パンダが中国から日本にやってきたのは1972年。上野動物園のカンカンとランランが最初だ。
現在日本には、上野動物園に5頭、兵庫の神戸市立王子動物園に1頭、そして和歌山アドベンチャーワールドに7頭いる(2023年2月に永明、桜浜、桃浜の3頭が中国へ帰還)。
最近では上野動物園でも、パンダの繁殖が成功しているが、和歌山アドベンチャーワールドは1994年にパンダの飼育を始めてから、これまでに17頭の子どもが生まれている。上野動物園ではなかなか繁殖が成功しなかったのに、なぜ和歌山では成功しているのだろうか。
その理由を探るために『知らなかった! パンダ』(アドベンチャーワールド 「パンダチーム」・著/新潮社・刊)を読んでみた。
理由その1 偉大な父と母の存在
まず驚くのが、和歌山アドベンチャーワールドではこれまで17頭のパンダの子どもが生まれているが、そのうちの16頭が同じ父親なのだ。その父親は「永明(えいめい)」。1994年に2歳のときに中国から和歌山にやってきたパンダだ。
現在29歳。人間でいえば90歳くらいとのこと。この永明、人工飼育下ではなかなか発情しないとされているオスのパンダながら、次々と繁殖に成功。アドベンチャーワールドのパンダ繁殖は、永明なくしては語れないのだ。
いくら永明がすごくても、相手がいなければ繁殖はできない。実は永明と一緒に蓉浜(ようひん)というお嫁さんも来日していたのだが、繁殖前に亡くなってしまう。その後、2000年に2歳年下の梅梅(めいめい)が来日。実は梅梅、来日時にはすでに妊娠しており、日本で娘である良浜(らうひん)を出産した。
永明と梅梅との間には、4回の出産で6頭の子どもが生まれた。この2頭、かなり相性がよかったようだ。その後、梅梅はこの世を去ったが、永明にとっての義理の娘である良浜との相性もよく、7回の出産で10頭の子どもを生んでいる。永明、なかなかのゴッドファーザーだ。
理由その2 温暖な気候と豊富な竹
アドベンチャーワールドがある和歌山県の白浜は、一年を通して温暖な気候。また水や空気もきれいなため、動物たちにとってはいい環境であることも理由のひとつだ。
そして、パンダの主食である新鮮な竹が豊富なことも大きい。アドベンチャーワールドでは、大阪と京都から竹を仕入れているが、距離が近いために鮮度がよい。
パンダはとても個性豊かで、竹といっても好みがそれぞれ。食べる部位もパンダごとに違うだけでなく、その日によっても違うらしい。なんとも気分屋で贅沢だ。
近隣からいい竹をたくさん仕入れることができ、いつでもパンダたちは好きなだけ竹が食べられるため、健康に過ごせているのだ。なお、パンダが1日に食べる竹の量は1頭あたり15〜20kgだが、用意された竹のなかから気に入ったものだけを食べるため、毎日1頭あたり50〜70kgは用意するようだ。
理由その3 中国の研究所との連携
アドベンチャーワールドは、中国の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地と相互連携している。成都ジャイアントパンダ繁育研究基地は、パンダの保全活動を長年行っており、繁殖や出産についての豊富な経験とデータの蓄積がある。それをアドベンチャーワールドでも活用することで、安定した繁殖につながっているのだ。
実際にパンダの出産および育成に関して、中国からスタッフが支援にくることで、未熟なパンダの赤ちゃんの命を救ったこともある。以上が、和歌山のアドベンチャーワールドがパンダの繁殖に成功している主な理由だ。
自然と仲良く生きていきたい
ユーモラスでかわいらしいパンダだが、一時期は絶滅危惧種に指定されていたほど、自然界での個体は減っている(現在は危急種になっている)。
最近は、繁殖研究などが進み、動物園や研究所などで生まれたパンダを自然に還す取り組みなどが行われ、個体数は増加傾向にあるという。
パンダに限ったことではないが、人間が地球上で幅を利かせすぎると、ほかの動物たちの形見が狭くなってしまう。あまり図々しくせず、控え目に生きていきたいと思う。
【書籍紹介】
知らなかった! パンダ
著者: アドベンチャーワールド「パンダチーム」
発行:新潮社
実は肉食!? 先祖が、ですけど、なぜ白と黒? オシャレだから! じゃないよ、走ると30km/h!でもすぐガス欠。世界屈指のパンダファミリー飼育スタッフがかわいいだけじゃない魅力と謎を徹底解説!!
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