本・書籍
2023/3/17 21:30

大人も子どもも、ほっとしながら眠りにける絵本に魅せられる『りすとかえるのあめのたび』

息子が幼いころ、寝る前に絵本を読むのが日課でした。彼は幼いながら趣味がはっきりした子で、自分で選んだ本でないと眠れないと言い張ります。毎日、お風呂から出ると、本棚から「今日の僕の絵本」を持ち出して、布団にもぐりこみ、私を呼ぶのです。それは息子のお楽しみの時間だったのでしょう。ウキウキしながら絵本を選ぶ姿を見ていると、とても嫌とは言えません。こうして、就寝前に絵本を読む習慣は、自分で字が読めるようになるまで毎晩繰り返される「お約束」となりました。

 

物語と画、ふたつとも大事

私も寝かしつけに絵本を読むのが楽しみでした。けれども、そこはやはり大人です。息子のように夢中にはなれません。それに、早く寝かしつけて、洗濯物をたたんだり、テレビを観たいとこっそり思ったりしています。そのせいでしょうか。絵本を読むとき、どうしても早口になってしまうのでした。絵本は字の部分が少ないので、さっさと読んで次のページに進みたくなります。

 

すると、今にも眠りに落ちそうだった息子はぱっちりと目を開けて、「まだだよ、僕、読んでるんだから」と、不満を露わにするのでした。「読んでいるのは私だ、キミじゃない」と言い返しても、ブーイングは止まりません。それどころか、泣き出しそうになっています。これでは、寝かしつけにならないではありませんか。私は渋々、最初から読み直すことになりました。

 

やがて、私も気づきました。絵本は文章も大事ですが、画がものを言います。耳から物語を聞き、目で画を見る、そのふたつがしっかりと結びついてこそ、ひとつの作品となるのでしょう。穏やかな眠りに導くためには、急いで読んだりしてはいけないのです。息子が絵本をじぃっと見つめている間は次のページに移らない、これが私がたどりついた結論でした。

 

とはいえ、同じ本をくり返し、毎晩読んでいると飽きてきます。物語も暗記してしまい、目をつぶっていても読めるようになります。そして、気づいたときには、息子より先に寝てしまい、「ママ、グーっていった。いびきかいてた」と注意されるのです。これでは寝かしつけになりません。子どもを寝かしつけるはずが、自分が寝てしまってどうすると自分で自分につっこむ日々でした。

 

やはり、絵本は何冊か新しいものを用意する必要がありそうです。そして、大人も子供も楽しめる本でないと、うまくいきません。

 

『りすとかえるのあめのたび』の魅力

りすとかえるのあめのたび』(うえだまこと・著/BL出版)は、寝る前の1冊としてふさわしい絵本です。文章は簡潔ですが、ページを繰るごとに場面が変わっていくので、変化に富んでいて、読む者を飽きさせません。さらに、画そのものが物語る力を持っています。

 

主人公の「りす」と「かえる」が旅に出るお話なのですが、冒頭からドキドキさせられます。旅に出るまさにその日、ぽつん、ぽつんと雨が降ってきます。旅立ちの日として、ふさわしいとはいえず残念です。

 

りすは思います。

 

だけど こんな あめふりじゃ
たびには いけないやと

( 『りすとかえるのあめのたび』より抜粋)

 

けれども、かえるは違います。

 

あめのひって すてきだね。
こんな いいひに たびにいけるなんて!

( 『りすとかえるのあめのたび』より抜粋)

 

そう。「りす」と「かえる」では、雨に対する思いがまったく違うのです。

 

結局、「りす」と「かえる」は旅に出ます。雨の中を……。傘もささずに……。舟に乗って……。途中、霧が出てきますが、彼らは旅をやめず、果敢に前進します。やがて、もやもやした白い霧は舟ごとのみこんでしまいそうになります。

 

「りす」は不安を訴えるのですが、「かえる」は「りすくん。とにかくいってみよう」と促します。私は「りす」に似て怖がりなので、「かえるくん、勘弁してよ」と、言いたくなります。

 

物語は川の流れにのってなめらかに進んでいきます。ところが、霧の中で突如、舟が止まります。霧でよく見えないものの、どうやら岸辺にあたったようです。「かえる」は状況を確かめようと、偵察にでかけてしまいます。「りす」はひとり、舟の上で待っていることになります。このシーンは寂しそうな「りす」の姿が際立ちます。いったい「かえる」はどこに行ってしまったのでしょう。

 

けれども、旅とはそういうものかもしれません。ふたりで旅に出ても、孤独を感じる瞬間はあるものです。

 

『りすとかえるのあめのたび』は静かな旅の記録です。毒々しいモンスターが攻撃してきたり、意地悪な魔女が出てきたりもしません。その意味では、ゲームにあるような激しさはありません。色も淡く、消え入りそうで、派手な色彩に慣れている子ども達は、最初、少し物足りないと感じるかもしれません。

 

けれども、そこが大切だと私は思います。人生も旅も、本来はどこか寂しく、淡い色彩にいろどられているものに違いないからです。大人も子どもも、ほっとしながら眠りにつくためには、こういう本こそが必要なのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

りすとかえるのあめのたび

あめの日って、すてきだね こんないい日に、旅にいけるなんて! 雨の中おどる風、たちこめる霧、水面のきらめき…美しい自然の描写とともに、喜びあふれるひとときを描いた絵本です。

著者:うえだまこと
発行:BL出版

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