先人の味と想いをいまに伝える三代目の心意気
その他の餃子も紹介したいところだが、本連載はあくまでも「街中華の名店」。ということで、ここからは一般的な中華メニューを紹介していこう。飲みにも、ご飯のお供にも最適なのが「ニラレバいため」だ。
特筆すべきはレバーのサイズとやわらかさ。小さくカットし、火入れや味付けで素材の悪さをごまかすニラレバもあるなか、同店はそんな邪念を笑い飛ばすかのような大きさとプリプリ感。くさみもなく、鮮度のよさが明確にわかる。また、シャキッとしたもやしもたっぷりで、野菜がとれるのもうれしい。はっきりいって、主役を張れるレベルのおいしさだ。
次は麺飯メニューから一品紹介。ピックアップしたのは「もやしそば」だ。こちらももやしを中心ににんじん、きくらげ、青菜と野菜がたっぷり。とろみの付いたやさしいスープが五臓六腑にしみわたり、寒い日でも体を芯から温めてくれる。
ちなみに餃子の皮や麺は長年、現店主と同級生の実家の製麺所に発注していたが、閉めるということで、同じクオリティを再現できる製麺所へ切り替えることに。新たな取引先は、超人気ラーメン店からも信頼を置かれている「浅草開化楼」だ。
製麺所だけでなく、家族経営が多い街中華も後継者不足が課題の生業である。肉体労働かつ薄利多売と、決して楽な仕事ではない。老舗の「餃子の王さま」も例外ではないだろう。しかし同店は2005年に三代目の佐々木光秋さんが受け継ぎ、日本が世界に誇る焼き餃子の名店へと認められる存在になった。
継ぐ前は別の仕事をしていたが、いつしか使命感が芽生えたという佐々木さん。初代が生み出した餃子、そして二代目が守り昇華させたメニューのクオリティの高さを大人になってから再認識し、「このおいしさを後世に残したい!」と思ったという。
先人の遺産や想いをはじめ、佐々木さんが最も大切にしているのは“心”であり、“ふるまい”である。極限まで考え尽くされた、「王さまの餃子」のレシピひとつをとってもそう。店内には創業当時の写真やお品書きが残されているが、これは初心を忘れず味を守り、紡いだ意思とともに届け続けるという佐々木さんの誓いであり、これぞ王者の所以なのだ。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
餃子の王さま
住所:東京都台東区浅草1-30-8
アクセス:東京メトロ銀座線ほか「浅草駅」徒歩5分
営業時間:11:15~14:45(L.O.14:00)、16:00~20:45(L.O.20:00)
定休日:火曜
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