五反田スタートアップ第19回「ナイル」
ウェブページが無数に存在するインターネットの海で、自社のサイトまでたどりついてもらう、そしてモノやサービスについて知ってもらい、さらには購入までの導線を引く――。さまざまな企業が頭を抱える難題だろう。スマートフォンアプリについても日々増え続けており、App Storeに掲載されているアプリは200万以上、Google Playでは300万以上にのぼる。これだけ多いと探すのも一苦労だ。
五反田スタートアップ第19回は、こうした課題を解決する、デジタルマーケティングやアプリ情報サービス「Appliv」(アプリヴ)を手掛けるナイルの代表取締役社長、高橋飛翔氏に話をうかがった。
大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかる
――:まず、御社で展開している事業について教えてください。
ナイル代表取締役社長高橋飛翔氏(以下、高橋):主な事業としては、デジタルマーケティング事業、スマートフォンメディア事業、モビリティ関連事業の3つがあります。
デジタルマーケティング事業では、ウェブサイトへの問い合わせを増やし、そこから売上を伸ばしていくにはどうすればいいか、といったコンサルティングが主となっています。
また、スマートフォンメディア事業では、スマホ向けアプリの情報を提供する国内最大級のメディア「Appliv」を中心に「ApplivGames」「Applivマンガ」という3つのメディアを展開。Applivでは、大量のアプリのなかから自分に最適なアプリが見つかるような仕組みを提供しており、それによってスマートフォンを活用した、より良いライフスタイルのお手伝いができればと考えています。
モビリティ関連事業としては、オンラインで完結する格安マイカーリースサービス「カルモ」を今年1月にリリースしました。
――:特にApplivについては、利用している読者も多そうです。なぜスマホアプリの情報サイトを立ち上げようと思われたのでしょうか?
高橋:デジタルマーケティング事業が軌道に乗り、新たな事業モデルを模索するなかでスマートフォンアプリの領域に注目しました。
私たちは2011年の冬からApplivについての企画を始め、2012年8月にApplivをリリースしました。やはり、「これからは、フィーチャーフォンではなく、スマートフォンがモバイル利用の主戦場になっていくだろう」と考えたのが大きかったです。フィーチャーフォンで遊べるDeNA モバゲーのモバコイン(ゲーム内で利用できる通貨)の消費量は、2012年に過去最高を記録しその後減少に転じているのですが、このあたりの数字感を見ても当時の考えは正しかったのかなと思います。
今後、数が増えていくスマホアプリを整理して見やすくし、求めているアプリがすぐに見つかるように なれば、スマホはより便利になるし、それによって生活も楽しくなる。それなら、アプリを見つけやすくする情報サイト を作ればいいんじゃないか、と考えて作ったのがApplivでした。
――:私も、iPhoneを買ったばかりのころは、App Storeに毎晩のようにアクセスして良いアプリがないかと探したものです。それでも最近は数が多すぎて、探すのが大変だと感じていました。使い勝手がよくわからないものも多いですしね。
高橋:Applivでは、10万本近いアプリを掲載していますが、わかりやすくカテゴライズしています。それに、レビュー数も一定数以上あるので、評価の高いものから選んでいただけますし、ユーザーの生の声を参考にすることもできるようになっています。
――:App Store内にもレビューを書き込めると思うのですが、ユーザーがApplivに書き込みたくなるような仕組みがあるのでしょうか?
高橋:そうですね、1つは自分たちが見つけたアプリをほかの人にも知ってもらいたい、というアプリ好きのユーザーの思いに応えられるところでしょうか。App Storeでは、レビューを書いても、それをシェアできません。しかし、Applivではトップページからレビューへの導線がありますし、レビューからアプリを探すこともできる。自分の書いたレビューをシェアしやすいし、「いいね」も押してもらえる。そういう意味では、「教えたい」「知らせたい」というユーザーの欲求を満たせるのではないかと思います。
また、有用なレビューを投稿するとポイントがゲットできるようになっており、貯まったポイントはApp Store&iTunesコードまたはGoogle Playギフトコードと交換できます。アプリのレビューをたくさんすることで、また別のアプリを購入できる、またはアプリ内課金ができる、という仕組みですね。
――:そうなってくると、どのようにマネタイズされているのかが気になります。登録も閲覧も無料ですよね?
