今夏開催される19年ぶりの日比谷野音ワンマンが、チケット販売当日に売れ切れるなどで注目を集めるサニーデイ・サービス。ベーシストの田中 貴さんはラーメン好きとしても知られ、本連載ではオススメ店を紹介していますが、今回は2017年の春まで掲載された4回分を振り返りたいと思います。
常識を覆す新発想のラーメン! 眼前で紡がれた打ち立て麺を楽しめる「七彩」
オフィス街のなかに美食の店が点在する八丁堀。働いている人はもちろん、わざわざ食事をするために訪れる人も多いとか。今回、はじめに紹介するのもそんなお店のひとつ。東京駅につながる八重洲通り沿いの一軒「麺や 七彩 八丁堀店」です。
「ラーメン好きの間で『正気?』と言われるほど斬新だったのが、注文のたびに生地を打ち、できたての麺でラーメンを作るスタイル。こねない、練らない、寝かさない。これは一般的な製法とは真逆で、型破りです。七彩の基本ジャンルは喜多方ラーメンで、本場さながらの手打ち麺のおいしさに定評があったんですが、これはある意味究極の手打ちですね。目の前で粉と水を5分程度で麺にしてしまう技は、もはやイリュージョン!」(田中さん)
ラーメンは(醤油)と(煮干)の二枚看板。前者は煮干しの苦手な人や、ラーメンビギナーの外国人に向けた王道のテイストです。「動物と魚介の相互のダシをベストバランスで合わせた、お手本のような深みのある味わいの(醤油)と、凶暴といえるほど煮干しの旨みが効いているのに、酸味があってさっぱりしている(煮干)。素材は同じでも、まったく違うおいしさ」と田中さんも絶賛するラーメンは、どちらも必食すべき一品です。
打ち立て麺のおいしさは感動的。ラーメンの麺は熟成によってコシと旨みを出すところ、同店ではそれをせずに素早く生地に仕上げています。そのため空気を含んだソフトな食感と、小麦のピュアな風味を楽しめるのだとか。
「食べ進めると柔らかな麺肌がスープを吸収し、麺自体の味わいもタイムリーに変化。さらに麺の表面が溶けることで、スープの深みに奥行きが加わります。一般的に麺がのびることはよくないといいますが、そのマイナスな状態をウマさに変える魔法が打ち立てという技。麺料理ってたくさんありますが、ラーメンでいうと太麺より細麺が好きという女性が僕の周りには多いんです。でもそれは食わず嫌いやイメージなんじゃないかなって。ラーメンの麺は、スープと同じぐらい奥が深くて多彩。そして未知なる可能性があることを、ぜひ七彩で知ってほしいですね」(田中さん)
七彩は、稲庭うどんの老舗「佐藤養悦本舗」と共同開発した「稲庭中華そば」や、東京の伝統的なご当地味噌「江戸甘味噌」を使った、個性的なラーメンを提供するのも特徴。その背景には「あまり知られていない食文化を伝えていきたい」というふたりの店主・阪田博昭さんと藤井吉彦さんの想いが込められています。
「七彩は、誰もやったことがないからあえて斬新なことに挑戦するという、そんな心意気もステキだと思います。トップレベルのラーメンを作れるからこその暴走ですよね」(田中さん)
【Shop Data】
麺や 七彩 八丁堀店
住所:東京都中央区八丁堀2-13-2
電話番号:03-5566-9355
営業時間:月〜金11:00~15:30(L.O.)/17:30~22:30(LO)、土日祝11:00〜21:00(LO)
定休日:第3火
アクセス:東京メトロ日比谷線ほか「八丁堀駅」A5出口徒歩2分
取材・文=中山秀明 撮影=三木匡宏
全国的にも珍しい濃厚牛骨ラーメンを――洒落た空間で味わえる「シマシマトム」
国技館にちゃんこ専門店など、”相撲の街”として知られる両国。実はラーメン屋の実力店が点在するエリアでもあります。そして、駅の南側に走る幹線・京葉道路を越えた脇道には「シマシマトム」が。
「オススメポイントは、まず内外観のお洒落なデザイン。店内の広さに加え、ゆとりのある空間使いも秀逸です。席同士の間隔もスペースがあり、くつろげますよ。また河野 孝店主のほのぼのとした人柄も、そのまったり感に拍車をかけています」(田中さん)
カウンターのほかにテーブル席も完備。ラーメンを味わいながら、おしゃべりも楽しみたいという女性にうれしいお店です。しばらくするとラーメンが到着。
「ラーメンの動物系スープは豚や鶏が主流ですが、ここは牛。しかも白濁系の濃厚スープでトッピングもたっぷりの牛すじと、牛全開のストロングスタイルはかなり珍しいですよ。加水率高めの中太ストレート麺も、パスタのアルデンテのようにほどよくしなやかで絶妙にマッチ! お洒落な雰囲気でありながら、ラーメンはどっしり系というギャップもたまんないっす」(田中さん)
