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2023/3/31 19:30

「浄酎(じょうちゅう)」って何だ? 日本酒でも焼酎でもない第三の和酒を広島に訪ねたら味も構想も驚きの連続だった

 

ウイスキーよりたおやかで、米焼酎とも違うたくましい味

↑かつて160年以上稼働していた酒造の施設を一部リノベーションし、約半分を熟成樽の貯蔵庫として利用しています

 

浄溜所がある神石高原は標高が約400~500メートルあり、夏でも30℃を超えることは珍しく、冬は-5℃まで冷え込み積雪も珍しくない地域。冷涼で、「浄酎」の樽熟成には最適な環境だと三宅さんは言います。樽はすべて新樽で、メインがアメリカンホワイトオークとミズナラ。1本だけ桜の樽もありました。

↑鉄ではなく木のレールの上に樽を置く、ウイスキーのダンネージ式に近い手法で熟成されています

 

まずはスタンダードの「浄酎 -Purified Spirit 金紙垂(きんしで) アメリカンホワイトオーク樽熟成」からテイスティング。アルコール度数は41%ですが、ナオライでは度数の調整にマザーウォーター(仕込み水)ではなく、「低温浄溜」した際に分離する純米酒由来のアミノ酸エキスで行うのも特徴です(詳細は後述)。

↑熟成の深さは約3年。アメリカンホワイトオーク樽ならではの、しっかりした色味が付いています

 

味わいは、想像以上にウイスキーを思わせるバニラ香が印象的。とはいえ飲み口はウイスキーよりたおやかで、米焼酎とも違うたくましさは、熟成やアルコール度数の高さによるものでしょう。そして、ほんのり甘くピュアなニュアンスは純米酒由来でしょうか。広島名物の料理で合わせるなら、カキの燻製やバター炒めがよく合うと思います。

 

次はレモンも手掛けるナオライならではの銘柄「琥珀浄酎 -Sake Zest Spirit アメリカンホワイトオーク樽熟成」を。少量のレモンピールを一定期間漬け込んだ「浄酎」で、柑橘の酸味や苦みではなく、香りとしてのレモンが溶け込んだ味わい。

↑「浄酎」のなめらかな甘みに、レモンの爽やかな香りが調和。ソーダ割りが合いそうな飲み口で、ペアリングは同じカキでも生ガキがよさそう。チョコレートにもマッチするでしょう

 

最後は「浄酎 -Purified Spirit 金紙垂 ミズナラ樽熟成」。ミズナラは日本が誇る木材で、希少かつデリケートなので特別なフィニッシュ(樽熟成のこと)に用いられることがほとんどです。飲んでみると、よりクリアなタッチと伽羅(きゃら)や白檀(びゃくだん)のようなオリエンタルなニュアンスが絶妙。

↑「浄酎」の甘やかさのなかに、どこかアーシーなハーバル感が漂う味。広島珍味のせんじ肉(干しホルモン)や、もみじ饅頭、はっさく大福といった和菓子も合いそうです

 

酒もコメも自然を生かした伝統製法に回帰したい

ナオライの理念についてうかがうなかで、三宅さんが「酒づくりの原点に回帰したい」とおっしゃったのが印象的でした。

 

「大昔は農薬もステンレスタンクもありませんよね。コメだってそこまで磨けませんし、手作業でコメとこうじを潰す山卸しによる生酛(きもと)造りが当然だったはず。生酛ではない山廃酛(やまはいもと)や速醸酛(そくじょうもと)も、それぞれ理にかなった製法ですが、『浄酎』はなるべく伝統的な技で醸された日本酒でつくりたいというのが私の思いです」(三宅さん)

↑良くも悪くも近代化によって生産者の環境が変化した状況は、日本酒と米農家とでよく似ていると三宅さん

 

醸し方と同様に三宅さんが重視するのは、コメ作りと精米歩合。そこにも、伝統農法に回帰したいという思いが込められています。

 

「科学技術が出てくる前は無農薬栽培です。ただし効率が悪いですから、現代のフルオーガニック米農家は全体の1%以下まで減ってしまいました。だからこそ私はここに価値を求め、自然にも人にもやさしい無農薬の有機米で『浄酎』をつくり広げることで、地球も一次産業もサステナブルにしていきたいと思っています」(三宅さん)

 

ナオライが使用するコメは、地元・神石高原町のオーガニック農園タナベ・マリモファーム産。品種も、通常の日本酒ほど磨く必要がないなどの理由から、酒米ではなく食用米の「あきだわら」や「つきあかり」などを使用しています。

 

「『あきだわら』はコシヒカリに近いおいしさであるうえ、雨風への耐性に優れた品種。なるべく食品ロスを出さないことにもこだわっており、磨かない理由のひとつもロスを出さないためです。磨かなければ殻などが出ませんし、何よりアミノ酸など栄養価も豊富。熟成に重きを置いた『浄酎』の場合、磨かないコメのほうがうまみやコクも豊かで適していると考えています」(三宅さん)

 

コメをほとんど磨かない理由はほかにもあります。日本酒を「低温浄溜」した際に「浄酎」とともに分離される液体は前述のアミノ酸エキスですが、豊かなアミノ酸はコメを磨かないからこその賜物。また、エキスは「浄酎」の割り水に使うだけではなく、ヘルスサイエンスにも活用するべく模索しているとか。

 

「実は立命館大学と共同研究しながら、化粧品の原料や酵素ドリンクなどの発酵食として実用化に向けた研究を進めています。和食の伝統調味料に、煮切った日本酒に梅酢やだしを加えた『煎り酒』があるのですが、こうした商品としても活用できると思いますし、『浄酎』の副産物であるアミノ酸エキスには期待できる要素がたくさんあります」(三宅さん)

↑ナオライのプロダクトは授賞歴も多々。右の方は、神石高原町出身で、浄溜所の立ち上げ時から参画している浄酎生産マネージャーの松井咲樹さん

 

冒頭で触れた“新たな和酒”ですが、2022年にはスタートアップの有志によりクラフトサケブリュワリー協会が設立。若手を中心に盛り上がっていますが、いまのところナオライは協会に所属していません。それは、同社の事業が自社の商品展開以上に、地方の老舗蔵や米農家の活性化を重視しているからではないかと筆者は感じました。

 

「多くの和酒スタートアップは同志ですし、親しい方もいます。『浄酎』もクラフトサケといわれれば、そうなんだと思いますけど、とにかくいまは自分たちのことで精一杯で。手段はちょっと違うかもしれませんけど、日本の酒業界を盛り上げるという思いは一緒ですから、ともに切磋琢磨していきたいですね」(三宅さん)

 

「浄酎」の販売先を聞くと、オンライン以外では広島市内の酒販店や地元の道の駅など、東京では銀座の「ひろしまブランドショップTAU」で通年販売していると教えてくれました。聞けば中国やシンガポールに輸出もしているそうで、今後の販路拡大にも注目です。

↑神石高原町の「道の駅 さんわ 182ステーション」にて。特設コーナーに「浄酎」がズラリ

 

ビジネスモデルも画期的ですが、味わいも実に斬新で芳醇な「浄酎」。銀座や広島を訪れる際はぜひチェックし、晩酌用や手土産としてゲットしてはいかがでしょうか。

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