『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などのお笑い番組で、たびたび登場するチャンス大城さん。どこか憎めない人柄が面白く、チャンネルを合わせると最後まで見続けてしまいますよね。そんなチャンスさんですが『僕の心臓は右にある』(大城文章・著/朝日新聞社・刊)というエッセイを出版されています。
正直、どんなことが書かれてあるんだろう……ネタ本かな? なんて軽い気持ちでページをめくっていたのですが、途中泣いちゃうくらい心を揺さぶられるエッセイでした。今回は「え〜最近よくドッキリ仕掛けられている、チャンス大城でしょ?」と思っている人にもぜひ読んで欲しい、泣けて笑えるエッセイをご紹介します。
右に心臓があることで経験したさまざまなこと
タイトル『僕の心臓は右にある』は、チャンスさんの身体に由来するものです。吉本興業のプロフィールにも「右心臓の持ち主。心臓以外の臓器も全て左右反転であり、内臓逆位と経穴(ツボ)も左右反転。」と書かれてあり、テレビでもその話をされていることもあったので、知っている方も多いかもしれませんね。
そんなチャンスさんですが、小学生の健康診断でお医者さんに聴診器を当てられた際のエピソードをテンポよく紹介しています。
「いったん中断してええか」
お医者さんはそう言うと、興奮した表情で左右にいるお医者さんを集めました。
「みんな、来てくれー」
「どないしたんや」
「あのな、この子、心臓、右にあんねん。聴いてみて」
たくさんのお医者さんが、まるでタワレコの試聴みたいに、かわるがわる僕の胸に聴診器を当てていきます。
「ほんま、右にあるわ」
「ほんまやろ」
「ほんま、右や」
「そやろ」
「噂には聞いたことあるけど、本物は初めてや」
これが、僕の右心臓史の始まりでした。(『僕の心臓は右にある』より引用)
ここだけ読むと笑ってしまうのですが、実はこのエピソードがきっかけでいじめられ、中学生になっても『北斗の拳』キャラクターで、心臓の位置が逆にある「サウザー」とあだ名を付けられ、いじめが続いたそうです。「いじめ」と聞くと、本当に心が辛くなってしまうのですが、チャンスさんの文章は不思議で読んでいくうちに元気になってくるのです。切ないのに笑えちゃう、悲しいのに元気になれる、どこか落語の滑稽話を読んでいるような、そんなおかしさが詰まっているエッセイになっています。
チャンスさんをお笑いの道へ導いたのは……
チャンスさんは、吉本興業のNSCに二度入学しているそう。一度目はなんと14歳だというから驚きです。そのきっかけとなったのが、ダウンタウンが出演していたテレビ番組『4時ですよ〜だ』(毎日放送)の素人参加コーナー。
当時のチャンスさんは、学校に行けばいじめられ、家にいても親に怒られ、どこにも居場所がない状態だったそうです。そんな中、「俺にはお笑いがある!」と一念発起し、番組オーディションに参加。見事合格し、優勝までしてしまうのです。
しかし、これで学校でのいじめが止むことはありませんでした。優勝した翌日には優勝賞品を不良グループに取られてしまったり、「図書館の本を盗んで、ギネス記録になるか確認しろ」と不良グループに言われたり、散々です。そんなこんなで、一度目のNSCはやめてしまうのですが、高校に入学してもここには書けないほど窃盗事件や警察にお世話になるような出来事に巻き込まれていきます。自ら事件を起こすのではなく、不思議なくらい巻き込まれるんです。
ちなみに14歳でNSCに入学した時の同期には、FUJIWARAや千原兄弟もいたそう。もしそのまま芸人になっていたら……、いじめのない場所だったら……、と読みながら想像してみましたが、きっと今のチャンス大城にはなっていなかったと感じました。振り返ってみれば、すべての出来事が今のチャンスさんにつながっているんですよね。よく「生きてればいいことあるよ!」なんて言葉も聞きますが、エッセイを読んでいくと、良くも悪くも人生って本当に何が起こるかわからないんだなぁとしみじみしてしまいました。
失敗の連続……マントル芸人と言われても、這い上がれた理由
高校を卒業して、二度目のNSCに入学しお笑い芸人となったチャンスさん。コンビ結成、解散、結婚、出産、鬱病の発症、酒に溺れて離婚などなど大人になってからも壮絶な人生が続きます。地下芸人どころか、マントル芸人とまで呼ばれるほど、日の目を浴びることなく30年以上お笑いを続けられた理由はどこにあったのでしょうか?
一度目のNSC入学で同期だった千原せいじさんの家に泊まった際、せいじさんに隠れてエッチな本を読みふけっている時(笑)、こんな言葉をかけられたそう。
「おまえ、その執念、忘れるなよ!」
(『僕の心臓は右にある』より引用)
この言葉がチャンスさんの座右の銘。どうしてこの言葉が大切なのか、なぜ救いになったかは、ここでは書ききれないほどのエピソードがエッセイに綴られていますので、ぜひ読んでください!(笑)
お笑いが好きな人も、今どん底にいると感じている人も、夢に向かって頑張っている人もみんなの胸にグッとくるお話が必ずあるはず。私はページをめくる手が止められず一気に読んでしまいましたが、どこから読んでも、1つのお話だけ読んでも楽しめるエッセイなので、秋の夜長におすすめです。
【書籍情報】
僕の心臓は右にある
著者:大城文章
発行:朝日新聞社
チャンス大城、いじめられっ子だった尼崎時代、東京での地下芸人時代をはじめて語る。あなたの想像を超えてくる実話。