時流などによって牛骨ラーメンの店は少なくなったそうですが、だからこそシマシマトムは希少だといいます。
「鳥取県や山口県には牛骨ラーメンの文化がありますが、関東からはなかなか行けない。牛骨は原価が高いでしょうし、サイズも大きいから仕込みからして大変だと思います。でも、牛のおいしさは昨今の肉ブームでも証明されているわけで。その贅沢な旨みが凝縮したラーメンを、この価格で提供しているのは奇跡といっていいでしょう」(田中さん)
田中さんは、シマシマトムの楽しみ方を2通りで推奨。ひとつはコスパの高さを最大限に実感できる昼の部です。なんと¥100の追加で「牛すじ丼」、「牛すじカレー」、「餃子3ヶ」のいずれかがセットに。
「ミニではなく、レギュラーサイズですよ。しかもルウは、ラーメンと同じ牛骨100%スープによるものです。牛すじもしっかり入ってこの価格で味わえるのは感動的!」(田中さん)
そしてもうひとつは夜の部。シマシマトムは深夜まで営業しているうえに、おつまみメニューとお酒の種類も充実している、飲めるラーメン店なんです。ツウの間では”ラ飲み”と呼ばれるスタイルですね。
「やはり必食は、単品の牛すじ(¥300)! 女性なら赤ワイン(グラス¥300)がオススメですが、生ビール(¥500)、ハイボール(¥400)、焼酎(¥300)と、牛すじ煮込みはどんな酒にも合いますから」(田中さん)
考えてみると、抜群においしくて雰囲気が良く、深夜営業の飲める都内のラーメン屋というのは案外少ないはず。さらに、ラ飲みデビューをしたい女性が入りやすい店となると、シマシマトムはうってつけです。
【Shop Data】
シマシマトム
住所:東京都墨田区両国4-30-1
電話番号:非公開
営業時間:11:30~14:30/18:00~翌1:00(食材がなくなり次第終了)
定休日:日祝
アクセス:都営大江戸線「両国駅」A5出口徒歩4分、JR総武線「両国駅」東口徒歩6分
取材・文=中山秀明 撮影=三木匡宏
これがラーメンの最新系! 業界屈指のクリエイターが創る「MENSHO」
東京メトロ有楽町線の護国寺駅から数分歩くと、コンクリートに「MENSHO」の文字。店内に入ると、中央にはオープンキッチンのカウンターと鉄製のスツール。無駄なものをそぎ落としたようなすっきりとしたデザインで、”引き算の美学”を感じさせるスタイリッシュなラーメン店です。
「ここはラーメンクリエイターと称される奇才・庄野智治さんの新店。彼は個性的なラーメン店を複数展開していますが、このMENSHOには度肝を抜かれました。なんと、挽きたての小麦による麺を味わえるんです。いまや自家製麺は珍しくないですが、自家製粉ってラーメン屋の領域を超えています。中華麺に不可欠の、かん水専用のマシンも置いてあってもはやラボ。特に新しいもの好きな女性にオススメですね。ラーメンの盛り付けもアートのようでフォトジェニック。挽きたて小麦の麺のおいしさに、ダシの取り方やスープの味もほかの店とは一線を画しています」(田中さん)
「潮ラーメンは動物系の素材を使わず、魚介や塩など海の食材のみで作られたスープが風味高くて激ウマ! 素材のパワーが凝縮し、魚系の香りは強烈なインパクトがあります。一方自家製粉の細麺は小麦の豊かな甘味を感じられ、旨みの強いスープに負けないしなやかさが絶妙!」(田中さん)
コンセプトは”FARM to BOWL”。庄野さんが全国を巡り食材探しをするなかで出会った生産者の想いを、丼を通してお客に伝えたいとして生まれたテーマです。メニューにはつけ麺もあり、こちらはブランド鴨の「岩手がも」と数種の野菜でダシをとり、専用の中太麺とともに味わう快作。
「ラーメンの麺より香ばしく、ザラりとした舌ざわりも印象的。つけ汁はどっしりと力強く、トッピングの低温調理の岩手がももリッチなおいしさです」(田中さん)
田中さん曰く、”野菜を食べるつけ麺”がコンセプトの系列店「麺や庄のgotsubo」も女性にオススメとのこと。ただ、ラーメンに食べ慣れた人にはより進化したおいしさを楽しめるMENSHOで、その神髄を感じてほしいとか。
「ラムを使った『自家製麺 MENSHOTOKYO』や、アメリカンな鶏専門つけ麺店『二丁目つけめんGACHI』など、庄野さんの店はどれも個性豊かで、限定の創作ラーメンも魅力的。このMENSHOも、数々の実験と試作を繰り返してきたからこそ、ここまで振り切った味わいながら違和感ないおいしさになったのだと思います。これまでの店はどちらかというと濃厚なテイストでしたが、MENSHOは繊細系。今後の展開も非常に楽しみです!」(田中さん)
