ラーメン好きミュージシャンが、一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム━━━
サニーデイ・サービス 田中 貴のラーメン狂走曲「らーめん天神下 大喜[仲御徒町]」
2000年代前半のラーメンブームの絶頂期には、数百メートルの行列が出来たという大喜。そんな日本有数の名店が、昨年、道路拡張のため移転。駅からは若干遠くなったが、人気は変わらず、マニアからも絶大な支持を受けている。
田中 貴
3月に発売したアルバム「the CITY」を18組のアーティストが解体/再構築したプロジェクト「the SEA」。本プロジェクトの曲をまとめたアルバムを8月8日より配信、29日にアナログ盤で発売している。
和食を20年、ラーメンを20年。大ベテランが作る一杯とは
中華、和食、イタリアン、フレンチなど、ほかの飲食業からラーメン業界に移る人は多い。ラーメンには、スープ、麺ともに、とてつもない数のバリエーションがあり、それだけを長年研究し続けている人が作るラーメンは魅力的だ。その一方で、ラーメン以外の料理の経験者は、ラーメンには普段使わない素材や技法を使うなど、生粋のラーメン職人にはできない独創的なラーメンを作り上げる。
ここ「らーめん天神下 大喜」の武川数勇店主は和食出身。それも、20年に渡り日本料理店にいらしたというのだから、「和食経験者」なんて紹介は失礼にあたるほどの大ベテランだ。和食出身の人が作るラーメンといえば、こんぶやかつお節などの「出汁を引く」技法を使った美しく澄んだスープに、鯛など和のテイストをプラスした上品なものがイメージされる。しかし、大喜の人気メニュー「とりそば」は、器と盛り付けにこそ和のセンスを感じるが、見た目と裏腹などっしりとした鶏の旨味が満載で、これぞラーメンという醍醐味にあふれている。物事を突き詰めた職人は、そのスキルをわかりやすく出すことはしないのだろう。豊富な経験と技術に基づきながらも、武川さんの思い描く“ラーメン”を作り上げているのだ。
種類豊富な大喜のメニュー……迷ったときはこれしかない!
大喜は来年で創業20周年を迎え、武川さんにとって独学で一から始めたラーメンにおいても、大ベテランの域に入っている。ベーシックな塩の「とりそば」と「醤油らーめん」が年々研ぎ澄まされていくのに対し、大喜のもうひとつの名物である限定メニューでは、常に斬新なラーメンにチャレンジし続けている。
「納豆らーめん」や、濃厚鶏白湯の「純とりそば」など、定番化されているものもあり、 数あるメニューから何を食べるか毎回悩まされる。さらに夜は、武川さんのセンスが光る一品料理に合わせてお酒がいただける、「飲めるラーメン屋」となるため混乱の極み。スタンダードを素直に楽しむか、いまだけの一杯か。「メニューにないけど、納豆の冷やしもできるよ」と武川さんからさらに困らせる言葉が。こうなったら、解決策はひとつ。2杯いただくのだ。これで、大満腹、大満足、大喜びなのである。
これも味わいたい!
この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!
LOUIS JORDAN「IT’S A GREAT GREAT PLEASURE」
ロックンロールの誕生に多大な影響を与えた斬新さを持ちながら、上品さとユーモアも感じさせるルイ・ジョーダン。聴く者にまさに大きな喜びを与えてくれる。
【店舗情報】
らーめん天神下 大喜
住所:東京都台東区台東2-4-4
営業時間:[月~金]11:00〜15:00、17:30〜22:00[土]11:00〜15:30、17:30〜21:00[祝]11:00〜16:30
定休日:日曜日
取材・文/田中 貴 撮影/黒飛光樹(TK.c)