グルメ
ラーメン
2017/7/29 17:00

本場以上の王道スタイル! 真の「函館塩ラーメン」を味わえる荻窪「五稜郭」

ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く田中さんが、女性にイチオシのお店を紹介するとしたら? そんな発想からはじまった本企画。今回は、塩ラーメンファンや函館出身の方に必見の内容です。

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函館出身の店主が地元愛全開でオールドスタイルの一杯を提供

降り立ったのは荻窪。駅の北側から東西に延びる青梅街道を超え、教会通り商店街という小道を進んだ左側にある「函館塩ラーメン 五稜郭」です。味わい深い緑色ののれんをくぐると、そこは函館一色の空間。名所や名物を紹介するVTRが流れ、地元関連のポスターなどがズラリ。

 

「店主の山本 大(まさる)さんは、函館市五稜郭町の出身。偶然にも、うちのバンドでサポートをしてくれている、キーボーディストの高野勲くんと出身校が一緒なんですよ。五稜郭が以前八幡山にあったころから僕は行ってたんですが、後からその接点を知って、より親睦が深まったというエピソードがあります」(田中さん)

カウンター7席の店内。いたるところに函館愛を感じさせるアイテムがズラリ
カウンター7席の店内。いたるところに函館愛を感じさせるアイテムがズラリ

 

そしてラーメンは、店名にもあるように塩味のみ。さらにいえば、基本のラーメンはこれ一品という潔さです。田中さんに聞くと、そのこだわりは抜きんでているようで。

 

「函館にもライブで何度も訪れてるんですが、その度に時間を見つけてラーメンを食べ歩いてます。でも、この20年ほどで、観光客向けに魚介のスープや、海鮮の具がのったような本来の函館ラーメンとは違うスタイルの店が増えているんですよ。そこにあって、五稜郭は山本店主が子どもの頃に食べていた本来の函館ラーメンのスタイルを追求しています。昔からの名店の多くが閉店した今、ここまで徹底した王道の函館ラーメンは本場函館でもなかなか食べられませんよ」(田中さん)

「ラーメン」(¥750)。函館でラーメンといえば塩。そのため、あえてメニュー名に「塩ラーメン」とは書きません。そんなところも真の函館ラーメン店といえるでしょう
「ラーメン」(¥750)。函館でラーメンといえば塩。そのため、あえてメニュー名に「塩ラーメン」とは書きません。そんなところも真の函館ラーメン店といえるでしょう

 

ダシのベースは魚介ではなく豚骨清湯。これぞ函館ラーメンの真骨頂!

函館ラーメンといえば塩味ですが、その理由は食文化にあるとか。この地はかつて横浜や長崎と並ぶ国際貿易拠点であり、中国・江南出身の華僑が多く行き来していた港町。それもあって、明治時代から中華料理店が多くあり、そこでは東京の浅草で生まれた醤油ラーメンとは関係なく、広東料理をベースにした塩味の湯麺(タンメン)が食べられていたそうです。その特徴は、豚骨の清湯(チンタン)によるクリアなスープに、まっすぐな細麺。これが伝統的な函館ラーメンのルーツなのです。

 

「そう。海の幸が豊富なので魚介だと思われがちですが、本来の函館ラーメンは豚骨を弱火で炊き、丁寧にアクと脂を取り除いた繊細な清湯スープが軸なんですよ。また、塩は醤油や味噌よりもうまみが多くないので、素材の味がダイレクトに伝わりやすく、ラーメンの味作りも難しいです。そこにあって、ハイレベルな一杯を提供する山本さん。函館伝統の『出口製麺』を使う、お麩をトッピングするなど本場のスタイルを忠実に踏襲し、丁寧に手間暇かけてスープを炊くことによって、この美しいラーメンを作り上げています」(田中さん)

麺は函館の「出口製麺」から空輸で。北海道以外の函館ラーメン店でここまで追求しているのは、五稜郭だけです
麺は函館の「出口製麺」から空輸で。北海道以外の函館ラーメン店でここまで追求しているのは、五稜郭だけです

 

同店のスープは清湯をベースに少しだけ鶏ガラを加え、函館の真昆布、猿仏産のホタテ貝柱、スルメイカ、干しシイタケでほんのりとうまみをプラス。塩は長崎の五島列島産1種類のみで、油はほとんど使わずに滋味深い味わいを生み出しています。基本のラーメンはひとつですが、ここならではのトッピングが「がごめ(とろろ昆布)」。

「がごめ(とろろ昆布)」(\150)。主に函館の東海岸に生育している珍しい昆布で、同店では南かやべ産を使用。強い粘り気や豊かなうまみが特徴です
「がごめ(とろろ昆布)」(\150)。主に函館の東海岸に生育している珍しい昆布で、同店では南かやべ産を使用。強い粘り気や豊かなうまみが特徴です

 