【Shop Data】
MENSHO
住所:東京都文京区音羽1-17-16 中銀音羽マンシオン1F
電話番号:03-6902-2878
営業時間:11:00~15:00
定休日:火
アクセス:東京メトロ有楽町線「護国寺駅」6番出口徒歩2分
取材・文=中山秀明 撮影=若林良次
飲めるラーメン店の最高峰! 「利田商店」でその極意を知る
下高井戸駅の周辺はたくさんの飲食店でにぎわい、古くからある横丁のような一帯も。そんな味のある街の細い通路のような場所にあるのが、お酒も楽しめる「もちぶたラーメン 利田商店」です。
飲み屋で大切なのは居心地。田中さんが「仲良くなれるを超えた、仲良くならされる空間」と語る同店の特徴は、メインとなる約8人掛けのテーブル席をぐるっと囲んで座る個性的な造りと、店主の利田 昌さんが中心となって生み出す和やかな雰囲気にありました。客同士の触れ合いも生まれやすく、オープンからの常連も多いそうです。でも人気の理由は、居心地の良さだけではありません。
「メニューはどれもハイクオリティ。もはや居酒屋なのかラーメン店なのかわからないレベルです(笑)。酒の種類も豊富かつ上質なものばかりで、しかもリーズナブル!」(田中さん)
希少酒も、たとえば日本酒ならあづまみね(岩手)の純米吟醸 我が家の春(半合/¥480)など。提供価格は銘柄問わず半合で¥480です! おつまみは、運が良ければとろけるような食感と濃厚な甘味が魅力の白れば~(¥580)が出る日も。
でもやはりお目当てはラーメン。あっさりとした鶏ガラスープに魚介ダシがふんわり香り、表面には甘い背脂がたっぷり浮かんだ醤油ラーメンです。
「スープが三層構造になっていることにも注目ですよ。食べ進めると丼の底にある唐辛子ペーストが混ざり始め、エッジが効いてきて新たなウマさがリフレイン。直接関係はないんですが、味のルーツはとある京都の名店のスタイルです」(田中さん)
鶏ガラは丁寧に2日間、トータル24時間かけて深みのあるスープを抽出。ダシは昆布、カツオ、どんこ、スルメイカなどを使い、毎日約4時間をかけて香り高いエキスを生み出しています。そして提供直前に、アジや煮干しなどの魚粉を加えてよりふくよかな風味をプラス。加水率が低めの、ポキっとした細ストレート麺が良く合います。
「横丁にあるような昔ながらの居酒屋や、大衆酒場って昔は男の世界だったと思うんです。でも最近、女性がそれらのお店にいるのを見かけるようになりましたよね。これってラーメン店にも同じことがいえるし、だからこそもっとラ飲みの魅力を知ってほしいんです。ただ、ラ飲みができるウマい店はそう多くない。まぁおいしければ当然人気も出るので飲むのは気が引けるんですが、夜遅めが狙い目だったりするんですよ。この利田商店みたいに、ラ飲みウェルカムなところもありますから」(田中さん)
【Shop Data】
もちぶたラーメン 利田商店
住所:東京都世田谷区松原3-42-1 小谷ビル1F
電話番号:080-1153-5513(予約可)
営業時間:18:00~翌12:30
定休日:水、日
アクセス:京王線ほか「下高井戸駅」西口徒歩1分
取材・文=中山秀明 撮影=三木匡宏
今回は、進化系ラーメンやラ飲みできるお店も登場しました。印象的なのは、ラーメンのおいしさはもちろん個性的な店主のキャラクター。今後もそんな魅力あふれるお店をどんどん紹介していきます!
【Profile】
田中 貴
2008年に再結成を果たし、以来ライブを中心にマイペースながらも精力的に活動を続けるサニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとして知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては2016年8月3日に通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』を発売した。2017年は3月15日には、同作品のなかでも屈指の美しいメロディーをもつ春曲「桜 super love」を中心に編んだ10曲入りEPと、限定のアナログ7インチシングルをリリース。そして19年ぶりとなる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブが8月27日に開催決定し、チケットは発売当日に完売した。
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