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2022/11/11 19:30

組織でのキャリアパスが不安…『組織のネコという働き方』著者が説く「組織のネコ」式解決策とは?

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.01「ネコとレール」

 

花形プロジェクトに抜擢された同期にモヤモヤ……

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価してもらいたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

先月、自由すぎる後輩・ミケ野の大口顧客獲得にざわついた営業部で、今日またしても心穏やかでない出来事が起こった。オレと同期で入社した営業一課副主任のタマ田に、社内のエリートが集まる社長直轄の新プロジェクトへの異動が通達されたのだ! しかもそのプロジェクトのメンバーは、全員が部長クラスの権限を持つことになるという……。そんな制度はこれまで聞いたことがない。

 

何より不思議なのは、同期で役職も成績もたいして変わらない、というか成績ならオレのほうがちょっと上なのに、なぜオレではなくタマ田が選ばれたのか……?入社当時から先輩社員にも臆せず意見するタマ田は、元気でいいヤツだが陰では「いけすかない」とも評されていた。アウトドアが趣味でプライベートな時間を何より優先するので、出世にも興味がなさそうだったのに……。

 

どうにも納得できないオレは、大学時代の友人・ネコ山にすすめられたあの「ニャンザップ」へ、再び向かっていた……。

 

レールにしがみつくイヌ、レールに興味がないネコ

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「お待ちしていましたよ、ポチ川さん」

 

ポチ川「ニャカ山さん、ちょっと聞いてくださいよ。また、全然納得できないことがあったんです!」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「営業一課にいる同期、タマ田の話です。成績は僕のほうが上なのに、彼だけなぜかエリートが集まる社長直轄プロジェクトへの異動が決まったのです!」

 

ニャカ山T「ほぅ、なるほど」

 

ポチ川「しかも部長待遇ですよ! 直属の上司さえ飛び越えて。これまで僕と同じ副主任だったというのに……!」

 

ニャカ山T「いったん落ち着きましょうか、ポチ川さん」

 

ポチ川「これが落ち着いていられますか! みんな、レールの先がつかえているからじっと耐えているのに、抜け駆けしやがって……タマ田のヤツ!」

 

ニャカ山T「レールの先がつかえている、とは?」

 

ポチ川「うちの会社は40、50代のベテラン社員がダンゴ状態で、出世のレールが大渋滞しているのです。だから人事考課のたびに昇進を期待しているのに、ガッカリの連続で……。タマ田はきっと、僕らの知らない強力なコネがあったか、うまいこと上役に取り入ったに違いない!」

 

ニャカ山T「そうですか……もしかしてそのタマ田さんって、上司から指示されてないことをやっていたりしませんか? 」

 

ポチ川「えっ?! なぜわかるんですか?」

 

ニャカ山T先日の『組織のイヌ』と『組織のネコ』の話を覚えていますか?」

 

ポチ川「覚えています。イヌは組織に忠実、ネコは自分に忠実……でしたよね」

 

ニャカ山T「そうです。イヌとネコでは、組織におけるレール、つまりキャリアコースの捉え方も違います。“敷かれたレール”、つまり決まりきった出世コースで昇進を目指すのがイヌ。イヌは、レールから外れると会社人生がゲームオーバーになると思っているので、もし落ちそうになったら懸命にしがみつこうとします」

 

ポチ川「でも昇進を目指すのは、会社で働くなら当たり前のことでしょう?」

 

ニャカ山T「そうかもしれませんね。しかしポチ川さん、大渋滞しているレールの先はどうなっていますか? 先を行っている人たちは、楽しそうに働いていますか?」

 

ポチ川「……。楽しそうではないですよ、仕事なのですから。でも昇進できれば楽しいでしょう」

 

ニャカ山T「ふむ、かなり凝っているようですね。では、今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『レールから降りる』です」

 

敷かれたレールから降りてみる

ポチ川「……それはどういうことですか?」

 

ニャカ山Tネコは、そもそも“敷かれたレール”の上なんて進んでいないのです。ネコは、レールから外れてもゲームオーバーにはならないとわかっています。それどころか、レールを降りたら“道路”というものがあって、レールのないところにも自由に行けるようになると気づいている。だから、レールにはそもそも興味がないのです」

 

ポチ川「つまりタマ田は、レールではなく道路を進んでいたと?」

 

ニャカ山T「道路を歩いていたタマ田さんは、きっと乗り物でも手に入れて、レールで渋滞している人たちを追い抜いてしまったのでしょう」

 

ポチ川「そんなの、ズルくないですか?! 人が列に並んでいるというのに、自分だけ別の乗り物で追い抜くなんて!」

 