「ラーメン」+「がごめ(とろろ昆布)」(\900)。スープという名の海で戻された昆布はまろやかなうまみを放ち、とろりとした食感を醸し出しながら一帯をやさしく染め上げていきます
「ラーメン」+「がごめ(とろろ昆布)」(\900)。スープという名の海で戻された昆布はまろやかなうまみを放ち、とろりとした食感を醸し出しながら一帯をやさしく染め上げていきます

 

「函館ラーメンは、この出口製麺と岡田製麺が二大巨頭。僕は特に出口製麺の麺が好きなんですが、低加水だからか、麺にスープが絡むというより、麺がスープを吸うことによって麺とスープの一体感が出るんです。今日、数ヶ月ぶりだったんですけど、以前に増して美味しさが進化している気がします!」(田中さん)

 

実は山本さん、麺が空輸で運ばれる間に熟成が進み、函館で味わう食感との誤差が若干生じることに気づいたとか。そこで出口製麺とコミュニケーションをとりながら、何度か試行錯誤を重ねて加水率を調整。ギリギリのところまで下げ、熟成がなるべく止まるようにさせたそうです。

山本 大店主。ラーメンと函館への想いは人一倍熱いですが、田中さんも負けてはいません。そのエピソードとして以前モモとバラ肉を1枚ずつ2種のチャーシューでラーメンを作った際、田中さんより「バラ肉は函館では邪道じゃない?」とアドバイス。山本さんは思い直し、モモ肉2枚に戻したそう
山本 大店主。ラーメンと函館への想いは人一倍熱いですが、田中さんも負けてはいません。そのエピソードとして以前モモとバラ肉を1枚ずつ2種のチャーシューでラーメンを作った際、田中さんより「バラ肉は函館では邪道じゃない?」とアドバイス。山本さんは思い直し、モモ肉2枚に戻したそう

 

ラーメン以外にも郷土愛が満載!塩好きと北海道出身者なら行くべし

麺メニューは基本的にラーメンだけと述べましたが、実は夏季限定の一杯が。「冷し塩ラーメン」です。こちらはラーメンと同じ麺を冷水でしっかりしめることで、よりコシの強い食感に。またスープは鶏ガラを中心にしながらゼラチン質が出ないよう丁寧に焚き、えごま油で一層ヘルシーに仕上げています。そしてベビーリーフ、トマト、キュウリ、レモンなどが鮮やかさを演出。

「冷し塩ラーメン」(¥900)。相性がいいという「青唐辛子トッピング」(¥50)を添えて
「冷し塩ラーメン」(¥900)。相性がいいという「青唐辛子トッピング」(¥50)を添えて

 

「夏場でもそこまで暑くならない函館に、伝統的な冷やし麺はないんですよね。でも、東京は暑いということで考案したのが函館ラーメンをベースにしたこの一品。醤油ベースの酸っぱい冷やし中華やつけ麺ではなく、函館がもっと暑かったらこんなラーメンが出来てたんじゃないかなと想像して作ったそう。ここにも山本さんの郷土愛をひしひしと感じるなぁ。ちなみに、ラーメン以外の通年メニューでイチオシなのが『いかめし』(\200)。函館名物のいかめしはイカの胴身にご飯を入れて焚きますが、ここでは食べやすいようにあえて炊き込みご飯スタイルで提供してくれます。あと嬉しいことに、北海道でしか飲めない限定のビールがここでは飲めるんですよ!」(田中さん)

「サッポロクラシック」(¥400)。北海道限定で発売されているこの缶ビールを特別に取り寄せ、提供するという心意気も素敵です。北海道出身の方はぜひこのビールも!
「サッポロクラシック」(¥400)。北海道限定で発売されているこの缶ビールを特別に取り寄せ、提供するという心意気も素敵です。北海道出身の方はぜひこのビールも!

 

なお、最後に同店が女性にオススメな理由を聞くと、田中さんからこんな答えが。

 

「この連載では、女子も意外とこってりしたラーメンが好きな人が多いんじゃないかと、濃いめのラーメンを紹介してきましたが、たまにはあっさりした塩ラーメンも紹介しようかなと。でも、一般的な女子向けラーメン特集で取り上げられる塩ラーメンって、香味油がたっぷりかかってたりして、実はちっともヘルシーじゃない。本当にシンプルで美味しい塩ラーメンというと、僕は真っ先に五稜郭を思い出すんです。また、本格的なご当地ラーメンを東京で味わえる貴重な店ですし、ここのラーメンを食べて、全国のいろんなラーメンに興味を持ってもらえたらなという思いもあります」(田中さん)

 

荻窪は、古くは東京屈指のラーメンの街といわれ、いまも数多くの老舗や名店がひしめき合っています。ただ、その多くは醤油味。世のあっさり塩ラーメン好きの女性は、ぜひ五稜郭へ!

 

取材・文=中山秀明 撮影=若林良次

 

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