乗降客数世界一、といえば新宿駅だ。都庁や大企業のビルがひしめく一方で、古きよきディープなスポットが混在する街であり、特に有名なのが「新宿ゴールデン街」と「新宿西口思い出横丁」である。どちらも個性的な飲食店でにぎわうが、駅に近い後者には昼夜問わず様々な人々が思いおもいの時間を過ごす。今回は、そんなグルメ激戦区にあって高い人気を博す街中華「岐阜屋」を紹介したい。
戦後すぐオープンした横丁内の老舗街中華
店舗は横丁内でも青梅街道や「新宿大ガード」から近いゾーンにあり、その構造には特徴がある。中央に段差があるうえ、出入口は横丁内の狭い通路からと線路側の2か所。まるで、ふたつの店をくっつけてひとつにしたような空間なのだ。
全席カウンターとなるが、路地側の一角にはメインの席から離れたL字型の小カウンターが設けられているのもユニーク。界隈には数席のみのこぢんまりした店も多いが、このように「岐阜屋」のスペースは広く約55席と多め。飲まずに麺やご飯類をサっと食べて出ていく客もいるため回転率がよく、入りやすいのも魅力である。
聞けば、オープンしたのは1947年。思い出横丁自体が1946年ごろにできた闇市がルーツのため、最古参のひとつといえよう。開業当初の客席は、実はL字型カウンターのみだったとか。その後数回の増改築を経ていまの形に。だから同店は、個性的な店舗設計になっているのである。
飯も酒も進む高コスパの料理がズラリ
朝9時から通し営業していることもあって、日中から酒を楽しんでいる客が多い。そのため定食の形になっているセットはなく、全メニューが単品でオーダー可能。どれもボリューム満点で、それらをアテに飲むことができる。なかでも人気なのは「木耳と玉子炒め」だ。
きくらげはコリっと、卵はふっくら、肉はジューシー、野菜はシャッキリ。これらの食材を、やさしく包み込んで一体化させるのがとろっとしたあんだ。強火で手早く炒めることによる絶妙な食感のコントラストは、熟練の妙技といえよう。
麺類も非常にリーズナブルで、「ラーメン 並」なら420円で味わえる。破格の理由は、親会社が高円寺で製麺所を営んでいるから。「岐阜屋」で使用される麺は平打ちのタイプ。締めにラーメンをすするのもいいが、酒のつまみとして楽しむなら「やきそば」がオススメだ。
味付けはソースではなく、塩をベースにしたあっさり系。ただ、隠し味にしょうゆを効かせているのでうまみは十分あり、なにより素材の味を存分に楽しめる。これならつまみとしてもアリだし、締めに食べても重くない。思い出横丁でラーメンや焼きそばといえば「若月」という選択肢もあったが、同店が2018年初に幕を閉じたいま「岐阜屋」にかかる期待は大きい。
当然、酒のアテは圧巻の充実ぶり。「餃子」(400円)をはじめとする点心や中華小皿のほかに「牛もつ煮込み」(360円)、「梅キュー」(360円)などの酒場系つまみも豊富。これだけ多彩なメニューのなかで、特に名物といえるのが「蒸し鶏」だ。
メニュー名こそシンプルだが、柔らかい鶏モモ肉を蒸して余分な脂を落とし、ほぐして冷やすという手の込んだ調理法が用いられている。そして味付けも秀逸。ごま油の香る塩ダレにポン酢を効かせることでさっぱりさせ、たっぷりのねぎと粗挽き黒こしょうでパンチをプラス。味変アイテムとして、練りからしを添えてくれる心配りもうれしい。
なお、店名の由来を聞くと初代が岐阜県出身だからと坂田店長が教えてくれた。戦後の混乱期に闇市からはじまった小さな飲食店は、いつしか世界中から客が訪れる街中華となった。そんな「岐阜屋」には、今日も学生から社長まで様々な老若男女が飲み語らっている。眠らない街で空腹を感じたり飲みたくなったら、ぜひここに立ち寄ってみてほしい。力まないおいしさと、ホっと落ち着く空間が待っている。
【SHOP DATA】
岐阜屋
住所:東京都新宿区西新宿1-2-1
アクセス:JRほか「新宿駅」西口徒歩3分
営業時間:月~水、日曜9:00~翌1:00 / 木~土曜9:00~翌2:00
定休日:無休