ビジネス
2022/11/25 19:00

『組織のネコという働き方』著者から学ぶ、賞味期限切れの社内ルールに対処する方法

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.02「ネコとルール」

 

自由すぎる後輩の身勝手な行動にトバッチリ

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

先日、隣町の工場で新たな製造ラインが動き始めた。犬山電機の慣習として、ライン稼働初日の朝は社内で説明会と資料配布が行われるのだが、そこであの自由すぎる後輩・ミケ野がまたやらかした。始業時間のわずか3分前、オレにいきなり「客先へ直行します!」とメッセージを送りつけてきたのだ!

 

……オイオイ、待ってくれよ。説明会の日程は前々から決まっていたし、アポを取っていたとしてなぜ前日のうちにオレに報告しない?

 

アイツの勝手な行動のせいで、指導役のオレまで一緒に上から叱られるハメに陥った。お陰で1日の予定は狂いっぱなし。3時間も残業して、推しのLIVE配信にももう間に合わない……(涙)! そんな21時、やりきれない気持ちで退社したオレは、再びあのジムに向かっていた。そう、「ニャンザップ」のニャカ山トレーナーに、ミケ野の愚かさを訴えるべきだ……!

 

会社にはびこる“謎のルール”

↑ポチ川は再び、ニャンザップの戸を叩いた

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん、こんばんは。遅いですね」

 

ポチ川「……今日はまだ営業していますか?」

 

ニャカ山T「大丈夫です。どうされましたか? なにやら表情が険しいですね」

 

ポチ川「ちょっと聞いてくださいよ、ニャカ山さん! 身勝手な後輩のせいで、きょうも散々な目に遭いました! おかげで、この時間まで残業です」

 

ニャカ山T「もしかして、以前お話に出ていた後輩の方ですか?」

 

ポチ川「お察しのとおり、入社当時から生意気なミケ野ですよ。アイツはきょう、会社の説明会を勝手に欠席して、朝から客先へ直行したんです!」

 

ニャカ山T「ほぅ、それで?」

 

ポチ川「僕は入社以来、ミケ野の指導役を任されていますからね。お陰で僕まで、主任と課長に小一時間ずつ叱られました。やってられないですよ、もう!」

 

ニャカ山T「なるほど。ちなみにその説明会とはどんなものですか?」

 

ポチ川「弊社の工場で新しい製造ラインが稼働するときに開かれる、社内向けの説明会です」

 

ニャカ山T「その説明会は、全社員が参加しなければならないのですか?」

 

ポチ川「はい。それが弊社の伝統的なルールですので」

 

ニャカ山T「ほう、伝統的なルール。実際、欠席すると業務に支障が出るような会なのですよね?」

 

ポチ川「いや、まぁ説明会といっても……、各部署の部長が始業時にざっと概要を説明して、あとは見ればわかる資料を配るだけなので、業務に支障まではないかもしれませんが……」

 

ニャカ山T「では、ミケ野さんの言い分を覚えていますか?」

 

ポチ川「はい。どうしてもその時間しか客先の都合がつかなかったようです。でもそれなら、せめてアポが取れた時点で僕に相談してくれればよかった。僕に『直行する』と連絡が来たのは、なにせ始業3分前ですからね。無断欠席も同然ですよ!」

 

ニャカ山T「なるほど、そういうことですか。やはりミケ野さんは『組織のネコ』のようですね。ポチ川さんは、ミケ野さんから学べることがありそうです」

 

ポチ川「はい!? 学べることがある? そんなわけないでしょう! 組織のネコだかトラだか知りませんが、会社の伝統的なルールを守らないヤツから学ぶことなどあるわけがない!」

 

ニャカ山T「ふむ、かなり凝っているようですね。では、今日のネコトレをはじめましょうか。今回のテーマは、『ルールの意味を考える』です」

 

賞味期限切れのルールが
組織をむしばむ

ポチ川「ルールの意味……?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、ルールというものをどのようにとらえていますか?」

 

ポチ川「そんなの決まっているでしょう。守るべきもの、ですよ」

 

ニャカ山T「どんなルールであっても?」

 

ポチ川「当たり前ですよ! 守らなければ罰を受けるのですから」

 

ニャカ山T「では、会社で『このルールはおかしいな』と思ったことはありますか?」

 

ポチ川「そんなの、いくらでもありますよ」

 

ニャカ山T「そうだとしたら、それらは賞味期限が切れたルールかもしれませんね。ルールというのは、それを作った趣旨や背景とセットで運用することが大切です。ただ漫然と”守るべきもの”として扱っていると、賞味期限が切れたときにおかしなことが起こります」

