「いいワイン」をどうやって選んだらいい? それはワイン好きにとって永遠のテーマですね。
自分用はもちろんですが、大切な人にプレゼントする、お呼ばれしたホームパーティーに持ち込む、そんなワインならなおさら失敗したくないもの。“私好み”や、“あの人に合いそう”など、そういった誰かにぴったりのワインこそ、“素敵なワイン”と表現して出会いを切望するものです。
ならば、「ワインの産地やブドウ品種の特徴を覚えればいいの?」「ラベルから情報を読み取れるようになればいい?」
ワインの資格を望むならまだしも、それは少々ハードルが高いように思います。そもそも“失敗しない”つまり“ワイン選びの成功”とは、おいしいと感じるかどうかを大前提として、自分の好みに合っているかどうか。詳しい知識を身につけたところで、ぴったりのワインを見つけるのは、やはり難しいものです。
ところが、意外なほど簡単に高確率で、自分好みのワインに出会える方法があるんです。それは、「ラベル」。
ほら、やっぱり? いえいえ、表のラベルではなく、“裏ラベル”をチェックすること。そこに表示された、「輸入業者」がキーワードなんです。
顔が見えるシャンパン輸入の先駆者
現在日本には、ワインを世界各国から輸入する業者“インポーター”が数百社存在しています。その規模はさまざまで、数十人の営業マンを抱える会社から、熱意のある創業者がたったひとりで営む会社まで。フランスワインを多く輸入しているところもあれば、アメリカのワイナリーと繋がりが強いところもあり、取り扱うワインは実に多種多様です。
私たちが日本で口にする大多数のワインは、このそれぞれのインポーターのバイヤー、もしくは小規模なところでは社員全員がその味わいに納得をした上で輸入が決定されたもの。つまり一度は必ず、インポーターというフィルターを通したものなのです。
ということは、自分の好みに近い特徴を持つフィルター、つまり“インポーター名”を知ることが、自分好みのワインを選ぶ上でもっとも簡単な手がかり。さらに、輸入ワインの裏ラベルには必ず、輸入業者を記載する義務があります。ブドウ品種や地名など、ワインによって書かれている情報がバラバラの表ラベルとは違い、「輸入業者」は必ず私たち消費者が知ることのできる情報なのです。
新しい年を迎えるこの時期、テーブルに登場する回数の多いワインといえば、やはりスパークリングワインでしょう。今回は、スパークリングワインの王道であるシャンパンを日本へ輸入し続けて12年、さらにシャンパンのなかでも「RMシャンパン」というカテゴリーにほぼ特化し、その魅力を伝えるインポーター「ヌーヴェル・セレクション」をたずね、創業者であり代表取締役社長の上田巨樹さんにお話を聞きました。
約1000軒の造り手を訪問して見えたもの
「RMシャンパン」をご存知ですか? RMとは、フランス語の「Recoltant Manipulant」の略で、これは、よく知られたブランド名を持つ大手メーカーのシャンパンとは、対照的な存在。大手シャンパンブランドのスタンダードクラスのほとんどが、大量のブドウを“買い付けて”造られるのに対し、RMシャンパンは、ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを自社が一貫して行っています。いわば“造り手の顔が見える”シャンパンのことなのです。日本では、“RMシャンパン”という単語こそまだ浸透していないものの、現在日本へ輸入されているRMシャンパンはすでに700軒を越えているそうです。
東京・池袋に本社を構えるヌーヴェル・セレクションは、12年前の創業当時から高品質なRMシャンパンを日本へ輸入しています。
「当時はRMシャンパンの黎明期で、日本にはまだ60軒程度の造り手のものしか輸入されていなかったと思います。私は創業直前まで、ブルゴーニュ地方に前職のバイヤーとして4年間駐在していて、そこからシャンパーニュ地方は近いのでよく足を運んでいました。“シャンパン”とひと口に言っても、RMのものはそれぞれの造り手、畑、地形などによって個性が千差万別。さらにRMでも、良質なものとそうでないものがありましたし、本当に素晴らしいものをぜひ日本に紹介したいと思ったんです」(上田さん・以下同)
創業者であり、現在もバイヤーとして現地にたびたび足を運ぶという上田さん。なんと創業からこれまでに訪問したRMシャンパンの造り手は、1000軒を越えるそう。そんな上田さんが厳選したRMシャンパンは、ちょっと目を引く素敵なラベルや、ボトルの形状に特徴があるものが多く、そのあたりのバイヤーとしてのこだわりを聞いてみました。
