この間お昼の情報バラエティ番組を見ていて、詐欺容疑で逮捕寸前の通称「キラキラトレーダー」という男性の存在を知った。
セルフプロデュースとしての手法
タワマンのベランダから1万円札を撒く動画。高級時計がびっしりかけられたホルダーを4本並べた写真。札束をタワマンみたいに積み上げた写真。派手な映像や画像を次々とアップし、クセが強い口調で「最初の一歩を踏み出す勇気を持とう」と煽ってセミナーへの参加をすすめる。わかりやすいセルフプロデュースだ。
こんなベタな手法でも成果があるのだろう。だからこそ多くの被害者が出て、集団訴訟的なものが検討される流れになっている。キラキラトレーダーほどではないにしろ、見せたい自分と現実の自分のギャップを埋めるためにありとあらゆるものを“盛る”人たちは歴然として存在する。
SNSでの演出程度の盛りなら全く問題ない。ただ、キラキラトレーダーのように盛りを詐欺事件の道具として使ったり、学歴や経歴を詐称したりというレベルになると、いずれは本人もどこまでが本当の自分なのかわからなくなってしまうのではないだろうか。
あの盛り人は今
『自分を「平気で盛る」人の正体』(和田秀樹・著/SBクリエイティブ・刊)は、少し前の日本を大騒ぎさせた懐かしい“盛り人”たちに触れながら、ケーススタディ的にさまざまなタイプを紹介していく。こうした人たちが出てきた理由は何か。著者の和田氏は、背景について次のように語る。
ここ数年は、自分を“偽装”したり、自分を“盛る”ことで良く見せようとする自己アピールの強い人たちが問題を起こす傾向が強まっていることは事実だと思います。その一方で、日本人の多くは、これまで「能ある鷹は爪を隠す」が美徳だったのに、自己アピール力がないと、選挙に勝てない、出世できない、それどころかリストラの対象にされかねないという事態に直面しています。
『自分を「平気で盛る」人の正体』より引用
いや、そんなことはない—自信を持ってそう言い切れる人はどのくらいいるだろうか。自己アピール力は今や絶対に必要なライフハックの一部なのだ。でも、それはとても暴走しやすく、一度暴走が始まったらとどまるところを知らない。本書で紹介されている通り、そういう例はいくらでもある。
演技性パーソナリティ
和田氏によれば、あまたいる盛り人たちは演技性パーソナリティという言葉で形容できるらしい。これはあくまで個性の一種であり、心の病である演技性パーソナリティ障害とは根本的に違う。SNSの進化によって、自分をよりよく見せる機会は格段に多くなった。
そういう背景もあって、今後、演技性パーソナリティの人は増えていくだろうと私は考えています。現実にSNSの世界では、自分を“盛る”ことが恒常化しています。もちろん、自分をよく見せたい心理は誰にでもありますし、私自身もそれが強い人間だと自覚しています。ただ、これまでよりそのレベルが高くなっているように思います。
『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用
筆者には、行間に込められた和田氏の「それも程度問題ですよ」とおっしゃる声が聞こえるような気がしてならない。
“盛り”に惑わされないために
章立てを見てみよう。
プロローグ ショーンK騒動で浮き彫りとなった「盛りたがる」人の存在
第一章 「演技性・自己愛性」人間がはびこる時代
第二章 あなたの周りの「演技性人間」の正体
第三章 あなたの周りの「自己愛性人間」の正体
第四章 大人もマスコミも簡単に騙される心理
第五章 多様化しますます増殖する「盛りたがる」人たち
ご自分のFBやツイッターのページを見ていただきたい。一人や二人は演技性人間や自己愛性人間めいた人がいるはずだ。だからこそ、本書における和田氏の立脚点が際立つ。
そうなってくると、自己アピール力を磨くだけでなく、自分を“盛る”ことに抵抗のない人たちへのある種の免疫力(医学用語なのでしょうが、日常的な意味で使わせてください)を持つ必要もあるし、“盛った”情報に惑わされないリテラシーも必要です。
『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用
そうなのだ。こうしたものを意識することによってキラキラトレーダーに騙されたり、国際ロマンス詐欺の被害者になったりすることも防げるはずだ。
中身と見せ方
ジョン・F・ケネディはスピーチが弱点だった。そこで、選挙戦を勝ち抜くためにスピーチライターを雇い入れ、必死に練習したという。
立派な中身があるのに見せ方が下手な人は、見せ方を工夫すればいいということです。しかし、中身がない人がいくら見せ方を工夫しても、中身がないので勝負にはなりません。
『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用
あとがきに記されているこの一文が本書のエッセンスであり、SNSが絶対的な存在感を示す時代における必要不可欠な認識であり、盛り人たちにアドバンテージを握られないための心得に違いないのだ。誰もが自分ごととしてとらえておくほうがいいだろう。
【書籍紹介】
自分を「平気で盛る」人の正体
著者:和田秀樹
発行:SBクリエイティブ
いま、テレビやSNS、職場等では、平気でウソをついたり、演技や経歴詐称まで行ったりして、自分を過度に良く見せたがる人が増えており、「演技性・自己愛性パーソナリティ」の時代が到来している。最近マスコミを騒がした野々村元県議、小保方氏、舛添氏らの事例を考察しつつ、そういう人に魅了され、簡単に騙されてしまうマスコミや私たちの問題にも鋭く迫り、どういうリテラシーを持つべきかを精神科医である著者が教える。