しくしているのが想像できます(男性は配偶者と親と同居している60代が最多で76.4%した)。
逆に孤独感が強いのは配偶者と離別した30代男性で、41.3%もが孤独を感じると回答しています。女性は20代の未婚者が最多で、36.6%でした。どちらも単身世帯で、寂しいんだろうなということが想像できます。そしてシングルマザー世帯はどうかというと、配偶者と離別して子どもとだけ暮らしている40代女性が32.3%と、かなり高い数値を示していて、配偶者や両親と暮らす世帯とは大きな違いが出ていました。
賑やかなのに孤独
シングルマザー世帯は、一見すると賑やかで、孤独とは無縁のように見えます。しかし、その裏では母親は孤独感を募らせているのです。これは前述したように、日常のよもやま話を聞いてくれる相手がいないということだけではない気がします。
子育てには成績や学費や子どもの人間関係など、常に心配の種があります。それをひとりで抱え込むだけでも相当な重圧ですが、さらに自分自身の仕事の悩みなども重なると、ストレスフルの状態になってしまい、そのはけ口がないため強い孤独や疎外感を感じるのではないでしょうか。
つながりを求めて
話を聞いてくれる存在を求めて、シングルマザーがマッチングアプリに手を伸ばすのも、無理はないのかもしれません。彼女たちは新しい恋愛を求めているというよりは、日常のささやかな話を分かち合える相手が欲しいのかもしれないのです。
けれど、孤独の解消方法は異性とのマッチングだけではないはずです。本の中では、シェアハウスなど、新しい時代の新しい暮らしを実践している人たちが何例も紹介されていました。最近はひとり親が集まるシェアハウスも運営されるようになっています。
本を読むと、メタバースなどのネット環境がさらに発展すれば、家に居ながらにして孤独が軽減される可能性を感じます。SNSでもひとり親同士という横のつながりもできやすくなってきました。シングルマザーに限らず、孤独の解消に、多様な方法が出てきています。その情報を、孤独を感じている人たちにうまく届けることが必要とされているのかもしれません。
【書籍紹介】
永続孤独社会
著者:三浦展
発行:朝日新聞出版
仕事があり、友人、恋人がいても心が満たされないのはなぜか?「つながり」と「分断」から読み解く愛と孤独の社会文化論。人生に夢や希望をもてなくなった若者たち。コロナ禍があぶり出した格差のリアル。『第四の消費』から10年の検証を経て見えてきた現代の価値観とはー。