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2023/3/6 21:45

ビールにはなぜ「ホップ」が大切なのか?造り手が集う「官能評価会」でわかった理由

2023年は10月1日に酒税率が改正され、ビールの税額が下がり、新ジャンル(第3のビール)の税額がアップします(発泡酒は据え置き)。原材料の高騰などによる値上げがなければ、ビールは実質安くなります。安くなれば、色々な盛り上がりが期待できるというもの。

 

というわけで、注目度がアップするビールにフォーカスして、今回お伝えしたいのは「ビールの味わい」について。各地の造り手が、ビールの魅力を高めたり広めたりするために行っている活動例を紹介します。

↑訪れたのは、クラフトブルワーが中心に集まった官能評価会。取り組みの概要や、造り手たちの声をお届けします

 

クラフトビール全体の品質向上が狙い

本稿で紹介するビールの官能評価会は、キリンビール、スプリングバレーブルワリー、日本産ホップ推進委員会が実施しており、今回は代官山の「スプリングバレーブルワリー東京」で行われたもの。同店は「フレッシュホップフェスト2022」のメインイベント会場ともなり、参加したブルワリーの醸造家を中心に、各自がビールを持ち寄って開催されました。

↑この日は全国から約10社のブルワリーが参加

 

目的は、一同でそれぞれのビールを飲み比べ、相互評価したり意見を交換したりするなかで改善ポイントなどを洗い出し、クラフトビール全体の品質向上につなげるのが狙いです。

 

持ち寄ったビールは、やはりフレッシュホップビール。フレッシュホップとは読んで字のごとく新鮮なホップのことですが、通常のホップとの最大の違いは乾燥させない生(もしくは冷凍)のみずみずしい状態であることです。

↑ホップは非常に傷みやすいため、乾燥させ固めたペレット状で使うのが一般的

 

いわばフレッシュホップビールとは、日本酒でいえば新酒、ワインでいえばヌーヴォー。ビールは原材料や発酵方法などの違いで味も千差万別ですが、フレッシュホップという共通項を通して比べれば、より使い方や製法の学びになるというわけです。

 

ホップはある意味、麦以上に重要

ところで、「なぜ麦ではなくホップなの?」と思う方も少なくないでしょう。ビールの主原料は麦(麦芽)、ホップ、酵母、水。ものによってはフルーツやスパイスといった副原料なども使われますが、ホップは“ビールの魂”と呼ばれるほど味や香りを左右する素材で、麦以上に重要視するブルワーも少なくありません。

↑こちらが摘み取る前のホップ

 

特に近年のクラフトビールムーブメントは個性派ホップの影響が大きく、発信地であるアメリカでは新種の開発や品種改良がきわめて盛ん。日本でもホップの研究や、生産者を応援する活動が行われています。「フレッシュホップフェスト」や、今回の官能評価会もその一環といっていいでしょう。

↑各自が、好みだったビールのTOP3を挙げて理由を発表し合うシーンも。善し悪しを競うものではありませんが、知見や技術を高めるためにこうした意見交換も行われました

 

官能評価は各ブルワーの味覚による意見だけではなく、分析データを基にした定量的なレポートも合わせて行います。なお、この分析はキリンホールディングスの研究機関で行われており、知られているところでは、アルコール度数やIBU(国際苦味単位)、EBC(ビールの色度数)など。専門的な成分としては、pH(水素イオン濃度)、AE(外観エキス)、AAL(外観最終発酵度)などが数値化されていました。

↑データ解説は、ふだんキリンホールディングスの飲料未来研究所でホップの香気成分に関する研究などを行っている加野智槙(かのとものり)さん。水色のシャツの方で、醸造やドイツ留学も経験しています

 

各ブルワーも学びの多さに驚きの声が続出

今回のようなクラフトブルワーを集めた官能評価会は2021年に初めて試み好評だったため、2022年は規模を拡大して実施したとのこと。そこで、参加した造り手の何人かに感想などを聞いてみました。まずは京都・与謝野にある「かけはしブルーイング」の野村京平さんから。

 

「香りの成分が、ここまで数値化された分析結果を見たのは初めてで驚きました。一覧からほかのビールと比較できるのも興味深かったです。また、自分たちの狙ったポイントと近しいスコアもあればズレもあって、『やっぱそうだよな』とも感じた部分もあり、すごく学びになりました」(野村さん)

↑黒い帽子の方が野村さん

 

金沢文庫のブルワリー、「南横浜ビール研究所」の荒井昭一さんは「すごく参考になりますし、飲めば飲むほど聞きたいことが出てきます」と話します。

 

「まだ会の途中ですけど、すでに新たな知見が得られて感動しています。このまま分析を進めていけば、さらに面白いことがわかりそうな気がしますね。ある成分が突出しているブルワリーさんもいて、彼らがどんな製法で仕上げたのかも気になります。いろいろ聞いて、今後に生かしていきたいですね」(荒井さん)

↑左が「南横浜ビール研究所」の荒井さん。右は、次に紹介する「籠屋ブルワリー」の江上さん

 

東京、狛江市初のビール醸造所として知られる「籠屋ブルワリー」の江上裕士さんは、「今日参加して、日本産ホップが持つポテンシャルの高さをより実感しました!」と目を輝かせます。

 

「クラフトブルワリーのほとんどは少人数で醸造しているので、こうしてたくさんの意見が聞けるのは素晴らしい機会ですね。いくつかのヒントも得られ、今後の励みになりました。フレッシュホップビールは、いわば旬の味わい。素材が持つ旬のおいしさを、ビールでも届けてフレッシュホップを定着させていきたいと強く思います」(江上さん)

↑「フレッシュホップフェスト2022」では各地から計50のブルワリーが参加し、イベントを盛り上げました

 

ビールの発展には国内ホップの躍進が大切

官能評価会には、日本ビアジャーナリスト協会の代表であり、京都の与謝野でホップ栽培にも取り組む藤原ヒロユキさんも参加。ホップ生産者としての立場から感想を聞きました。

 

「僕が今日好きだったビールは、いい意味で青っぽさのあるタイプ。ある意味強すぎる香りのもあったけど、そこがフレッシュホップの面白さだとも思うんです。やっぱりフレッシュホップは、摘みたての生き生きとした香りを凝縮させないとね。生産者としても、ホップの魅力をビールに最大限生かしてほしいっていつも思ってます」(藤原さん)

↑国内クラフトビール伝道師の第一人者である藤原さん。いまは地元の前述「かけはしブルーイング」とも協力し合いながら業界を盛り上げています

 

日本が抱える大きな課題のひとつが少子高齢化。国内ホップ生産もビールの消費も伸び悩むことが懸念されていますが、藤原さんは「まあでも、品質やおいしさはもっと高められると思うし、ホップはまだまだできることがたくさんありますよ!」と力説します。

 

「ホップ栽培は、僕らみたいに農業を優先するタイプと、地域コミュニティとしての意味合いも兼ねて行う方々と、大きく分けるとこのふたつがあります。どちらも大切なんですけど、僕らはより品質と生産量を高め、そのぶんブルワーに使ってもらえるように頑張らないと。

 

つまりは質と量の向上。そして、限定品ではなく通年商品として使ってもらえるホップ作りを目指すべき。例えば年に1回の限定品だったら、10年で10回しか仕込めない。それでは、その商品に対するブルワーの経験値も上がりませんから。お互いに技術向上できるよう、コミュニケーションを密にしていくことも大事ですよね。僕も今日、たくさん意見交換したくてここに来ました。これからも、日本のビール発展のためにいろいろ仕掛けていきたいと思います」(藤原さん)

↑この日の評価対象となったフレッシュホップビールがズラリ。毎年秋口から発売されます

 

冒頭で述べた酒税改正は、2023年版のフレッシュホップビールが登場する時季に施行されます。新酒やヌーヴォーを楽しむように、今年はいっそうフレッシュホップビールに注目を!

 

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