“伝説の家政婦”として、テレビ番組などで活躍中のタサン志麻さん。出演するテレビ番組では、3時間で10品以上の作り置きメニューを作る様子が紹介されていて、この人は魔法使いか、と! しかも、どの料理もおいしいと評判です。見た目もおしゃれだから、自宅のディナーはもちろん、人を招くときふるまう料理としても、重宝しそうですね。今回はご本人に、志麻さん流フレンチのポイントと、とっておきのレシピを教えていただきました。
家政婦 / タサン志麻
大阪・あべの/辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランで研修後、都内の有名フレンチレストラン等で15年勤務。その後、結婚を機に家政婦として活動開始。冷蔵庫にある食材で、和洋中バラエティに富んだ料理を作り出す。13万部のベストセラー『志麻さんのプレミアムな作りおき』(ダイヤモンド社)に続き、2月14日には、『厨房から台所へ 志麻さんの思い出レシピ31』(ダイヤモンド社)が発売予定。
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フランスの家庭に学ぶ、“楽”をしながら料理する方法
━━━志麻さんは、さまざまな料理の中でも、フランスの家庭料理が得意だとか。フレンチのなかでもとくに家庭料理を選んだというのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
志麻さん「もともとは和食の料理人になりたくて、料理学校に入学しました。いろいろなジャンルの料理の授業を受ける中で、フランス料理のおいしさと、歴史の深さに惹かれたのです。その延長から、本場フランスの家庭にお邪魔して“お母さんの味”を教えてもらったのが、フランス家庭料理にハマったきっかけですね」
━━━フランスで学んだ家庭料理は、どういったものだったんでしょうか?
志麻さん「とにかく簡単で、味付けも塩とコショウのみと、シンプルなものが多いです。あと、日本の家庭料理と違うのは、肩の力を抜いて調理していること。フランスの家庭料理はオーブンを使ったものが多いのですが、焼いている間にワインを飲みながらおしゃべりしたりすることも。楽しく食事をすることを大切にしているので、日本のお母さんみたいに台所にこもりっきり、ということがないのです」
━━━たしかに食事の準備をする間は、家族との会話もおざなりになりがちですよね……。では、具体的に調理について聞かせてください。フランスの家庭料理に欠かせない調味料って、あるんでしょうか?
志麻さん「コンソメは味をまとめてくれるので、欠かせないですね。ハーブなら、タイムとローリエをよく使います。料理は味のメリハリが重要なので、お肉などコクのあるものにはしっかりと塩をふって、逆にあったりした野菜などは塩味を薄くするといいですよ。両方を同じくらいの塩味にすると、料理全体の味がぼやけてしまうんです」
━━━つい薄味がいいと思ってしまいますが、食材によってさじ加減を変えるのがポイントなんですね。それから、志麻さんお気に入りのキッチンツールを教えてください!
志麻さん「実は……こだわりがないんです(笑)。あえて言うなら“使い回しができるもの”を選ぶことがこだわりかもしれませんね。食材を裏ごしするのも野菜を洗うザルでやっちゃうし、菜箸が1本あれば混ぜる・返す・盛る、全部の工程ができます」
━━━ふだん、キッチンで使っているものを使い回す、ということが、実は一番楽なのかもしれませんね!
志麻さん「家政婦として働いているときは、依頼先にあるもので調理しないといけないですし、“これは何で代用しようかな?”と考える時間も楽しいですよ」
━━━なるほど! では、家政婦として呼ばれたお宅などでは、どういった料理を作ることが多いのでしょうか? 志麻さんは“作り置き料理”がお得意なイメージです。ぜひ、おすすめのレシピを教えてください!
志麻さん「レストランでも、作り置きは珍しくありません。ぜひ、作り置き料理のコツを覚えて、少しでも時間を有効に使って、楽に過ごしてほしいです。今日は、人気の作り置きメニューから『アッシ・パルマンティエ』を教えますね」
━━━アッシ・パルマンティエ……初めて聞きました。それはどういう料理なんでしょう?
志麻さん「煮込んだひき肉と、じゃがいものピュレのグラタンです。フランスでは、子どもから大人まで大人気のメニューなんですよ。煮込んだミートソースはそのままパスタの具にもなるし、じゃがいものピュレはハンバーグの付け合わせにぴったりです」
━━━おいしそうですね! でもグラタンというと、ちょっと作るのが面倒なイメージですよね……。
志麻さん「グラタンは難しい料理だと思われがちですが、ミートソースもじゃがいもピュレも面倒な工程はありません。ピュレするじゃがいもは、しっとりとしたメークインを使うとなめらかな食感になって高級感が増しますよ。じゃがいもじゃなくても、かぼちゃやさつまいもでも代用可能です」
━━━メークインを使うのがポイントなんですね。スーパーですぐ手に入りますし、これは今晩にでも作らなければ! 志麻さん、ありがとうございました!
フランスのグラタン「アッシ・パルマンティエ」
【材料(5~6人前)】
じゃがいも6個
バター…40g
牛乳…350ml
合びき肉…300g
<A>
玉ねぎ(みじん切り)…1/2個
にんじん(みじん切り)…1/4本
にんにく(みじん切り)…1かけ
トマト缶…1缶(400g)
オリーブ油…適量
塩・コショウ…各適量
<B>
コンソメキューブ…1個
タイム、ローリエ…各適量
赤ワイン…100cc
ケチャップ…大さじ2
ピザ用チーズ…適量
【作り方】
①皮を剥いてカットしたじゃがいもをお湯でゆでる。柔らかくなったらザルに上げ、熱いうちにスプーンなどで裏ごし。バターを加えたら、弱火で牛乳を少しずつ加えてなめらかになるまで、火を通す。【食材A】の完成。
②鍋にオリーブ油と<A>を入れ、塩を加えてしんなりするまで炒める。トマト缶を加えて潰しながらあくを取ったら<B>を加え、トマトを潰すようにへらで混ぜながら煮込む。煮詰まってきたらケチャップを加える。肉の色が変わったら、塩・コショウと赤ワインを加えてアルコールを飛ばす。【食材B】の完成。
③【食材A】→【食材B】を順番に敷き詰めて、一番上にピザ用チーズをたっぷりのせる。
④230度のオーブンで約10分焼く。こんがり焼き色がついたら出来上がり!
【前半のまとめ】
あっという間に完成した「アッシ・パルマンティエ」は、なめらかなじゃがいもと食べ応えのあるミートソースの相性が抜群。子どもが大好きな味で、いろんなアレンジができそうです。続いて後半では、ちょっぴり大人な「鶏もも肉のマスタード焼き」を教えていただくのでお楽しみに。
前半では、家で作るのは難しいと思っていたフランスの家庭料理が、実は簡単だということを教えてくれた志麻さん。後半は、家政婦としてお仕事をする際の時短テクニックやレシピのアイデアを教えてもらいましょう。この「鶏もも肉のマスタード焼き」は混ぜて焼くだけ、ほとんどの時間は放っておくだけだから、時間を有効に使える料理だとか。子どもにも人気の鶏肉メニューとは、楽しみですね。
志麻さん流・短時間でおいしい料理を作るコツとは?
━━━志麻さんは、テレビ番組で訪れたお宅で、3時間の間に10品以上の料理を作っていたりしますよね。あれだけの料理をどうやって短時間で仕上げているんですか?
志麻さん「料理を作る順番が重要なんです。煮込んだり、オーブンで焼いたりする料理から作り始め、火を通している間に他の調理に取り掛かると時間を有効に使えます。私は調理をしながら、次のレシピを考えることが多いですね。家政婦としてお仕事をする時は、限られた時間で行わなければならないので、常にキッチンを片付けながら調理することもポイントなんです」
━━━とくに平日のごはん作りは時間との戦いだから、調理の順番は参考になります。
志麻さん「そうですよね。それから、食材の切り方もポイント。たとえばパセリをみじん切りにする際、まな板の上で何度も包丁をあてる方が多いですが、そうするとパセリの汁がまな板に染みたり、せっかくのいい香りも飛んだりしてしまいます。パセリはひとまとめにしたら手で押さえながら、小口切りのように切るといいんです」
━━━そのテクニックは、すぐに実践できそうですね。 また、お客様の家で料理を作るときに、 心がけていることはありますか? その家庭によって冷蔵庫にある食材がバラバラだから、大変そうですよね……。
志麻さん「和洋中、バリエーション豊かな料理を作るように心がけています。お客様のご家庭にある食材で作らなくてはいけないので、時にはオリジナルレシピとは異なった材料で代用することも。意外とオリジナルレシピよりおいしくなることもあります(笑)。あと、日持ちの良さを意識して作り置き料理を作っています」
━━━依頼主のご家庭は、家族構成などもさまざまだと思いますが、レシピはどうやって決めているんですか?
