「ポテサラおじさん」って覚えてますか? お母さんがスーパーの惣菜コーナーで「ポテサラ」を買おうとしたら、「母親ならポテサラくらい自分で作ったらどうだ」と言われた事件。ネットで話題になり世のお母さん達の怒りが爆発しましたよね。このおじさん、ぜったいにポテサラを作ったことないですね。一度でも作ったことがあるなら、こんなセリフ吐けないはずですから。
この「ポテサラおじさん」のように、自分は作ったこともないのに、他人が作った料理にいちいち文句をたれる男って結構いますよね。『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子・著/ぶんか社・刊)の主人公・海老原勝男も、そんな男のひとりです。
アナクロ・モラハラ男は立ち直れるのか?
筑前煮を美味しく作れるような女の子がタイプと公言する勝男。イケメンだし、実家も太い三男坊と高スペックですが、この時代にアナクロすぎる“昭和な男”です。もう、この「筑前煮」だけでイラッときますね。第1話の冒頭から彼女の鮎美が作ってくれた夕飯に「全体的におかずが茶色すぎる」とか「もっと上を目指せると思ってのアドバイスだから」とのたまう姿には怒りしか湧いてきません!
そんな勝男ですが、鮎美へのプロポーズが見事に玉砕。読者にとっては「当然」ですが、勝男はなんで振られたのかわかりません。傷心を癒やすために合コンに行っても、最初はいいのですが「筑前煮」発言で女性陣からドン引かれます。これまたなんで引かれるのかわからない勝男。
そこで会社の同僚から「筑前煮を作ってみればどーですか」と提案されます。「要は切って煮ればいいだけだろ」と高をくくっていた勝男ですが、深夜まで悪戦苦闘。完成した品も鮎美のものと比べたら天と地の差。そこでようやく自分の間違いに気づくのです。
このあとも勝男は「めんつゆ料理なんて手抜き!」とか「全ての食事にコークハイなんてありえない!」など失礼発言を連発してひんしゅくを買います。ただ、勝男は自分を変えるために失礼発言を反省して行動を起こします。 めんつゆは自作してみて「これが手抜きなら料理は全部手抜き」と気がつきます。コークハイも自ら注文してその味を確かめます。
そうして、いままで疑問にも思わなかった「〜であるべき」という固定観念から解放されていくのです。
固定観念の檻から抜け出すために
じつは、本作はモラハラ男の転落の物語ではなく、固定観念に囚われた人たちが変化し再生していく物語なんです。
勝男の彼女だった鮎美も、高スペックな男をゲットして家庭を持つことが幸せであるという固定観念に縛られ、人生を「モテ」に全振りする女でした。そんな鮎美もある人との出会いでその呪縛から解き放たれて「本当の自分」を探し始めます。
固定観念の檻から抜けつつある勝男や鮎美が、いろいろな人たちと出会い、話し合い、己を省みながら変化を受け入れ進んでいく姿には共感しかありません。
年を取るにつれて、心も身体も柔軟さがなくなってきます。そして「もう年だから」と言い訳して固まることを許容してしまいます。無理をする必要はないですし、嫌なことはやらなくてもいい。でも、自分を省みて、硬直しないことを意識すれば、私たちも勝男や鮎美のように変わることができるはず!
「なんか最近、頭が固くなってきたな」と感じたら、ぜひ『じゃあ、おまえが作ってみろよ』を読んで、心のストレッチをしてください!
【書籍紹介】
じゃあ、あんたが作ってみろよ
著者:谷口菜津子
刊行:ぶんか社
社会人カップルの勝男と鮎美。大学時代から続いた交際は6年目を迎えようとしていた。同棲生活にも慣れ、そろそろ次の段階へ…と考えていた勝男だったが、そんな彼に訪れた、突然の転機とは……!? 慣れないながらに作る料理を通して、今までの「あたりまえ」を見つめなおす新時代の恋物語。