 

ポチ川「賞味期限……ですか」

 

ニャカ山T「ちなみに、今回の説明会の資料はどういう形で配付されるのですか?」

 

ポチ川「昔はブ厚いファイルが部署ごとに配付されていましたが、最近は、配布書類は社内のクラウドから自由にダウンロードできるようになっています。今回からは、説明会の録画もアップされるようになりました」

 

ニャカ山T「それなら、説明会に欠席しても後から確認できますよね」

 

ポチ川「……。でも、皆で顔を合わせて士気を高めるとか、コミュニケーションを取る目的だってあると思いますけどねぇ?」

 

ニャカ山T「いま、その目的は果たせていますか?」

 

ポチ川「うっ……。みんな黙って業務を始めますけど……。いや、それでも、ルールはルールなのですから……」

 

「組織のネコ」の問題提起を
ちょっと受け止めてみる

ニャカ山T「ルールができた当時の状況と変わってしまって賞味期限が切れているのに、”ルールだから”と運用し続けるのは、賞味期限切れの腐った物を食べさせ回っているようなものです」

 

ポチ川「では、どういうルールに変えればよいと言うんですか!? 説明会には全員リモートでの参加を義務づければよいというのですか!?」

 

ニャカ山T「ルールの作り方には2種類あります。ひとつは『指示型』。たとえば、色つきのワイシャツを着ている営業マンがいて客先から苦情が来たので『白の無地に指定する』といったものです」

 

ポチ川「はぁ。ルールって、そういうものですよね。問題を起こさないために行動を制限するわけですから」

 

ニャカ山T「ふふふ、そう思われますか。もうひとつのルールの作り方は、『OBライン型』です。ゴルフのOBラインのように『ここから先はダメだけれど、この範囲内なら何でもOK』というルールの決め方です。指示型は自由を制限するためのルールですが、OBライン型は自由を確保するためのルールといえます」

 

ポチ川「自由を確保するためのルール……。僕はまさに、ルールは行動を縛るためのものだと思っていました……」

 

ニャカ山T「やはりポチ川さんの思考は”組織のイヌ”っぽいですね。対して、ミケ野さんのような“組織のネコ”にとって、指示型のルールは息苦しく感じられます。彼らは『白無地シャツに指定しなくても、苦情がこない範囲であれば何でもいいじゃないか』というOBライン型のルールを好むからです」

 

ポチ川「でも、どういう基準でOBラインを決めたらよいというのでしょうか? むずかしいと思うのですが!?」

 

ニャカ山T「OBラインを引くためには『美意識』が大切になります。ここからハミ出したら美しくないよね、という感性が基準になるわけです。そういう意味で、”美意識のない組織”で働くイヌだと、OBラインを引くのはむずかしいでしょうね」

 

ポチ川「美意識……? そんなものが仕事に必要だなんて聞いたことありませんよ! 問題を起こさないことこそ、美意識なのでは!?」

 

ニャカ山T「長年の歴史あるイヌ型組織で働く“組織のネコ”は、賞味期限切れのルールに引っかかる行動をしやすいのです。それは、問題を起こさないことを優先するのではなく、お客さんに価値を提供することを優先しているからです」

 

ポチ川「そうか……。主任と課長からお説教をくらっているときも、ミケ野がずっと平気な顔をしていたのは、そのせいだったのかな」

 

ニャカ山T「賞味期限切れのルールを見直すためには、『そもそも』を問うことが大事です。『そもそも、なんでこのルールができたんだっけ?』と。そこを整理した上で、ミケ野さんに『どういうルールだったらよいと思う?』と聞いてみてもよいかもしれません。OBライン型のアイデアが出てくるかも……」

 

ポチ川「なるほど……。あっ、そうか、わかったぞ! マジメな僕が一向に昇進できないのも、きっと何らかの賞味期限切れルールに阻まれているに違いないですね!」

 

ニャカ山T「……」

 

ポチ川「え……ちょっと、なんでそこで黙るんですか?」

 

ニャカ山T「今日はもう遅いですから、帰ってゆっくりお風呂にでも浸かってください」

 

今日のネコトレ

Vol.02
【ルールの意味を考える!】

・賞味期限切れのルールが、組織をむしばむ
・ルールは、制定した趣旨や背景とセットで考える
・ルールには、自由を制限する「指示型」と自由を確保する「OBライン型」がある

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仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO