東京・日比谷の一等地に、昨年オープンしたGESHARY COFFEE(ゲシャリーコーヒー)。展開しているのは日本の企業で、世界最高品種と言われるコーヒー豆「ゲイシャ」だけを扱う、スペシャルティコーヒーの専門店です。ゲイシャとだけを耳で聞けば、日本の芸者さんを思い浮かべてしまいますが、これはただの偶然。コーヒー豆のゲイシャはとにかく希少で、世界一のバリスタ(コーヒー抽出のプロ)を競い合う競技会でも、世界中の出場者が採用するほどなのだとか。
今回は、この日本ではまだ親しみが薄いゲイシャ。そして、ゲイシャだけを扱うGESHARY COFFEEについて同社原料開発部長の富樫和輝さんに、アレコレと話を聞きました。
フルーティーな味わいが特徴の「ゲイシャ」
ーーまず「ゲイシャ」と聞いて、芸者さんの「芸者」を思い浮かべましたが、全然関係ないんですよね。
富樫和輝さん(以下、富樫) コーヒー豆のゲイシャはエチオピアの村の名前が由来なので、全く関係ないです。ただ、同様の質問は多いですよ。「芸者さんがコーヒーをいれてくれるんですか?」とか「芸者さんに由来があるコーヒーなんですか?」とか(笑)。
しかし、このゲイシャという品種は、数多くあるスペシャルティコーヒーの中でも、かなり希少な品種なんです。コーヒーって一般的には「苦い・苦くない」「コクがある・ない」といった感想が多いのですが、ゲイシャは、フルーティーな風合いも加わります。
コーヒーは本来、果物の実から抽出するものです。その果物特有の上質な酸味、香り、華やかさが加わるという意味では、世界中のあらゆるコーヒーの中でもゲイシャは最も優れていると我々は考えています。ただ、ゲイシャは希少性も高く生産量も少なく、世の中に出回る流通量も圧倒的に少ないんです。だからこそ我々はこのゲイシャを扱い、専門店を出すことにしました。
トレーサビリティ+サステナビリティ+品質=ゲイシャ
ーー今おっしゃった「スペシャルティコーヒー」というカテゴリーについて、もう少し詳しく教えてください。
富樫 たしかにスペシャルティコーヒーというカテゴリー自体も世界的にはまだ認知は低いと思います。説明させていただきますと、まず、「どこの農園で作られたものか」ということを明確にするトレーサビリティ(物流経路の追跡できる状態)と、商品としての持続可能性があるサステナビリティの2つを兼ね備えたコーヒーがスペシャルティコーヒーとされています。よく有機野菜などでも「この農園主さんが作ったレタスです」といった表示がされていることがありますが、これがトレーサビリティ。そして、生産国から消費国にいたるコーヒー産業全体の永続的発展に寄与できる物かどうかがサステナビリティということになります。
これに加え、コーヒーの品質を評価する「カッピング」で、80点以上を取らないとスペシャルティコーヒーを名乗れません。ですので、生産者が明確で、きちんと生産者が利益を出せるもので、なおかつ厳しい審査をクリアしたものだけが、スペシャルティコーヒーとなるわけですが、実は日本だけでなく世界でもこの基準をクリアしているコーヒーはごく限られています。
そのスペシャルティコーヒーの中でも常にトップクラスの評価を得ているのがゲイシャです。我々はこの品種に魅せられ、約6年前からゼロ企画で開発を進めることとなり、昨年11月にやっと日比谷にGESHARY COFFEEとしてゲイシャ専門店を開店にたどり着いたという流れです。
こだわりのコーヒーマシンと「Farm to Cup」
ーー元々はコーヒーマシンを開発されている会社だったと伺っています。
富樫 はい。TREE FIELDというグループ会社で世界初の全自動スペシャルティコーヒーマシン「FURUMAI」という機械をまず作りました。開発段階から世界屈指のバリスタが監修に入り、詳細なパラメータ設定によって、思い通りのコーヒーの抽出が可能になりました。このコーヒーマシンの開発時点でゲイシャと出会い、これは徹底的にこだわり抜いて、専門店を出すべきだという考えに至りました。
ーーGESHARY COFFEEがこだわる「Farm to Cup」……つまり、農園でのコーヒー豆栽培から、カップとして人に提供するまでを一括管理するという流れについても詳しく聞かせてください。
富樫 一部の大手コーヒー専門店ではやっていますが、世界的に見れば数える程度しかやっていないのがFarm to Cupです。例えば、ゲイシャで言うと、種を植え、木になってコーヒーの実が取れるまで最低でも3~4年くらいかかります。3~4年経ってようやく実がなってから、年に1回、収穫時期がきます。ゲイシャの実は赤い果物なのですが、桃のように種の周りにミューシレージというちょっとベトベトした粘着質のものがついています。このベトベトしたものを処理し乾燥させ、種の殻を剥がす作業を行い、日本に輸入して、さらにその種を焙煎し抽出し、ようやく皆さんが見たことがあるコーヒーとして出せるようになります。
ーーFarm to Cupはとんでもなく時間と手間がかかるもの、ということですね。
富樫 せっかくの最高品種ゲイシャを扱うわけですから、我々もどこまでもこだわりぬこうと考え、このFarm to Cupを採用したというわけです。
コーヒーとは思えない華やかな「香り」と、クセがないのに複雑な「味わい」
ーーそれではさっそくいただきますが、何かゲイシャならでは、スペシャルティコーヒーならではの飲み方はあるのでしょうか?
富樫 格式ばったものはなく、一般的なコーヒーと同様、自由に味わっていただいて結構ですが、ゲイシャならではの楽しみ方としてはまず「香り」ですね。華やかな香りを楽しんでいただき、そして飲んだ際には「上質な酸味」を感じられると思います。
ーーたしかに「香り」だけを嗅ぐと、一般的なコーヒーとは違うような澄んだような印象ですね。そして、実際に飲んでみると、口当たりは軽いのに、後から複雑な味わいです。
富樫 ありがとうございます。冷めてくると、また違った味を楽しめるのもゲイシャの特徴です。当店のカップはこれも意識して、香りを感じやすいデザインのものを作りました。
ーー今はブラックそのままでいただきましたが、やはり砂糖やミルクは合わないですかね?
富樫 「絶対にダメ」ということではないですが、ゲイシャを美味しく召し上がっていただくためには、やはりブラックが一番だと思います。
ーーさらに、GESHARY COFFEEでは、スイーツも販売されています。これらスイーツもゲイシャに合うものを選りすぐってのメニュー構成ですか?
富樫 もちろんそうです。実は日比谷の当店ではお店の5階厨房を設けており、すべてパティシエが手作りしています。フードもパンのブリオッシュ、フォカッチャなど数種類を販売させていただいていますが、これもすべて手作りです。
展開はゆっくりだが、きちんと「ゲイシャ」を届けたい
ーー良い意味でこだわり方が尋常じゃない印象です。お店を開店されてからもうすぐ1年になります。これまでの反響をお聞かせください。
富樫 本当にコーヒーが好きな方に飲んでいただければ、一般的なコーヒーとの違いは歴然で、「こんなコーヒーあったのか」「別物だ」と驚かれるお客さまが多かった1年でした。しかし、この1年はどの飲食店も新型コロナウイルス感染拡大の影響で大変だったことは否めません。
ゲイシャはもちろん、先ほど申しましたスペシャルティコーヒーそのものを知らない方のほうが多いと思いますので、さらに多くの方にゲイシャを楽しんでいただけることを目指すため、ECサイトを立ち上げました。こちらではドリップバッグなども販売させていただいています。
富樫 当店のドリップバッグは、豆を挽く際にチャフ分離(薄皮・微粉除去)したものを採用しているので、一般的なコーヒーのドリップバッグよりもクリーンな味わいになっていると思います。お湯を注ぐだけでゲイシャを楽しめますので、ぜひお試しいただければと。
ーー現在、GESHARY COFFEEは日比谷の1店舗のみです。今後お店を増やす予定はありますか?
富樫 すべて自分たちでやっていて、こだわりを持ってやっているため一気に「数十店舗」という感じでは増やせません。しかし、ゲイシャの魅力を多くの方に知っていただき、ファンになっていただくための努力は今後も惜しみません。
当店のFarm to Cup自体が、完結までかなり時間を要するものですから、事業自体のスピード感も正直ゆっくりになってしまっているところはあります。しかし、その分、ゲイシャの素晴らしさを、お客さま一人一人にきちんとお届けできるとも思っています。こういった方々が増え、将来的に多く広まってくれることを目指して、今後も努力を怠らないようにしたいと考えています。
日比谷の一等地で展開するGESHARY COFFEEなので、さぞ大掛かりな資本によって展開されているのかと思いきや、コツコツとしたある意味で昔ながらの事業であると感じました。だからこそ繊細なゲイシャの品質を保ち、いつでも変わらぬ最高の1杯が出せるのかもしれません。コーヒー好きの方はもちろん、特別なコーヒー好きでなくとも、ぜひ一度ご賞味ください。驚きの味に出会えると思いますよ!
【SHOP DATA】
GESHARY COFFEE 日比谷店
■住所:東京都千代田区有楽町1-6-3 有楽町東宝ビル
■営業時間:全日10:00~20:00
■休業日:不定休
撮影/我妻慶一
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