世の中にはさまざまな職業がある。そのなかのひとつが「交渉人」(ネゴシエーター)だ。Wikipediaによると、交渉人とは次のような職業と記されている。
交渉人(こうしょうにん、negotiator)とは主に人質救出作戦において犯人との交渉を担当する警察・政府の要員をいう。 英語からネゴシエイターとも言う。
一般企業や保険会社の外交員は営業で顧客と媒介交渉などを行ったりするが、交渉専門というわけではないので交渉人とは言わない。
正直なところ、一般市民の僕のような人間は、交渉人に会ったことはない。そんな交渉人が主人公のマンガが『勇午』だ。
世界を舞台に交渉を繰り広げる
『勇午』(真刈信二・作、赤名修・画/講談社・刊)は、フリーの交渉人、別府勇午が主人公。都内の地下鉄の駅を出たところの雑居ビルの2階が事務所だ。
勇午の年齢は定かではないが、おそらく20代後半から30代前半。ストーリーの進行とともに年齢を重ねていると考えると、最終的には40代くらいにはなっていると思うが、見た目は大学生くらい若々しい。
普段は飄々としているが、仕事になると超人になる。高い分析能力をもち、数多くの言語を操り、たぐいまれなる身体能力で数々のピンチを乗り越えていく。扱う交渉は、国家レベルのものがほとんど。パキスタンやロシア、中国、香港、台湾、そして日本国内と、交渉の場は世界規模だ。
『勇午』名物といえば拷問シーン
交渉人という仕事がどういうものなのかは詳しくはしらないが、『勇午』を読むと、とにかく命の危険にさらされることが多い。まさに命がけ。しかし勇午は、強い精神力と何をされても力尽きない体力、そして冷静な判断力で交渉を進めていく。
『勇午』のタフさは、海外シリーズに毎回出てくる「拷問」シーンでわかる。『勇午』は各国の政治、社会情勢、宗教観、歴史などを現地取材も含めた綿密な取材を元に書かれているが、拷問もおそらく史実に基づいたものなのだろう。
パキスタンでは灼熱の石の上に裸で縛り付けられ何日も放置されたり、中国では体中に釘を刺されて標本のようにされたり、香港では塩の入った壺に入れられて放置されたりと、何度も命の危機にさらされるが、なんとか生きのびている。その生命力、すごすぎる。
そういうことに興味のある人は、ぜひ読んでみてほしい。
読み始めるなら超合本版がオススメ
海外編はだいたい単行本2〜4冊分、日本編は短編から単行本1冊分くらい。かなりボリュームがある上、ストーリーも重厚で読み応え充分。読書の秋に全巻読破というのもいいかもしれない。僕は『勇午』が好きなので、年に1、2回は読み返す。読み始めると止まらないのだ。
これから読み始めるという場合は、電子書籍版の超合本版が出ているので、それがオススメ。ただし、拷問シーンなどはかなりグロテスクな描写となっているので、そっち方面が得意ではない人は、そのシーンは薄目で見たほうがいいだろう。
【書籍紹介】
勇午 超合本版
著者: 真刈信二(作)、赤名修(画)
発行:講談社
交渉とは言葉を武器にした戦いであるーー。世界一の交渉成功率を誇る交渉人・別府勇午のもとに現れた涙を浮かべた若い女性・岩瀬繭子。「どうか、お願いです……父を……たすけてください」勇午は繭子の思いとともに単身パキスタンへ向かう。ダコイットとパキスタン政府軍の思惑が絡む灼熱の大地で、勇午の交渉は成功するのか!?