本・書籍
2023/3/8 21:30

目は口ほどにものを言う−−「しぐさ」から相手の本音を読み取る技術『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』

ボディー・ランゲージというのは、口から発する言葉よりもはるかに明らかな形で本質を表すものらしい。嘘をついているときは目が泳ぐ。相手の話がつまらないと思っている時には無意識に腕組みしてしまう。脚を組んで座っている時にはリラックスしている。ごく簡単な例を挙げるなら、そういうことになる。

 

捜査現場のノウハウと学術的事実のコラボレーション

無意識に出るしぐさは、行動心理学をフィルターにして深層心理を読み取る際の指標となる。しぐさを軸にしたアプローチはFBIの捜査手法の一部にも加えられ、積極的に活用されている。ふと思い出した。1991年のハリウッド映画『羊たちの沈黙』のヒロインもFBI行動科学班の女性捜査官で、深層心理的要素の解釈みたいなものがストーリーのあちこちに伏線的にちりばめられていた。

 

ここで紹介する『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』(河出書房新社・刊)という本の著者ジョー・ナヴァロ氏はキャリア25年のスパイ防止活動特別捜査官、マーヴィン・カーリンズ氏は心理学者だ。現場で培われたノウハウと学術的な知識をバランス盛り込みながら、想像よりはるかに雄弁なボディー・ランゲージについての考察が展開されていく。

 

ノンバーバルという形のコミュニケーション

章立てを見てみよう。

 

第1章 しぐさに秘められた意味を知る
第2章 辺縁系の遺産で生きる
第3章 ボディー・ランゲージへの第一歩を踏み出す—足と脚のメッセージ
第4章 胴体の語るヒント—腰、腹、胸、肩のメッセージ
第5章 手の届く範囲にある知識—腕のメッセージ
第6章 落ち着くために—手と指のメッセージ
第7章 心のキャンバス—顔のメッセージ
第8章 ウソを見抜く—慎重に判断すること!
第9章 最後に

 

ボディー・ランゲージがここまで細分化されるとは思わなかった。共著者マーヴィン・カーリンズによるまえがきには、次のような文章が記されている。

 

ジョーは捜査官として働きながら、ずっとノンバーバル(非言語)コミュニケーションの科学—顔の表情、身振り、体の動き(動作学)、互いの距離(近接学)、体の触れ方(触覚学)、姿勢、さらに服装まで—を研究し、練り上げ、応用しながら、人が何を考えているのか、何をしようとしているのか、本当のことを言っているのか、読み解く技を磨いてきた。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

言葉にならないものを読み取ろうというレベルの話ではない。あえて隠そうとしていることを、ボディー・ランゲージから明らかにしていこうというのだ。

 

本書が、同じようにノンバーバル行動を扱っているほかの多くの本と異なっているのは、単なる個人の意見や机上の空論ではなく、科学的事実と豊富な実績に基づいている点だ。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

本書は、“辺縁系”という聞きなれない言葉に代表される学術的理論と、捜査現場で培われた実践的なテクニックを両輪にして進められる立体的なボディー・ランゲージ論にほかならない。シンプルな響きのタイトルを見ただけではわからない、かなり踏み込んだ実用的な内容なのだ。

 

著者の原体験

共著者ナヴァロ氏は、8歳の時に家族と一緒にキューバからアメリカに亡命した。当然のことながら、英語はまったくわからない。しかし彼は、すぐに自分を取り囲む人たちが考えていることを、ボディー・ランゲージを通して正確に知ることができるようになった。

 

最初に気づいたのは、私を本音で好きな生徒や先生は、私が部屋に入っていくのが見えると眉を上げることだった。その逆に、あまり親しくない人たちは私の姿を見てちょっとだけ目を細めた。それに一度気付いたら、忘れられるものではない。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

ナヴァロ氏は、8歳の男の子が身につけ得るライフハックの最初のテクニックとして、周囲の人々が眉を上げることや目を細めることの意味を脳裏に刷り込んだ。理想的では決してない。しかし、これほど実践的で即効性のある方法はなかったはずだ。

 

じっくり腰を据えてページをめくろう

必死に言葉を取りつくろえば何とか切り抜けられる場面もあるかもしれない。しかし、思っていることや感じていることが条件反射的にそのまま出てしまうボディー・ランゲージを取り繕うことができる人はほとんどいないだろう。

 

人の心を正しく読むこと—ノンバーバル行動を知り、解読し、利用して、人間の行動を予測すること—は、やりがいのある、十分に報いられる努力だ。だからここでじっくり腰を据えてページをめくり、ジョーが語る重要なノンバーバル行動を、しっかり覚えて観察できるようになってやろうという心がまえをしてほしい。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

FBI特別捜査官が現場で培ったテクニックと心理学者による学術的知識の組み合わせは絶対に試したくなるし、確かめてみたくなる。共著者カーリンズ氏が言う通り、じっくり腰を据えてページをめくっていくべき一冊だ。

 

【書籍紹介】

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学

著者: ジョー・ナヴァロ、マーヴィン・カーリンズ
発行:河出書房新社

言葉ではウソをつけても、しぐさではウソをつけない。自信のあるなしや、安心/不安なときのしぐさの違いを見分けられるようになれば、人とのつきあいがスムーズになる。「スパイキャッチャー」、「人間ウソ発見器」の異名をとる元FBI捜査官が、普段見落としがちなしぐさによるメッセージを、あますところなく明かす。

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