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2022/9/29 11:20

「観光DX」が進まないのは、「ただのデジタル化」がゴールになるからである

“観光立国”を目指す日本。政府は計画として、「2030年の訪日外国人6000万人、旅行消費額15兆円」という具体的な数値を掲げています。そうしたなか、「観光DX」もキーワードとして取り上げられることが多くなってきました。「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、デジタル技術によって製品やサービス、ビジネスモデルを変革すること。

 

観光庁の予算も観光DX関連は年々増額され、ポストコロナを見据え、旅行者の体験価値向上やリピーター層の定着などを図るため、令和4年度予算では「DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」に7.81億円が割り当てられています。しかし、観光DXのジャンルはまだノウハウの蓄積が少なく、取り組みが難しいのが現状です。

 

↑こちらは令和3年度のDX事業採択案件。「顧客管理」「移動・物流」「リアルタイムデータ取得」「周遊促進」「消費促進」「決済」「観光コンテンツ・体験」など、観光DXの領域は多岐にわたることがわかる(観光庁資料より)

 

そこで今回は観光DXのなかでも特にコンテンツ領域のDX化にいち早く取り組み、様々な事例を蓄積している株式会社キャドセンターの担当者、岡本小夏さん、綱木俊博さんに観光DXの現状と今何をすべきかについてお話を伺いました。

岡本小夏さん、綱木俊博さん。このほかに同社でさまざまな観光DX案件に取り組む川上晋也さんにも話を聞いた

 

「コンテンツ型観光DX」が切り札になる

上記の通り、観光DXにはいくつかのジャンルがあります。一般的には予約検索ツールの導入による効率化といった事例が目立つなか、キャドセンターでは観光コンテンツ型のDXを手掛けています。

 

「旅行は、わかりやすくいうと旅前・旅中・旅後の3つに分けられます。主に手掛けているのは旅中のコンテンツの部分ですね」(川上さん)

 

事前に観光情報などを収集して準備する「旅前」、旅先を印象深いものにする「旅中」、体験したことをSNSなどでシェアする「旅後」、それぞれモチベーションを高めたり、リピート率を上げたりと、コンテンツ領域の観光DXでは重要な位置づけにありますが、観光地側が何をするべきか正解が見出しづらいDXともいえます。

 

一方で、キャドセンターが得意とするのは自治体が持っている観光コンテンツをVR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)などでDX化すること。

 

「たとえば、かつてお城があって今は跡地だけの場所に、VRやARで当時お城が建っていた姿を見せることができます」(岡本さん)

↑2020年9月から11月まで公開された、NTTコミュニケーションズ株式会社が実施した「首里城VRゴー」。消失した首里城正殿などをVRとARで再現。キャドセンターはコンテンツ制作を担当、同社のxRソリューション「旅するトビラ」がベースになっている

 

観光資源が現物としては残っていない場所や公開時期が限られている文化財、季節や天候に左右される自然現象もVRやARによっていつでも体験可能になるのです。「旅中」にこのような特別な体験ができるコンテンツを用意することで、自治体や事業者にとっては「旅前」のプロモーションに活用できるうえ、旅行を検討している人にとっては参考にもなります。また、「旅後」にシェアしたくなる思い出となり、拡散されることで新しい観光客へとつなげていくことが可能。

 

しかし、「闇雲にDX化しても上手くいかない」とキャドセンター側は捉えています。自治体や観光施設が行うDX化は、思うような成果が上げられないケースがあることも。そこには陥りやすい5つの落とし穴があるといいます。

①DXではなくて単なるデジタル化に留まっている

②人材の担い手がいない(DXおよびVRやARへの知見が少ない)

③コンテンツ不足(デジタルとリアルの融合になっていない)

④予算の不足

⑤長期的な戦略の欠落(点の施策に留まっている)

観光DXを手がけてきた経験が長いキャドセンターとしては、①と③と⑤の問題が特に大きいと考えているようです。

 

「自治体が持っている情報や伝えたいことが、実施するDXとかみ合ってるかどうかが重要です。基本情報をそのままデジタルに落とし込むのが正解なのか、違う形で見せたほうがいいのか。とにかくDX化をしてみたいということで、単純にVRにして、VRであること自体にコンテンツ性があると考えていると厳しいでしょう」(岡本さん)

 

デジタルに落とし込むことだけを目的とした場合、そこで止まってしまい、一番大事な「観光客に伝える」という部分が抜け落ちてしまいがちです。「自治体のほうでも、観光資源をよりよく見せる方法はないか相談していただくと、対応しやすいと思います」とキャドセンター。観光資源を分析し、DXでその魅力をどう高められるか。DXにすることで“化ける”観光資源は日本中にあるはずです。

 

成功した観光DXのビジネスモデルとは?

では、上記の課題点をクリアしている成功事例には、どのようなものがあるのでしょうか。キャドセンターが手掛けた例としては、あべのハルカスと東京タワーに設置され、ビジネス的にも成功しているVRコンテンツ「バンジーVR」が挙げられます。

↑東京タワーバンジーVRのイメージ映像。東京タワーからの風景を3DCGで再現。VRゴーグルを装着し、専用の機器に乗ることで本物さながらバンジージャンプを体験できる。サービス企画開発運営を株式会社ロジリシティが行い、キャドセンターはVR制作を担当

 

「『ハルカスバンジーVR』は今年7月20日にオープンして、弊社のサイトへのアクセスも2か月間非常に高い状況でした。運営側からも常に人が並んでいるというご報告がありました。1日で多いときは約200人の方に体験していただけたそうです。9月末までの開催予定でしたが、大変好評のため、12月11日まで期間延長が決定しました。同じく東京タワーでの『東京タワーバンジーVR』も人気のアトラクションとなっています」(綱木さん)

 

「あべのハルカスも東京タワーも展望台自体に入場料があり、さらに追加で料金を払っていただけているので、体験したいと強く感じていただけたのだと思います」(岡本さん)

↑ハルカスバンジーVRの映像を切り出したもの。地上300mの風景がリアルに映し出されている

 

リアルなバンジージャンプは1回の料金が1万円を超えるものも多いなか、緻密な3D都市グラフィックを使い、1000円ほどでビルが密集する都市のなかをバンジー体験できる。椅子に座ったままでも可能で、高齢の方も挑戦できるとあって人気が集まっています。「今後はダムを持っている都道府県などに、バンジーVRを設置して集客するといった方向性に展開していきたいと考えています」(川上さん)。

 

また、他社の事例では観光バスの窓をモニターとして活用し、DX化したケースもあるそうです。

 

「バスツアーなんですが、車窓がモニターになっているんです。そこにVRやARが映し出され、景色が面白く演出されたり、タレントの方が同行してくれたりする。アトラクション感覚があって、既存のバスツアーが発展したケースですね」(岡本さん)

 

バスツアーではもともと乗務員がガイドを行い、旅行の価値を高めることは行われてきました。それがVRやARを駆使して一気に進化。当たり前と思っていた観光や体験のスタイルがコンテンツのDX化によって劇的に変わった瞬間でしょう。

 

「コンテンツは一様に同じものを導入すればいいというわけではないので難しい面はありますが、さまざまな領域で工夫のしがいがあるのがコンテンツ型の観光DXの特徴といえます」(岡本さん)

 

現状そのままを観光客に提示するのではなく、ここで何を伝えたいのか、どう楽しんでもらいたいのか、その本質をARやVRで補完して価値を高めていく。今後コンテンツ型の観光DXは、観光立国の切り札になりそうです。

 

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まとめ/卯月鮎 撮影/鈴木謙介(人物)

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