京都市とパナソニック エレクトリックワークス社は、既存建築物のZEB化の普及拡大を連携して行うことを発表しました。先進国の二酸化炭素排出量削減計画を規定した、京都議定書が結ばれたこの街で行われる取り組みは、低コストでのZEB化改修を実現するモデル事例を生み出すことを目的としています。その連携の内容について取材しました。
京都からZEBを普及させる大きな意義
Net Zero Energy Building、略してZEB。一次エネルギーの消費量を実質ゼロにしたビルのことです。従来では、ZEBといえば新築の建物でしか実現できないと思われてきました。しかし、LED照明や高効率の空調機器が普及したいまでは、従来では難しかった既存建築物のZEB化が可能になっています。京都市とパナソニックによる今回の取り組みは、それを普及させることを目的としたものです。
日本政府が掲げる2050年までの二酸化炭素排出量実質ゼロ。京都市もそれを実現するべく行動しています。そんな京都市にとって、ZEBは必須級のソリューションでした。というのも、京都市のエネルギー消費量の半分以上は建築物によるものなのです。
そこで京都市は、民間企業と連携して市の課題を解決する事業「KYOTO CITY OPEN LABO」の一環として、既存建築物のZEB化推進に共同して取り組む企業を募集。これに応募したのがパナソニックでした。
「外皮改修を行わずに既存建築物のZEB化改修を実現するモデル提案」。これが連携のコンセプトです。既存建築物のZEB化改修は、通常の改修と比べて高いコストがかかるというイメージがあります。しかし一定の条件を満たす建物であれば、高コストの外皮・躯体の改修をせずとも、照明や空調などの内部改修だけでZEB化が可能です。
今回の取り組みは、ZEB化の可能性調査を希望する物件の募集、精密な調査を行う物件の選定、改修手法の検討と提案というステップから構成されます。まず京都市内の市有または民間の建築物から、ZEB化の可能性調査を希望する物件を募集します。
続いて、それらの物件の築年数や延べ面積、構造などのデータを参照し、より精密な調査を行うかを精査。外皮改修なしでのZEB化の可能性ありと判断された物件では、現地調査や改修手法の検討が行われ、最終的には補助金の活用や発注方法まで含めた最終提案がなされます。
通常、図面のチェックや現地調査、改修の費用対効果検証は有償で、物件の規模にもよりますが100万円近い費用がかかります。しかし今回の取り組みでは、対象の物件に限ってそれが無料になります。近く改修を予定している物件のオーナーにとっては、応募して損のない内容といえます。
発表会に登壇したパナソニックの橋本文隆さんは、「京都議定書が出されたこの都市において、ZEB化普及の取り組みを行うことには、全国的な意義があると考えています」と語りました。京都市とパナソニックの連携は、内容以上のインパクトも秘めています。
“ZEBのショウルーム”が京都市に誕生
今回の取り組みの内容は、ZEB化の可能性調査だけにとどまりません。ZEBの認知度向上や普及拡大に向けた施策も併せて行われます。パナソニック京都ビルのZEBショウルーム化も、その施策のひとつです。
パナソニック京都ビルは、同社のショウルームやオフィスとして、12年前に竣工しました。同ビルでは、2023年3月にZEB化改修を実施。改修はビルの内部だけに留められ、通常改修とほとんど変わらないコストで、大きな省エネ化に成功しました。
このビルはオフィスなどの従来の機能維持しつつ、ZEB化改修に興味を持つビルオーナーに向けたショウルームとしても活用されることになります。
同ビルの改修では、照明と空調、さらにはソーラーカーポートの設置が主軸となりました。照明では、全館の照明をLED化したうえで、オフィス照明の照度を750ルクスから500ルクスに変更。パナソニックが独自に開発した、空間の明るさを表す指標「Feu(フー)」を用いた検証を行い、照度が落ちているにもかかわらず、人が体感する明るさは変わらないといいます。
空調の面では、室外機・室内機ともに、従来より高効率な機種に変更。外気温や時刻の変化といった環境にあわせて、運転状況を自動制御するクラウドAIシステムも導入しました。改修から間もない現在では、AIが適切な温度制御を学習しきれておらず人の手による操作も必要で、“半自動状態”だといいます。しかしAIの洗練が進めば、いずれは完全自動制御に移行する予定だそうです。
ビルの駐車場に設置されたのは、車4台ぶんのスペースがあるソーラーカーポート。このポートは蓄電池も備えており、太陽光発電による省エネに加え、非常用のバッテリーとしても機能します。EVの充電器には、EVのバッテリーに溜めた電力をビル向けにも供給できる、V2Xのシステムが搭載されています。これにより、蓄電池のみならずEVも、非常用バッテリーとして活用できます。
京都市とパナソニックが目指すのは、既存建築物のZEB化改修の“モデル事例の創出”です。パナソニック京都ビルはすでにそのモデルのひとつとなっていますが、今回の取り組みによってさらなる事例が増えることが期待されます。
このプロジェクトにはスピード感があり、2024年3月には、ZEB化可能性調査を潜り抜けた建物のオーナーに向けて、具体的な改修提案がなされる計画です。来年には、京都からのZEB化の波が生まれるかもしれません。