ニャカ山T「だったら、ポチ川さんもやってみましょう」

 

ポチ川「あ、いや、それはちょっと……」

 

誰でも“人生のレール”を外れたことはある

ニャカ山T「ポチ川さんが恐れているのは、レールを外れてみんなと違う道を行くことではないですか?」

 

ポチ川「う〜ん……。たしかに、そうかもしれません」

 

ニャカ山T「これまでの人生を振り返って、自分がレールを外れてしまった経験はありますか? どんなレベルのものでもいいです。浪人した、留年した、第一志望の学校に受からなかった、部活でレギュラーになれなかった、など、何でもいいです」

 

ポチ川「それならいくらでも挙げられますよ。いちばんキツかったのは、高校時代にケガでバスケができなくなったことでした。しかも目標だったインターハイの全国大会まで進んだのに、あれは本当にツラかったなぁ……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。でも、もし無理やり試合に出ていたとしたら、どうなっていたと思いますか?」

 

ポチ川「それはダメですよ。無理したせいで障害が残ってしまうかもしれないし、チームメイトにも迷惑をかけますから」

 

ニャカ山T「では、ケガでインターハイに出場できなかったことで、ポチ川さんの人生はゲームオーバーになりましたか?」

 

ポチ川「いや、バスケは今でもたまにやっているのでゲームオーバーというわけではないですね」

 

ニャカ山T「そう、レールは外れたかもしれないけれど、命がなくなったわけじゃないですよね」

 

ポチ川「その通りです」

 

ニャカ山Tレールを外れても死にはしない。まずはそれを思い出すのです

 

ポチ川「でも、バスケと仕事は別物ですよね?! 生活するために、お金を稼がなければいけないのですから! お金をもらっている以上は、会社の指示通りに働くべきでは?! レールから降りずに、レールを外れる方法はないのですか?!」

 

レールを進む以外に“道路を進む”という選択肢を持つ

ニャカ山T「まあ、落ち着いてください。ポチ川さんは日々の仕事の中で、『無駄だ』とか『意味がないんじゃないか』と感じる業務はありますか?」

 

ポチ川「いくらでもありますよ。会議用の膨大な資料作りとか。あんなもの、どうせ誰も読まないのに。印刷する紙がもったいないですね」

 

ニャカ山T「どうすればよいと思います?」

 

ポチ川「必要なデータだけ要約して、あとは『詳細データはこちらにアップされています』で済むはずだと思うんですけど」

 

ニャカ山T「でしたら、その“要約した資料”を提出してみませんか?」

 

ポチ川「そんな、いきなり形式を変えたら社長の忠臣、ハチ村課長から大目玉をくらいます! 我が社の伝統的な形式なのですから!」

 

ニャカ山T「いえいえ、資料はいつも通りつくって構いません。その上で、自分が「こっちのほうがよい」と思う資料を追加でそっと添えておくだけです」

 

ポチ川「追加で、そっと添えておくだけ……? 上司の許可を取らずに、ですか?」

 

ニャカ山T「はい、そうです。これが今日のネコトレ【指示された以外のこともやってみる】です。『言われたことをきっちりやる』というイヌの得意なことに、『言われていないことをしてしまう』というネコの要素をちょっと足すわけです。いつもの資料の中にそっと忍ばせた“ポチ川案”を見た部長が、『こっちのほうがいいじゃないか』と言ったら、その下の課長も『私もそう思ってました!』となったりすることもよくあります」

 

ポチ川「ああ、ハチ村課長がいかにも言いそうなセリフだ! そして、いまの話で思い出しました。先輩社員に何かと意見するタマ田が、いつもそういうネコっぽいことをするんです。『こっちのほうがよくないですか?』と。彼は規律にうるさいハチ村課長には疎まれていたけれど、その上のトラ林部長はニヤニヤしていたんですよね。なるほど、明日の会議資料に“ポチ川案”を添えてみようかな……」

 

ニャカ山T「お、いよいよ“レールから降りる”決心がつきましたか」

 

ポチ川「ええまあ、とりあえず片足ぐらい……」

 

ニャカ山T「大事なのは、レールを進む以外に“道路を進む”という選択肢を持っていることです。今日のトレーニングはここまでですが、また何かお困りのことがあったら、いつでもニャンザップへ来てください」

 

今日のネコトレ

Vol.01
【指示された以外のこともやってみる!】

・レールにしがみつくイヌ、レールに興味がないネコ
・これまでの人生でレールから外れた経験を思い出す
・レールを進む以外に「道路を進む」という選択肢を持つ

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO