スター杜氏の活躍や、個性派銘柄の登場などで注目を集めている日本酒。実は、そんな日本酒のナンバーワンを決める品評会が、毎年開催されているのをご存じでしょうか。それが「SAKE COMPETITION」。2012年に始まり、今回で5回目となるコンペです。
今年の結果発表は7月29日とまだ先ですが、先行して行われた決審会を取材する機会を得ましたので、その様子をレポートします。合わせて審査員へのインタビューも行い、利き酒のコツや日本酒の楽しみ方を教えてもらいました!
酒のプロが全国から集まり5つの部門でナンバーワンを決める!
なんと、今回のノミネート数は昨対比約140%となる1462本。海外の酒蔵が初の参加を果たしており(海外からの参加蔵:21蔵)、事実上の世界一おいしい日本酒が決まることになります。その審査は厳正そのもの。「純米」「純米吟醸」などの特定名称によって分けられたそれぞれの酒の銘柄を完全に隠した状態で並べて試飲をし、まず予審で1/3に選別。そして決審で頂点を決めるというものです。
審査部門は「吟醸部門」、「純米酒部門」、「純米吟醸部門」、「純米大吟醸部門」の4つに加え、今回から特定名称(種類)にかかわらず、高価格に設定されているものを「Super Premium部門」として新たに導入しました。
審査委員は、全国から集結した日本酒業界の精鋭。県の指導者や彼らに推薦された蔵元、日本酒業界で活躍される有識者などで構成されています。「Super Premium部門」では、これらの審査委員に加え、“食”とのマリアージュを知り尽くしたその道のプロがジャッジしました。
果たして海外の蔵元の実力のほどは?
今回のトピックのひとつが、海外で活躍する蔵元。アメリカ、カナダ、ノルウェーから計7蔵が参加しました。そのひとり、「Dovetail Sake」のDaniel Kruppさんに参加のきっかけなどを聞いてみました。
「アメリカでの日本酒は、和食に合わせるというのが一般的。でももっと日常的に、たとえばハンバーガーと合わせたり、バーで飲んでもらえるようなポピュラーな存在にしていきたいです。そのためにはよりおいしいSAKEを造って賞を獲得するのが大切なステップ。ピュアで飲みやすい、雨水のようなおいしさを目指しており、より研究を深めて味を進化させていきたいです」
貧乏で無名の蔵にも平等にチャンスがある!
そして今回、SAKE COMPETITION 2016の審査員であり、「伯楽星」や「愛宕の松」などのブランドで知られる新澤醸造店の蔵元杜氏・新澤巌夫(にいざわたけお)さんに、特別にインタビューすることができました。新澤さんが醸す伯楽星(はくらくせい)は、“究極の食中酒”をテーマに掲げ、JAL国際線のファーストクラスに採用されるなど、高い名声を得ています。
今回、蔵元としてだけでなくひとりの審査員としても参加している新澤さん。造り手として、また審査をする側として、SAKE COMPETITIONにかける想いとは?
「審査員の皆さんは、一流の味覚を持ったプロ中のプロ。そのひとりに選んでいただいたことは、非常に光栄なことです。本大会は、貧乏で知名度のない蔵にも平等にチャンスがある真剣勝負の大会。日本酒のレベルも、回を重ねるごとにレベルアップしていることを感じますね」(新澤さん)
2~3年後は海外蔵が日本の蔵をおびやかすかも
引き続き、新澤さんに今回参加した海外の蔵元の印象を聞いてみました。
「海外の蔵のポテンシャルはすごいですよ。わざわざアウェーの地で勉強したいと来ているわけですから、意欲からして違います。また、向こうは乾燥していてカビ由来の失敗がないから、失敗の理由が明確。私たち審査員は、味をみればどの工程でどう失敗したかがわかるので、そこを指摘すれば、あっという間に酒質も向上するでしょう。2~3年後はどうなっているかわからない末恐ろしい存在です。日本の蔵元もうかうかしていられませんよ」(新澤さん)
利き酒のポイントはブレのない飲み方をすること
では、次にいったい利き酒とはどのようにして行うか、その方法について聞いてみましょう。新澤さんによれば、基本的には「目で色を見て、鼻で香りを感じて、舌で味を確かめる」とのことですが、そのほかにも様々なポイントがあるようです。
「一度に複数の酒を比較するので、飲み方にブレがないようにすることが大切。具体的には毎回同じ量の酒を口に含むことが重要です。口に含む量は、常に8gになるようにしていますね。もうひとつは、唾液が出ない状態にするため、空気を含ませながらすすること。酒を舌の上で回転させ、『ぢゅる』っという音が出るイメージですね」(新澤さん)
「旨い」「まずい」でなく「味の理由」を説明できるのが審査員
では、審査ではどのようなポイントをみるのでしょうか?
「旨い、まずいではなく、客観的に判断します。ただ『酸っぱい』『甘い』というだけでなく、なぜ酸っぱくなったのか、なぜ甘くなったのか、説明できるのが審査員。たとえば、『ああ、これは温度管理に失敗したからこうなったんだな』『米を溶かしすぎたな』『麹の力が弱いな』といったところです。その意味で、審査員は造りをやっている人でなければできませんよ」(新澤さん)
新澤さんいわく、審査をしていて“凄い“と感じるお酒は、同じ酸味でも格が違うのだとか。一つの味の要素をとっても、意図を感じるのが上位の蔵元の力なのでしょう。
おいしい日本酒に出会うコツとは?
さて、新澤さんほどの名杜氏にインタビューするのはめったにない貴重な機会。せっかくですので、日本酒を楽しむためのアドバイスをお願いしたところ、快諾してくださいました。いろいろと聞いてみたいですが、まずは、おいしい日本酒に出会うコツについて聞いてみましょう。
「『こうあるべきだ』という固定観念を捨ててほしいですね。特に飲食店で、『辛口ください』というのはやめたほうがいいです。たとえば、『爽やかなもの』『キレがいいもの』みたいに、抽象的でもいいから、自分の言葉で伝えることですね。そして、意図と違ったらはっきり伝えて、『もっとこういう味がいい』としっかりとコミュニケーションを取ることです」(新澤さん)
日本酒は「開けたてがおいしい」というウソ
次に、日本酒をより深く楽しむコツを教えてもらいましょう。例えば、杜氏としてここを見てほしい、というポイントなどはありますか?
「日本酒を、『点』ではなく、『線』で見てほしいですね。冷やと燗で飲んでみるなど、温度変化の違いを楽しんでみる。また、今日の味を覚えておいて、1年後に比べてみる。1年たったら味がまるで違っていた、なんてこともザラにあるわけですから。
また、同じ瓶の日本酒でも、開栓したてと中間の部分、終わる直前の瓶の底の部分では味が違うんです。そのあたりの違いも楽しんでもらいたいですね。ちなみに、よく『終わる間際の瓶の底の酒が一番がまずい』といわれますが、アレはウソ。実は、開栓したてのほうが、フタ近くにある古い空気に触れているため、モワっとした印象になっておいしくないんですよ」(新澤さん)
「売れそうなものを造ろうか」と折れそうになったこともある
最後に、新澤さんの蔵元の代表銘柄、「伯楽星」について聞いてみます。造りでこだわっている点とは?
「伯楽星の特徴は、あえてインパクトを抑えた点ですね。料理を引き立たせることに重きを置いたのが伯楽星です。それがきっかけで、料理人さんから意見をいただくことも多かったですね。食の現場を中心に少しずつ評価をいただき、多くの方に認知していただけるようになりました」(新澤さん)
「とはいっても、途中で心が折れそうになったことがありますよ。『もっと売れそうなもの造ろうかな……』とか思ったこともあります。けれど、妥協せずに胸を張ってやってきたから、いまがあるんです。今後は安くて旨い酒が造りたい。それが日本酒全体を盛り上げることにつながるはずですから。
一方で、今回出品した精米歩合7%という高級酒『残響 スーパー7』のように、ハレの日に選んでもらえるような特別な酒もしっかり造っていきたい。日本酒の価値の部分も高めていきたいんです。日本酒の持つ『幅』を信じたいですから」(新澤さん)
さて、そんな新澤さんが、全身全霊を込めて審査をした結果は、前述の通り7月29日に発表されます。新澤さんがいう「格が違う酒」が明らかになるわけで、いまから楽しみですね。その際は、改めてレポートしたいと思いますので、ご期待ください!
【URL】
SAKE COMPETITION http://sakecompetition.com/