こんにちは、書評家の卯月鮎です。実際に猫を飼ってみて驚いたのは、とにかくよく寝ること! 動画では跳ね回ったり、ケンカをしたりとアクティブなシーンばかりですが、現実は1日のうち15時間くらい寝ている感覚。溶けて液体になってしまうのではと思うほどです。寝てる姿も可愛いので飽きませんが。
もうひとつは、毛並みの手触りが気持ちいいこと。これも動画ではわかりません。もちろん、猫種や手入れにもよると思いますが、ぬくもりがあって吸い付くビロード。本を読みながら猫ちゃんを撫でるのは至福の時間です。
動物行動学者がユーモアたっぷりにヒトを分析
こんなに猫好きの人が多いのは猫が可愛いから……という単純な理由ではないのが、本書を読むとわかります。今回紹介する新書は『モフモフはなぜ可愛いのか 動物行動学でヒトを解き明かす』(小林朋道・著/新潮新書)。著者の小林朋道さんは、動物行動学者で公立鳥取環境大学副学長・教授。ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の視点から研究してきました。『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます! 鳥取環境大学の森の人間動物行動学』(築地書館)ほか多数の著書があります。
怖いもの見たさの正体をシマリスから考察
本書は、SNSで募ったヒトに関する13の質問に、小林さんが仮説を立てて回答するという企画。「親しい友人と会った時、とび跳ねたりするのはなぜか?」「他人の口調やしぐさがうつってしまうのはなぜか?」「なぜヒトは『いじめ』を行うのか?」……など、「そういえば確かに謎だ」という疑問が並びます。動物行動学エッセイで人気の小林さんだけに、ユーモアもあって読みやすいのも特徴です。
私が「これは納得だわ!」と思ったのは、2番めの質問「ヒトはなぜ怖いものを見たがるのか?」。怖い怖いと言いながら、崖があったら「ちょっと下を覗いてみようかな」なんてつい思っちゃいますよね(笑)。
これには、シベリアシマリスのヘビに対する防衛行動からひとつの仮説が導き出されます。シマリスの通り道にヘビの入ったカゴを置くと、シマリスは捕食者であるヘビから逃げるかと思いきや、数十センチ離れたところからヘビの様子を伺い、緊張した様子で近づいたり遠ざかったりしつつ離れない……。
実は、相手がどんな種類で、どのくらい大きく、どういった状態かを知ることは、シマリスの生存・繁殖に有利だからと小林さん。きっとヒトも、どれほど危険なのかを無意識に測っているんでしょうね。研究での体験から組み立てられる説には説得力があります。ほかにふたつの仮説も提示され、いずれも「確かにそうかも!」と腑に落ちました。
本のタイトルとなっている、モフモフが可愛い理由も動物行動学が教えてくれます。モフモフしていると、ふくよかで丸っぽいフォルムになり、それは幼児が持っている特徴に通じているそう。なので、個体が小さければ保護してあげたいという心理が強く働くというもの。そしてさらに、毛皮との関係もあるとか……!?
つい忘れがちですが、ヒトだって動物。不思議な行動の裏には動物としての習性が隠れているのかもしれません。動物行動学の面白さはもちろんのこと、ヒトってまだまだわからないことだらけだなとフフッと思える一冊。人間観察がますます楽しくなりそうです。
【書籍紹介】
モフモフはなぜ可愛いのか 動物行動学でヒトを解き明かす
著者:小林朋道
発行:新潮社
ヒトはなぜモフモフしたものを可愛いと感じるのか? 血のつながりと自爆テロとの関連は?――長年、様々な野生動物の行動と習性を研究してきた著者が、SNS上で「ヒトという動物」についての疑問を聞いたところ、硬軟とりまぜて質問が殺到。本書では、その中から厳選した13の問いに対して、動物行動学の知見をもとに鮮やかに回答する。ホモサピエンスに特異的な行動の数々から、人間の本性を解き明かす。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。