純米酒で1・3位の「宝剣」。「自分の酒」と「流行の味」とのギャップで苦しんだ日々
「飛露喜」が9位となった純米酒部門は、出品数が495点と純米吟醸部門に次ぐ激戦に。そんな純米酒部門で1位に輝いたのが、宝剣酒造の「宝剣 純米酒 レトロラベル」です。ちなみに同蔵の「宝剣 純米酒 広島夢酵母」は3位にも入賞しました。
受賞式の登壇時には「苦しかった……苦しんでよかったです」と声を詰まらせていた土井さん。その「苦しい」の意味は何だったのでしょう。
「お酒造りで、負けているのが悔しかったです。自分の酒は食中酒で、派手なお酒じゃないんですけど、そのなかで勝負ができるんじゃないか……いや、勝負できてないよな…というのがここ3~4年。それが苦しかった。そのなかでなんとか昨年は純米酒部門の10位になりましたが、信念は多少揺らぎます。酵母や麹菌を変えて流行りに寄せた方がいいのか…と思うこともありました。ただ、信念を曲げて受賞しても、自分はうれしいのか? と。それを特にこの1年考えました。すると、やっぱり、『自分本来の酒で勝負したい』と。
『苦しかった』というのはそのジレンマですね。今日も、『努力って報われるのかね…?』って奥さんに言って広島から出てきました。それがこうして結果が出て…報われましたね。しかも、今回の1位は伝統的なレトロラベル。宝剣の原点といえるこの酒が認められたことは、特にうれしいです。ブレずに頑張ってよかったな…と。自分でも上位に行くならレトロかな、と思っていて。線が細いお酒には変わりはないんですが、酒づくり、麹づくりを頑張って、細いなかでも幅が出せるようになったのかな、と。設備投資もしましたが、やっぱり麹づくりというのが一番大切なんだと強く感じました」(土井さん)
土井さんは最後に「僕は弱い人間なんで、苦しまないと頑張れない。もっともっと苦しんで、いっそううまい酒を造っていきたい」とコメント。この言葉から、今後も酒造りに人生を捧げる覚悟が見て取れました。
さて、今回、宝剣の持ち味である辛口の酒が純米酒部門の1位に。また純米吟醸部門では、廣木さんが語ったように、「おとなしさ」が好評価を得たことに注目です。日本酒のトレンドは、華やかな香りを持つ甘口から、繊細さを重視する辛口にシフトしているのかもしれません。