高橋:Applivでは、自社開発のAppliv ADというシステムでサイト内に広告を配信しており、それによって収益を得ています。「配信」といってもバナー広告のようなものではなく、検索した結果の上位に「PR」として表示。しかも、きちんとユーザーレビューも表示されるため、「PR」ではあるけど違和感なくコンテンツになじんでおり、しっかりレビューを読んでいただいたあとに、そのアプリの詳細に飛べるようになっています。
もちろん、弊社独自の審査基準がありますから、広告として表示されるアプリはどれもしっかりしたものばかり。そこは安心していただきたいですね。
起業時の志を抱き続けることで今がある
――:創業から現在まで、どのような事業にチャレンジされてきたのでしょうか? また、どのようにして会社を大きくされてきたのですか?
高橋:実は、当社は最初、東大生の家庭教師を紹介する事業をやっていたんですよね。そのあと、オンラインで東大生が教えるWeb予備校というコンセプトの動画サービスをはじめて。どちらもあまり上手くいかなかったなかで、会社が本当に潰れそうになって、生き残りをかけて始めたのがWebマーケティング支援事業(現在のデジタルマーケティング事業)でした。
でも、マーケティングといっても幅が広い。競合他社がたくさんあるなかで弊社に発注しようと思っていただくには、何かの領域ですば抜けている必要がある、と感じていたんです。 当時はSEOという言葉が今よりももっと注目されていて、検索結果の上位に表示させたいというクライアントからの要望が増えていました。 そこで、SEOに強い会社になろう、とメンバーたちと話し合って。3回目のピボットで、会社が大きくなっていきました ね。
苦しい時期もありましたが、起業したからには最後までやり遂げたい、潰すわけにはいかない、という思いでやってきました。それがいつでも正解とは限りませんが、「世の中を変えたいと思って起業したのに、上手くいかないから辞めた」というのは、自分の美意識に反するんですよね。きちんと初志貫徹しようという気持ちが強かったからこそ今があるし、ここまで会社を大きくできたんじゃないかなと思います。もちろんまだまだ全く満足していませんが。
世の中の課題をなくしていきたい。その志があったからこそ、今があるし、ここまで大きくなれたんじゃないかな、と思います。
【五反田編】現在の従業員数は160人! 採用活動を見込んで大所帯でも入れるオフィスに
――:2013年に豊島区から今の場所にオフィスを移転されたとうかがいましたが、五反田を選んだ理由はなんでしょうか?
高橋:渋谷や恵比寿、目黒や大崎も候補地に入っていたのですが、アクセスのしやすさがそれほど変わらないのに、五反田に比べると地価が高い。高い賃料を許容してまで渋谷や恵比寿にオフィスを構える必要性ってあるのだろうか? そう考えていたときに、ちょうど良い物件が五反田にできたので、ここに決めたんです。
このオフィス、200坪もあるんですよね。なかなかこれだけの広さの物件はなくて。当時でも60人〜70人ほど従業員がいましたし、その後も採用活動は続けるつもりでしたから。そこそこアクセスが良ければ、良い人材も採用しやすいですしね。
――:オフィスのまわりには飲食店も多いですが、お気に入りのお店はありますか?
高橋:ランチはいつも社内で食べてしまうんですけど、「日南」や「肉料理 それがし」には、よく飲みに行きますよ。
――:五反田にある企業で、コラボしたいところがあれば教えてください。
高橋:そうですね……。それこそ御社(学研)と何かできたらいいですよね。弊社なら、カスタマー目線にたったコンサルティングで業績アップに貢献させていただけますよ(笑)。
――:最後に、今後の展開をお聞きしてもよろしいですか?
高橋:以前、海外展開をしていたことがあるんですが、それは別に「大きなマーケットがあるから」という理由ではなく、困っている人がいれば、その課題を解決したい、という純粋な思いがあったからなんです。今でもそれは変わっていません。
今、ぼくたちが提供しているマーケティング事業では、情報を届けたい法人と、その情報を必要としているエンドユーザーをつなげるお手伝いができていますし、Applivでは、必要なアプリを見つけるお手伝いができている。適切な情報を、必要とする人に届けるサービスを展開しています。
でも、まだまだそういう情報が、必要な人の手に渡っていないところもありますよね。大企業がすくいきれていないそういった課題を解決して、人々が豊かになれればいい。できるだけ多くの人、億単位の人たちの生活を変えられるとすれば、それをしたいじゃないですか。マイカーリースサービス「カルモ」もそんな思いからスタートしました。
「ブルーオーシャンだ」「レッドオーシャンだ」と、競合に顔が向いていては本末転倒だと考えています。サービスの主軸は人の課題、社会が抱える課題。そこだけブレずにやっていければ、自分たちにしかできない、人の課題を解決するものを見つけられるんじゃないかなと思うし、今後もそうして事業を継続していきたいですね。