日本酒が「オジサンの飲みもの」だった時代はとうの昔。いまやヨーロッパの星付きレストランでオンリストされるなど、世界中から注目が集まっています。若くて革新的な作り手も増えてきて、どんどん洗練されてきた感のある日本酒は、実は「グラスで飲むとおいしい」のをご存知でしょうか?
オシャレで雰囲気がいいのもありますが、それだけではありません。そのメカニズムや味わい方について、日本酒をワイングラスで楽しめるお店、東京・赤坂の「れくら」を取材しました。
酒のチカラを引き出す!「ワイングラス×日本酒」の奥深さ
素材からこだわった和の酒肴と、全国の蔵元から厳選した日本酒を味わえる「れくら」。ほのかな灯りと和素材が生み出す大人のムードたっぷりで、ゆっくりと上質な時間を過ごせるお店です。
日本酒×ワイングラスの魅力について教えてくれたのは、店主の渡邊新之(しんじ)さん。蔵元や銘柄はもちろん、含まれている成分など科学的なアプローチにも余念のない、まさに求道者です。
「おちょこやコップで飲むよりも、日本酒が本来持っている複雑な香りが“ふわっ”と開きます」と語る渡邊さん。ワイングラスで飲む最大の理由は“香り”にあるとか。いまでこそワイングラスで日本酒を提供するお店は少なくありませんが、渡邊さんはその先駆け。
「従来の“もっきり”(枡+コップに日本酒を注ぐ方法)では、香りがぜんぜん楽しめない…」と思ったのが、ワイングラスで提供しようと思ったきっかけとのこと。渡邊さんはかつてモルトバー(主にモルトウィスキーを扱うバー)で働いたキャリアもあり、だからこそ“香りを楽しむ”海外のお酒のスタイルを採り入れる発想が生まれたのかもしれません。
「れくら」では、ワイングラスの名門「リーデル」製の日本酒専用グラスを使用。脚つきのグラスと、脚のないものを使い分けています。そのポイントとなるのは“温度”。
「うちでは酒質によって、ふたつの冷蔵庫を使い分けて保管しています。低いほうは0℃、もうひとつは5~8℃くらいですね」(渡邊さん)
脚つきのグラスは、低温度帯で保管されたお酒用。味わいや香りが華やかで、冷酒でおいしいお酒が中心。脚の部分を持つことで、手の温度がお酒に伝わりにくく、冷たさをキープすることができます。
いっぽう脚のないグラスは、少し高めの温度帯用。グラスを通して手の温度が伝わりやすく、それによって味や香りが開き、おいしくなるのだとか。こちらは濃醇でどっしりとした、うまみの強いタイプが中心。
ちなみに、リーデルのワイングラスは、ブドウ品種に合わせた多彩なラインナップがあります。この「大吟醸」グラスの形状は、ワインでいうとリースリング(白ワインのブドウ品種のひとつ)に近いとのこと。フルーティな香りやキリッとした酸味があって、輪郭がはっきりしているリースリングのワインは、日本酒に似ている部分があるのでしょう。