本・書籍
歴史
2023/2/12 21:00

日本最古の地図記号は何? あのマークはどうしてできたのか、地図記号の謎がわかる!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。地図を見ながら歩くとなぜか道に迷ってしまう私ですが、部屋で地図を開いてあれこれ妄想するのは大の得意です(笑)。

 

もう20年ほど前、大航海時代を舞台にした「ネオアトラス」というゲームにハマっていました。航海して世界地図を完成させるという内容で、プレイヤーが何を信じるかによって地図も変わっていくのです。

 

地図を作るということは、この世界を定義すること。地図には奥深い魅力があります。

 

等高線に魅せられた地図研究家

さて、今回紹介する新書は地図記号のひみつ』(今尾 恵介・著/中公新書ラクレ)。著者の今尾 恵介さんは地図研究家! 日本地図センター客員研究員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査などを務めています。主な著書に『地図マニア 空想の旅』(集英社インターナショナル、第2回斎藤茂太賞受賞)、『今尾恵介責任編集 地図と鉄道』(洋泉社、第43回交通図書賞受賞)があります。

 

中学1年生の社会科で2万5千分の1の地形図の精緻さに魅せられたという今尾さん。買ってきた地図の等高線を眺めては、時間を忘れて現地の風景を想像していたのだとか。

ドイツにはホップ畑の記号がある!?

第1章「定番記号の学校で教わらない話」には、おなじみの地図記号に関するうんちくが満載。日本で初めて使われた地図記号は……「温泉」マーク! 江戸時代初期、土地争いに関する絵図に温泉を示す記号が2つ描かれていたのが始まりだそうです。湯壺から湯気が立っているデザインはほぼ今と同じ。江戸初期からあるんですね!

 

温泉マークを見ると、ほとんどの日本人がお風呂を思い浮かべるでしょう。ところが、国土地理院の調査によると海外の観光客からは「温かい料理を思わせる」という反応があった、と本書にはありました。なるほど、お皿に入った熱々のスープにも見えますね。山のなかにスープ屋さんがひしめく様子はちょっとシュールですが(笑)。

 

私の地元に桑畑が多かったこともあり、社会の授業で最初に私が教わったのがYの字に横棒を加えた「桑畑」でした。桑畑の地図記号は、日本の主要な輸出品だった絹を支える耕地ということで明治時代から地図に特別に記載されていたそうです。ただ、平成25年(2013年)に廃止になってしまいました。

 

ちなみにドイツにはホップ畑(×を並べたもの)、イタリアにはオリーブ畑(オリーブの木を図案化したもの)の記号があるとのこと。地図記号はその国の重要な構成要素を表しているんですね。

 

第4章「記号が映し出す歴史」では、軍事と深い関わりがある地図の歴史的背景が解説されていきます。なぜ病院のマークはワッペン形に十字なのか? なぜ大正時代に制作された橋の地図記号は8種類もあったのか? 単純に地図記号の解説を超えて、地図という存在を軸にした歴史の動きが見えてきます。

 

各節の頭には今尾さんが描いた味のある地図記号のイラストも掲載され、今尾さんの地図に対する愛と深い造詣が伺えます。ひとつひとつのトピックは短めですが、それが連なることで地図記号の本質、地図の存在意義が見えてくる一冊。廃れる地図記号あれば、新しく生まれる地図記号あり。瞬時に時空を超えていけるのが地図の面白さかもしれません。

 

【書籍紹介】

地図記号のひみつ

著:今尾 恵介
発行:中央公論新社

学校で習って、誰もが親しんでいる地図記号。だが、実はまだまだ知られていないことも多い。日本で初めての地図記号「温泉」、ナチス・ドイツを連想させるとして「卍」からの変更が検討された「寺院」、高齢化を反映して小中学生から公募した「老人ホーム」……。地図記号からは、明治から令和に至る日本社会の変貌が読み取れるのだ。中学生の頃から地形図に親しんできた地図研究家が、地図記号の奥深い世界を紹介する。

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。