五反田スタートアップ第18回「フェンリル」
2019年卒業予定の就活生たちによる企業エントリーが、この3月にはじまった。企業の新卒採用予定数は増加傾向にあり、企業はあの手この手で採用活動を行っているようだ。そんななか、VR技術を使った「0次選考」を行っている企業がある。
五反田スタートアップ第18回は、五反田に東京支社を持つフェンリルのCEO、 牧野兼史氏に話をうかがった。
ユーザーのために開発の手を速めたかった――フェンリル誕生のきっかけ
――御社で提供しているサービスや主な事業について教えてください。
CEO 牧野兼史氏(以下、牧野):基盤としている事業が2つあり、1つはウェブブラウザ「Sleipnir(スレイプニール)」を含む自社プロダクトの開発。もう1つはクライアントから依頼を受けて行う主にスマートフォン向けアプリケーションや、ウェブアプリケーションの開発です。つまり、ソフトウェアやアプリケーション開発を主に行っている、ということですね。
――:Sleipnirって、2002年にはオンラインソフトウェアの登竜門ともいえる「窓の杜大賞」を受賞していらっしゃいますよね。動作がキビキビとしているだけでなく、スタイリッシュ。フリーウェアだったこともあり一世を風靡したという印象があります。その当時、わたしの周りでも使っている人が多くいましたし。そのSleipnirが御社での最初のプロダクト、という認識でよろしいでしょうか?
牧野:実は、Sleipnirを世に出したときには、まだフェンリルという会社は存在していなかったんです。というのも、いまの社長である柏木が、個人で開発していたからなんです。
ところがある日、柏木の家に空き巣が入り、金目のものがすべて盗まれてしまいました。そのなかに、Sleipnirのソースコードが入っているパソコンも含まれていたんです。
Sleipnirはすでに大勢のユーザーさんから支持を得ていて、次のバージョンが待たれている。でも、彼は会社員だったから、平日夜間と休日しか開発のための時間が取れない。
「それなら、会社を立ち上げて、すべての時間を開発に充てようよ」と、空き巣事件の少しあとに出会ったわたしが提案しました。こうして2005年6月にフェンリルが生まれた、というわけです。
そのこともあり、空き巣に入られた2004年11月はうちの社内でも当時を知るスタッフの間で語り継がれています(笑)。
――:会社を立ち上げるにあたり、苦労されたことはありましたか?
牧野:立ち上げ自体は問題なかったのですが、人材募集では苦労しました。立ち上げから半年後、開発スピードを上げるため社員数を増やしたかったんですが、なかなか集まらなかったですね。
就活生にとってフェンリルとのファーストコンタクトになる「0次選考」
――:ところで、この春、御社の企業説明会にエントリーした就活生たちへ、VRゴーグルを無料配布し、「0次選考」をしているとうかがっています。VRコンテンツを楽しみながらクリアする、というものらしいですが、コンテンツ開発にもVRゴーグル制作にも相当コストがかかると思うのですが、なぜこのような取り組みをはじめたのでしょうか?
牧野:Sleipnirユーザーであれば、フェンリルという会社のことをご存知かもしれませんが、たいていの人にとっては名前すら知らない会社というのが現状です。そのような状況のなかでフェンリルに関心を持って、説明会に来ようとしてくださっている学生さんたちがいる。もちろん、採用ページを見れば、この会社がどういう会社なのか、という説明はありますが、画一的な情報しか載せていないですよね。
弊社のことをもっと知ってもらいたい、どういうことをやっていて、何に力を入れているのか――サイトだけでは理解できない情報を得ていただきたい、と思ったのがきっかけです。
フェンリルが大切にしているのは、「デザインと技術」。開発するコンテンツだけじゃなく、サイトも、名刺も、クリアファイル1つに至るまでデザインにこだわっています。でも、認知度はそれほど高いわけではない。つまり、学生さんたちにとっては、フェンリルとのファーストコンタクトがこの就職活動になるわけです。
0次選考を通じて弊社を知ってもらい、今回応募いただかなくても、いつか転職するときに思い出してもらいたい、就職に悩んでいる友人がいれば「こんなおもしろいことをやっている会社があるよ」と紹介してもらいたい。そういう思いを持って、様々な部門からスタッフが集まり、自発的に考え出して生み出したものなんです。
――:最近、企業側が学生について知る、あるいはふるいにかける目的で行うWebテストなどもあるようですが、その逆で、御社について学生側に知ってもらうことが目的、というものなんですね。
牧野:0次選考という名前ではありますが、プレイは任意ですし、クリアしなかったからといって選考に不利になるわけでもありませんしね(笑)。
とはいえ、はじめてフェンリルに触れる窓口となるわけですから、コンテンツはコストをかけて開発していますし、ゴーグルのデザインや紙質にもこだわっています。