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料理
2022/12/20 21:30

人気の食堂おばちゃんシリーズで、心も体も芯から温まろう!–『聖夜のおでん』

美味しい食べ物がたくさん出てくる小説が好きだ。しかも、それが全国のどこの町にもありそうな定食屋を思わせる話ならなおさら心と体に染みる。今日、紹介するのは山口恵以子さんの『食堂おばちゃん』(山口恵以子・著/角川春樹事務所・刊)。現在12巻が刊行されていて累計45万部を突破している大人気のシリーズで、年明けには13巻目も発行されるそうだ。

 

どの巻からも読めるが、私が『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』を選んだのは、そのタイトルが私たち家族の思い出と重なったからだ。おでんは日本に住んでいたらいつでもどこでも食べられる冬の鍋物だが、異国に暮らしていたらそうはいかない。フランスに長く暮らした私たちのクリスマスのごちそうは”おでん”だった。日本食材店で売っている日本から輸入された練り製品はとても高く、しょっちゅう買えるものではなかったからだ。いっぽう、彼の地ではローストチキンはいつでも食べられたから、聖夜だからこそのおでんだった。

 

作者の山口さんが食堂おばちゃんだった

さて、本シリーズに出てくる料理はすべて作者の山口さんの発案で、しかも巻末にはいくつかのレシピもついている。それもそのはず、山口さんはご本人が”食堂おばちゃん”だったのだ。彼女は44歳の時、新聞の求人欄で見つけた丸の内新聞事業協同組合の社員食堂(現在は閉鎖されている)のパート募集に応募、採用された。食堂で勤務しつつ、執筆活動をしていたそうだ。『食堂のおばちゃん』シリーズの他、『婚活食堂』シリーズも人気で、美味しい料理と食堂に集まる人々の人間模様が誰の心にも染みわたってきて、読み始めたらクセになる小説といえるだろう。

 

姑と嫁が仲良く営む庶民的な食堂

物語の舞台は、東京は佃にある「はじめ食堂」。そもそもは主人公である一子が亡き夫とはじめた洋食の名店だった。しかし夫が急死し、一子は息子と共に家庭料理店として再出発した「はじめ食堂」。やがてその息子まで他界してしまい、そこからはもうひとりの主人公である嫁の二三と二人三脚で仲良くやってきているという設定だ。本書を読んでいてとても心地いいのが、姑と嫁が互いを思いやり、支えあって日々を営んでいるところ。世間では嫁姑の争いばかりが多く語られるが、この二人のような関係だったらどんなに素敵だろうと読者に思わせてくれるのだ。

 

シリーズ前半では、もうひとり万里という料理人が登場していたが、彼は料理人としての腕を上げるために名店へ移った。そして本作では、ジェンダーレスの時代にふさわしい皐という性同一性障害のスタッフを加えて展開していくところもとてもいい。

 

昼の定食はいろいろ選べてリーズナブル

さて、「はじめ食堂」は昼は定食屋で、夜は居酒屋としてやっている。このシリーズの楽しいところはとにかくたくさんの家庭料理が詳細に書かれているところだ。昼の定食屋のメニューを引用してみよう。たとえば秋のある日のメニューは、

 

今日のランチは日替わり定食が麻婆ナスと豆腐ハンバーグ、焼き魚が鮭の西京味噌漬け、煮魚が鰯の梅煮。ワンコインは親子丼。味噌汁はこれも名残の冬瓜と茗荷、漬物は一子手製のキュウリとナスの糠漬け。これに小鉢二品とドレッシング三種類かけ放題のサラダが付き、ご飯と味噌汁はお代わり自由で、一人前七百円。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

また、冬のある日のメニューは、

 

本日のはじめ食堂のランチは、日替わりが豚汁と豆腐ハンバーグ、焼き魚はホッケの干物、煮魚はカラスガレイ、ワンコインは豚汁うどん。豚汁にうどんを入れただけとバカにしてはいけない。内容は具沢山の味噌うどんで、美味しさも食べ応えも充分だ。小鉢は小松菜と油揚げの炒め物、新海苔の煮物の二品。味噌汁はサービスで全員豚汁、漬物は一子手製の京菜の糠漬け。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

昼定食700円、そしてワンコインのメニューもある、この安さについては「はじめ食堂」が自宅兼店舗だから実現できているとも記されている。もしも、実際に近所にこんな定食屋があったら、きっと私を含めた読者は誰でも毎日でも通ってしまうだろうと思わせてくれるメニューが続々と登場するのだ。

 

居酒屋メニューも真似したいものばかり

作者の山口さんが考案するユニークな料理が登場するのは夜のメニュー。本作の中で寒い冬にぴったりだったので私がさっそく真似して作ってみたのが”焼きネギ鍋”だ。

 

二三は太めの長ネギを半分に切ってグリルの火にかけた。六~七分でこんがりと焼ける。焼ける間にだし汁を小鍋で煮立て、油揚げを細めに切った。焼いた長ネギは香ばしいだけでなく、旨味が凝縮して味も浸みやすくなる。出汁で煮ればトロリと甘くなり、ネギの甘みを吸った油揚げも更に美味しくなる。「熱いから、気をつけてね」皐がカウンターに鍋敷きを置き、グラグラと煮立つ小鍋を載せた、取り皿とレンゲ、そして七味唐辛子も添える。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

余計なものが入らずシンプルだが、素材のおいしさが引き立つ絶品の味だった。このよに本書は小説なのに、作り方を丁寧に書いてくれてあるのでレシピ本としても活用できてしまうのだ。

 

巻末には簡単レシピ集も

上記のように本文を読みつつ真似できる料理も次々と登場するが、これとは別に巻末には、材料と作り方がきっちりと書かれた、”食堂のおばちゃんの簡単レシピ集”として、以下の12品が紹介されている。

 

①四川風コブサラダ
②チョップドサラダ
③タコとトマトのカッペリー二
④鰻素麺
⑤オクラのロールカツ
⑥豚肉とピーマンの醤油炒め(とんピー)
⑦キノコのオムレツ
⑧キノコのみぞれ鍋
⑨明太じゃがバター
⑩焼きうどん
⑪鶏つくねのパクチー鍋
⑫めぐみ食堂のおでん

 

ちなみに本書のタイトルになっている「聖夜のおでん」は、「はじめ食堂」のものではない。これについては山口さんが最後にひと言、としてこう書いている。

 

本書『聖夜のおでん』には、私のもう一つのシリーズ『婚活食堂』の主人公も登場します。どちらのシリーズも酒と食を扱っていますので、これから先も、本文のどこかに別シリーズのお店やキャラクター、名物料理が出てくるかも知れません。皆さん、楽しみにしていて下さいね。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

身も心もあたたまる”おいしい小説”シリーズ、あなたも是非ページを開いてみては?

 

【書籍紹介】

 

聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12

著者:山口恵以子
発行:角川春樹事務所

焼き魚定食、ニラ玉豆腐、牛丼、新じゃがのお味噌汁ー姑の一子、嫁の二三が仲良く営む東京は佃の「はじめ食堂」は、昼間は定食屋、夜は居酒屋。定番メニューも豊富。二三たちは、鰻素麺、月見うどんなど新メニュー開発にも余念がないが、常連の瑠美、康平カップルの仲が、どうも気になってー累計四十五万部突破、続々重版の大人気シリーズ、熱望の最新刊。初めての方も大歓迎です。どの巻からでもお読み頂けます。

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