カリッとした衣の食感とジュワ〜ッと広がる肉汁……鳥の唐揚げに代表されるこのおいしさこそ、揚げ物の醍醐味。これを自宅で作れば、スーパーの惣菜に比べて揚げたてでおいしく、油を選ぶことで健康にも配慮できます。ところが、「キッチンを汚すから」「調理中に匂いや煙が立つから」「油はねが怖いから」といった理由から、家のキッチンで揚げ物を作るのに尻込みする人は多いのではないでしょうか。
フランス料理店に勤務ののち、撮影現場やイベントで人気のフードケータリング業を行う「DoraTheFood」を経営する料理家・松島由恵さんに、初心者でも会得できるおいしい揚げ方と、揚げた後の片付けを楽にするコツについて教えていただきました。
この記事でわかること
食材のおいしさを閉じこめる!
揚げ物の魅力
「食材は揚げることで、水分や旨味がぎゅっと閉じこめられ、よりおいしくなります。口当たりを良くし、香ばしさやカリッとした食感がプラスされるのも魅力ですね。以前、実家で母が余ったネギをフライにして大量に揚げてくれたのですが、あっという間になくなったほど。外はサクッ、とろっとしたネギがとてもおいしかった。ただ焼いただけでは、こんなに箸が進むことはないでしょう」(料理家・松島由恵さん、以下同)
松島さんが心がけている揚げ物のコツとは?
「ケータリング業を行っているので、冷めてもおいしいおかずとして“唐揚げ”をよく作ります。あとは、ハンバーガー専門店に出てくるような皮つきのフライドポテト。ポテトを櫛型に切って常温の油に入れて、じっくり火を通していく方法です。中はほっくり、皮が香ばしいポテトになりますよ。旬の野菜の素揚げもいいですね。時期になると、新玉ネギや芽キャベツの素揚げは欠かせません。ただ、芽キャベツは油がはねるので要注意。水気をしっかりと拭き取ってから揚げましょう。オクラなど破裂が心配な食材は、前もって楊枝などで表面に穴を開けておいてください。
ポリ袋に小麦粉と食材を入れて振り、あらかじめ薄く小麦粉をまぶしてから『炭酸水と片栗粉、小麦粉(小麦粉:片栗粉=1:1)』を混ぜた衣につけて揚げる“フリット”もおすすめです」
油はねを抑える準備と揚げ方は?
プロの極意は「準備は最低限に」「さわらない」
準備に、油の温度調節に、後片付けに……と何かと手がかかるイメージの揚げ物。ところが、松島さんの手にかかると、揚げている最中もおしゃべりを楽しみながらと余裕があり、揚げ物が終わったと同時にキッチンはすっかり片付いています。この違いはいったい何なのでしょうか?
片付けを楽にするコツ……準備する道具は?
揚げ物をするときに、油はねからキッチンを守るために、レンジガードのような囲いを作る人は多いのでは? ところが、そのような下準備を一切しないという松島さん。松島さんが揚げ物を作る時に使う道具はこれだけです。
・鉄鍋
・揚げ物を入れるバットとザル
・菜ばし
・油はね防止ネット
・油ポット
片付けを楽にするコツ……揚げる際の注意点は?
「揚げ物を始める前に、風通しが良くなるよう前後、横など2~3箇所の窓を開けておきましょう。揚げている最中に、油はね防止ネットを使っています。油はね防止ネットは、蒸気だけ通して、油をカットする優れもの。これで蓋をすることで、油がはねて広がるのを防ぎます。これを使えば、最後にキッチンペーパーなどで、周りをふくだけで十分。また、後ほど説明するおいしさにも関わって来ますが、揚げている食材にさわらないことが重要です。触れば、油がはねる回数も増えます」
・2~3箇所の窓を開け、風の通りを良くし、匂いを逃がす
・保温性の高い鍋と油はね防止ネットを用意し、油はねを防ぐ
・揚げている最中は、食材を極力さわらない
おいしく揚げるコツ……油の温度を一定にキープ
「おいしく揚げるコツは、“油の温度を一定にすること”です。一度下がった油の温度を上げるには時間がかかってしまうため、その間に食材が油を吸ってべちゃっとすることも。また、温度が上がりすぎると焦げやすく、煙が出て匂いも強くなります。鍋は、熱伝導性と保温性に優れているものがおすすめ。鉄や銅ですね。天ぷら屋さんの鍋は銅製のものが多いのですが、熱伝導率がいいからなんです。私が使っているのは、故郷・盛岡の“南部鉄器”のもの。分厚い鋳物は油の温度変化が少なく、揚げ物に向いています」
おいしく揚げるコツ……揚げる手順は?
