グランドキリンには発明と呼べる製法が用いられている
ここまで、3つのグランドキリンを商品例に話を聞きましたが、同商品はそれだけホップにこだわっているということがわかります。そしてさらに話を聞くと、素材としてのホップだけではなく、製法でもキリン独自の手法が用いられているのだとか。
「グランドキリンが誕生した2012年、同時に生み出された技法が『ディップホップ』です。これまで、ホップの使用法については基本的に2つが主流でした。ひとつは、醸造工程における煮沸の後にホップを入れることで、穏やかな香りをつける『レイトホップ』。日本でなじみ深いピルスナースタイルなどによく用いられています。そしてもうひとつの使用法は『ドライホップ』。ビールの発酵後、貯蔵させるタイミングでホップを添加させる技法ですね」(杉村さん)
「ドライホップ」は香りが強めにつく特性があるとか。そのためIPAをはじめ、ホップの個性を特徴とするビアスタイルに重宝されています。では、新たに生み出したディップホップとは?
「醸造工程においては、煮沸が終わって冷ました後の初期発酵時にホップを添加する手法です。ドライホップは香りはつきやすいのですが、一方でクセやトゲのある松ヤニ系の『ミルセン』という香り成分もついてしまいます。その『ミルセン』がつきづらく、それでいて爽やかでフローラルな『リナロール』という香味をしっかり付与できるのが『ディップホップ』なのです。つまりはレイトホップとドライホップのいいとこどりというわけですね」(杉村さん)
このロジックはこれまで明確に立証されてなく、“理由ははっきりしていないけどディップホップはスゴい”という状態だったとか。それが最近、ついに解明されたとのことです。土屋さんが教えてくれました。
「今夏、『ディップホップ製法と発酵の関係』という研究成果を『Brewing Summit』という国際的なビール醸造学会で発表することができました。内容は、発酵促進と2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール(2M3MB、(ビールのタマネギ臭)の低減という、ふたつの効果です」(土屋さん)
「タマネギ臭については、発酵中の生成に原因があります。発酵時にイオウのような香りの硫化成分が生成されると、2M3MBも生成されるのですが、『ディップホップ』によって硫化成分の生成が抑制されるという研究結果が出ました。『ディップホップ』によって液中の炭酸ガスが減少すると、その炭酸ガスが抜ける際に硫化水素も一緒に抜けていくと考えています」(土屋さん)
「より違いがわかるように」ということで、「ドライホップ」と「ディップホップ」、それぞれの製法で仕上げたサンプルを比較させてもらえることに。
発酵を促進させ、不快臭を抑える「ディップホップ」をフル活用したビールがグランドキリン。事実としてこの製法は独自のもので、少なくとも国内ではキリンしか採用していないそうです。
「ディップホップ」は限定のグランドキリンやSVB(スプリングバレーブルワリー)ブランドでも採用されています。今回紹介した3商品については冬季限定の「違いを体験!香るパーティーBOX」や、公式オンラインサイト「DRINX」でも「3種のGRAND KIRIN体験BOX」(4本1280円)として発売されているので、ぜひチェックを!