志麻さん「私は事前のヒアリングをしっかりして、家族構成はもちろん、体調やライフスタイルなど細かくうかがったうえでメニューを考えます。小さなお子さんがいるならハンバーグとか、体調が優れないなら滋養がつくものなど、お客さんに合った料理を作るようにしています」
━━━なんだか、志麻さんが“伝説の家政婦”と呼ばれるようになった理由がわかるような気がしますね。それは、料理人時代から学んだことなんでしょうか?
志麻さん「私がフレンチレストランで働いていたころ、レストランにいらっしゃるお客さんは緊張していたり、神妙な雰囲気だったりと、心から食事を楽しんでいないような気がしていました。でも、今はお客様の希望を汲みとって、そのご家族に合った家庭料理を作り、喜んでもらえる。最近では、メディアで紹介してもらえる機会も増え、フランスの家庭料理を皆さんに知ってもらえるようになりました。“私がやりたかったことって、これだったんだ!”と、とても充実しています」
━━━志麻さんのおかげで、フランスの家庭料理の魅力の一端を知ることができた気がします。ではここで、旬の野菜で作れる料理を教えてください。
志麻さん「大根、白菜などの冬野菜をベーコンと一緒にコンソメで煮るだけで、ポトフのような野菜スープになります。“大根は和の食材!”と思い込まず、発想を柔軟にすることで、新しいレシピが生まれますよ」
━━━思い込みは捨てた方がいいんですね! では、今回教えていただく「鶏もも肉のマスタード焼き」とは、どんな料理なのでしょうか?
志麻さん「鶏もも肉をマスタードでマリネしたグリル料理です。フランスではウサギ肉を使うのですが、鶏もも肉でもおいしいんです! マスタードを使っていますが、オーブンで焼くことで辛味がなくなり、お子さんでもおいしく食べられる料理なんですよ」
━━━おいしそうですね! でも、家にマスタードってあったかな……。
志麻さん「マスタードの代わりに和からしを使えば和風の仕上がりになります。もし、家にレシピの材料がなければ、ぜひ他の食材で代用してみてください。意外と良い組み合わせが見つかるかもしれませんよ」
こんがりジューシーな「鶏もも肉のマスタード焼き」
【材料(3~4人前)】
鶏もも肉…2枚(約600g)
塩・コショウ…各適量
にんにく…大1かけ分
パセリ…適量
<A>
マスタード…大さじ4
オリーブ油…適量
【作り方】
①にんにく、パセリをみじん切りに。
②下記の<A>の材料をすべて混ぜてマリネソースを作る。
③②と一口大に切って塩・コショウをした鶏もも肉をよくもみ込み、30分以上漬ける。
④オーブンの天板にクッキングシートを敷き③を並べ、オリーブ油をまんべんなくかける。200℃のオーブンで15分焼き、中まで火が通ったら出来上がり。
【後半のまとめ】
シンプルな材料と、シンプルな調理法で作れる鶏もも肉のマスタード焼きは、噛むほどに、鶏肉のジューシーさとマスタードの香りが楽しめるメニュー。鶏肉を漬け込む時間と焼いている時間に、他の作業もできるから助かります。パーティーのときは、骨付き肉を使うと豪華になりそうです。
【書籍情報】
『志麻さんのプレミアムな作りおき』(ダイヤモンド社)
家庭の冷蔵庫にある食材が、贅沢レシピに変身! 今回紹介した「アッシ・パルマンティエ」や「鶏もも肉のマスタード焼き」も掲載。