「ワイン全般にいえることですが、シャンパンも教科書どおりには造れません。年によって天候も変化するし、醸造の段階でもちょっとしたタイミングには人のセンスが不可欠ですよね。そのセンスが、最終的な味わいにかなり影響すると思っているんです。同じく、ラベル選びも造り手のセンス。無限の選択肢の中から、その色を選びそのデザインを選ぶわけです。私の個人的な経験からですが、味わいに納得できるシャンパンは、そのラベルや見た目のクオリティーも高いものが多いように感じています」
ワインを“ジャケ買い”することは、一見素人の選び方のようにみえて、実は1000軒訪問した経験をもつプロのバイヤーでも実践している大事なポイントだったようです。
絶対的なこだわり、それは「畑」を見ること
「ラベルやワイナリー全体の雰囲気で大体のセンスは分かりますが、もちろんそのあとに真剣にテイスティングします。でももっとも大切なことは、畑を見ることなんです」
RMシャンパンの最大の特徴は、ブドウ畑を造り手自らが管理しているということ。農薬や化学肥料などに極力頼らず、しっかりと人の手で手入れされた畑はほどよく雑草が生え、土がふかふか。土の中の微生物も活性化していると言います。大手メーカーに毎年大量に買い付けられるブドウ、その広大な畑のすべてがこのように手入れをされることは、物理的にも不可能です。RMシャンパンの最大の魅力は、毎年丁寧に育てられたブドウでその土地の個性が味わいに表現されるということなのです。
「ただ、すべてのRMの造り手がそのように手入れしているとは限りません。RMシャンパンだからすべて良質、ではない。だからこそ、畑を見るのです」
そこで肝心なことを聞いてみました。採用に至る味わいのポイントとは?
「味わいに気品があるもの、奥行きと深みがあるものですね。そして何より”個性“のあるもの。すべて品質が高くても、似ている味ばかりならそんなに種類はいらない。せっかくこれだけ選べる時代になったので、違いが楽しめるということを大切にしています」
ヌーヴェル・セレクションのRMシャンパンは、飲めばその畑の風景が目に浮かび、現地の空気感の違いを感じる。そんな風に楽しみたいと思わされます。
造り手とインポーターは“仲間”という意識
「上田さんが12年前に最初のRMシャンパンを輸入する際、どんなポイントが決め手だったのですか? まずは日本市場に受け入れられやすい味わい、とか?」そんな質問に、第一線で活躍するインポーターならではの熱い思いが返ってきました。
「市場ウケ、とかじゃないですね。実は、単純に仲良しだったところから(笑)。もちろん品質が伴うことは言うまでもありませんが。今では約40軒の造り手と取引がありますが、彼らは”取引先“ではなく、”仲間“です。ときどき彼らが来日して1週間程度日本全国を一緒にプロモーションして回るのですが、無事に終わったあとは、うちのスタッフもみんなで抱き合って泣いちゃったりするほどなんですよ(笑)。」
ヌーヴェル・セレクションは現在、スタッフ10名。毎年何人かの社員が上田さんの現地訪問に同行し、造り手と交流を持つことに心がけているそう。上田さんだけでなく、スタッフの皆さん全員が造り手の熱意を肌で感じています。
「誠実に、真面目に働いている造り手と仕事したいですよね。シャンパンは華やかな飲み物ですが、決して彼らは自分たちが主役だと思っていない。どういうお料理に合わせて欲しいとかそういった視点よりもむしろ、幸せを感じる場面に花を添える、そういう瞬間を演出するものとして飲んで欲しい。真面目な造り手は、みなそう思っています。」
シャンパンをはじめワインはまだまだ格式の高いお酒というイメージがあります。でもどういう料理と、どういう形状のグラスで……、そういったマナーの類からはちょっと解放されて、もっと気軽に、ただ幸せを感じながら楽しむだけでもいいのではないでしょうか。「造り手さん本人もそれを望んでいる」ということを、上田さんのおかげで私たち消費者は知ることができたのですから。
インポーターが得た信頼のおかげで“素敵なワイン”を選べる
現在ヌーヴェル・セレクションは、シャンパンのみならずスペインのスパークリングワイン ”カバ“、イタリアの”プロセッコ“も同じ視点で輸入をしています。その他、ブルゴーニュワインも得意とし、最近ではオーストリアワインの種類も豊富です。
上田さんの買い付けるワインの中には、現地でも入手困難と言われるものが少なくありません。「ヌーヴェル・セレクションだから、日本での販売を任せる」。そう思っている造り手も多いことでしょう。上田さんの熱意と人柄なくしては、実は私たち日本の消費者は口に運ぶことすらできないワインがたくさんある。インポーターとは、そういう存在なのです。
取材・文=山田マミ 撮影=田口陽介
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