ラーメン好きミュージシャンが、一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム━━━
サニーデイ・サービス 田中 貴のラーメン狂走曲「道頓堀 [成増] 」
ラーメン好きが「成増」と聞くとまずイメージするものは、間違いなく「道頓堀」。これ常識。そして、成増の人が「ラーメン」と聞いてイメージするものも間違いなく、「道頓堀」である。
田中 貴
2008年に再結成を果たし、以来ライブを中心にマイペースながらも精力的に活動を続けるサニーデイ・サービスのベーシスト。ストリーミング配信のみで発表した「Popcorn Ballads」を、12/25にCDおよびアナログ盤として発売。配信時の収録内容から大幅に改訂され、全25曲100分超の壮大なアルバムになっている。
食べれば食べるほどに深みが感じられる一杯
僕が道頓堀のラーメンを食べたときの一口目の感想は、いつだって「ふはーウマイ……」だ。近くないのでそんなには行けないが、どんなラーメンかは知っている。おいしいことがわかっていて食べるのに、毎回その期待をちょっとだけ上回る。「うん、やっぱりウマイね」じゃない、じんわり驚く「ふはーウマイ……」。これはまさに、味が進化し続けているということにほかならない。
道頓堀は1984年に創業。元々ラーメン好きだった庄司武志さんが独学で味を作り、なんと21歳の若さでオープンさせた。
「あの頃は、春木屋、丸福あたりが有名で、恵比寿ラーメンも人気でしたね。あとはコッテリ系のホープ軒、この近くだと土佐っ子が大行列でした」
懐かしい名前が並ぶ。色々食べ歩いたなかでも、東池袋の大勝軒が一番好きだったそう。確かに道頓堀の味には、故・山岸氏が作り上げた大勝軒の中華そばへの思いがうかがえる。
「昔の大勝軒は、そんなに魚介は強くなかったんですよ」
道頓堀の中華そばは、豚骨、鶏ガラが控えめながらもしっかりとベースを作り、魚介のシャープな味わいが前面に出た味わい。背脂豚骨ラーメンがグイグイと人気を出してきた時代に、若いラーメン店主が、ほかにないほどに魚介を際立たせたオリジナリティのあるラーメンを出してきたのは、当時かなり斬新だったはずだ。
地元の人に愛されるもうひとつの理由
数十年間も行列が絶えない大人気店だが、この店の行列はほかの人気店とは少し違う。地元の人がたくさん並んでいるのだ。常連さんが並んででも食べに来るのは、味プラス、庄司さんの人柄も大きい。僕も帰り際にこう声をかけられた。
「楽しかったー。ありがとね。今度田中さんにはいつ会えるかな?」
屈託のない笑顔でこんなことを言われたら、返す言葉はひとつしかなかった。
「ウマかったです! またすぐ食べに来ます!」
この味にこの笑顔。本当においしいラーメンは味だけじゃないのである。
これも味わいたい!
この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!
とんねるず「バハマ・サンセット(New Version)」
成増の地名を全国に知らしめたのはとんねるず。石橋貴明が生まれ育った成増への思いを歌い上げる1985年の名曲。道頓堀のオープンがもう数年早かったら歌詞に登場していただろう。アルバム「成増」に収録。
【店舗情報】
中華めん処 道頓堀
住所:東京都板橋区成増2-17-2
営業時間:11:00〜14:00頃、17:30〜20:00頃(いずれもスープがなくなり次第終了)
定休日:水・木曜日(第2木曜日の昼、第3木曜日の昼は営業)
取材・文/田中 貴 撮影/高原マサキ(TK.c)