1.熱伝導率の良く、保温性の高い鍋を用意する。使用する油の量は、食材の半分より少し上に浸かるぐらいでOK。
2.揚げるときの温度は、170℃~180℃を保つ。初めは中火で温度を上げ、少し衣を入れて泡が出ているか、もしくは菜ばしを入れて、箸先から泡が立つ状態かを確認する。
3.食材がぶつからない程度の余裕をもって、食材を入れる。仲間でしっかりと火を通さなくて良いものは、高温でさっと揚げ、中まで火を通したい食材の場合は、中弱火にしてじっくりと火を通す。その際、さわらないのが鉄則。
4.揚げている間は、油はねガードをのせておく。ジュワザワワーと、揚げている音がうるさくなったら火が通ってきた証拠。揚げ物の様子を見てひっくり返す。再度パチパチと音が鳴ってきたら、揚がったサイン。
5.揚がったらバットに置いて、余分な油を切る。
おいしく揚がる油選びは……
「米粉」と「米油」を使う
「私のレシピは、衣に米粉と片栗粉を1:1の割合で使い、米油を使って揚げます。米粉と片栗粉で揚げると、衣が“ガリッ”としっかりした歯ごたえに。こめ油は、サラダ油よりも軽く、胃もたれも少ない。酸化にも強いのでおいしさが長持ちします。一度この味を覚えてしまうと、小麦粉の衣や普通の油には戻れません」
以上のコツを押さえたところで、まずは基本中のキ、鳥の唐揚げのレシピを解説していただきましょう。
基本の唐揚げ
「小さめげんこつサイズの唐揚げ」
「揚げるサイズは、子どものげんこつぐらいの大きさでOK。人によっては、一口大に切って、沢山の量を何度も揚げる方がいますが、じっくり揚げれば火は通ります。大きめに切って、揚げる回数を減らすのもあわてないコツです」
【材料(2~3人分)】
・鶏もも肉……2枚(500~600g)
〈漬けだれ〉
・砂糖……小さじ2
・紹興酒(日本酒でも可)……大さじ1と1/2
・しょうゆ……大さじ1と1/2
・しょうが……1かけ
・にんにく……1かけ
〈衣〉
・米粉:片栗粉……1:1
【作り方】
1.鶏肉の筋や、余分な脂、皮を取り除く。
「この筋や脂を丁寧にとることで、食べやすさが格段にアップ。嚙み切りやすく、あっさりとした食べやすい唐揚げに。余分な皮は、皮せんべいとして揚げてもいいですね」
2.鶏肉を大きめに切り分ける。鶏もも肉1枚で約4〜5個に。
「大きく揚げることで、一口大で小さく揚げるときよりも表面積が減り、水分が逃げづらくジューシーな唐揚げに。唐揚げ専門店では、大きめに揚げるお店も多いです」
3.漬けだれを鶏肉にもみこみ、2時間から一晩おく。
4.付いている鶏皮で肉を包みこみ丸く形を整えて、衣をつける。ギュギュっとおにぎりを握るようにしっかりと付けたら、10分ほどおく。鶏肉に衣が馴染んだら、さらに衣を付けて2度付けする。
「鶏皮をできるだけ伸ばして肉を包むことで、皮がパリッと仕上がり、どこから食べてもおいしい状態に。衣はガリっとした食感のポイントとなるので、しっかり2度づけします。漬けだれを切ったり、キッチンペーパーで押さえる必要はありません」
5.油を2cmほど入れて、中火で170℃~180℃になるまで温める。
「2cmと聞くと少なめに感じますが、十分な量です。鶏肉を入れることでかさも増し、鶏肉が7~8割ほど油に浸かった状態で揚げられます」
6.揚げ衣を入れ、細かい気泡を立ててシュワシュワと揚がるまで温度が上がったら、皮を上にし鶏肉がぶつからないよう余裕を持って入れる。
7.油はね防止ネットで蓋をし、肉に6~7割ほど火が通るまでじっくりと待つ。ザーザーッと揚げる音が大きくなってきたら火が通ってきている証拠。色づきを見て、ひっくり返す。1~2分揚げて反対側も揚がったら、もう一度ひっくり返して軽く揚げる。バットに引き上げて、鉄ぐしなどを刺し8秒待ってから抜き、鉄ぐしが温かくなっていたら火が通っている証拠。
「最後にもう一度、片面を揚げることでカリッと歯ごたえよく揚がります。鉄ぐしなどを刺して、火の通りを確認すれば、切って中の状態を確認する手間が省けます」
アレンジ揚げ物
「刺身と果物とチーズのおつまみ春巻き」
「軽く火を通したミ・キュイ(半生という意味のフランス語)のような魚と果物のバランスが絶妙なレシピです。魚がサクで安かった際など、刺身で食べるにはちょっと多く残ってしまったときに適しています。中途半端に余ったハーブやチーズなども入れて果物と揚げてみたらおいしかった、そんな残り物から生まれた来客時の我が家の定番メニューなんです。前日に残ったお刺身を使うときは、しっかり火を通しましょう」
【材料(2人分)】
・魚の刺身……150g
・梨……1/4個
・ブルーチーズ……適量
・春巻きの皮……6枚
・水溶き小麦粉……適量
【作り方】
1.サクを厚めの縦長にスライスする。切ってある刺身をそのまま使ってもOK。
2.梨を3~4mmの厚さにスライスする。
3.春巻きの皮の中央部に、梨を刺身で挟んで置き、ブルーチーズを乗せる。
「果物は歯ごたえのある梨やりんご、お刺身は鯛やハマチ、スズキなど淡白な魚が適しています。その他に、シメサバとイチゴ、パセリの組み合わせや、固めの柿と白身魚にサワークリーム、バジルの組み合わせもおすすめです」
4.春巻きの下側を折り、具材にぎゅっと抱きこんで両端を中央に折ったあと、奥に向かって巻く。水溶き小麦粉を皮の端につけ、空気が入らないようにぴったりとのり付けする。
「春巻きの皮が余ったら、密閉袋に入れて冷凍保存できます。使う前に常温に戻しておくと、皮同士をはがしやすいですよ」
5.170~180℃まで油が温まったら、春巻きを入れる。こんがりと色づけばOK。
「火を通さなくても食べられるため、皮が色付けばOK。春巻きを揚げるときは、新しい油よりも1~2回使った油の方がおいしそうな見た目に色付きます」
6.揚がったらバットに引き上げ油を切り、お好みではちみつをかける。
出来上がりです。
油を使うときは、野菜→肉→魚の順に使うと油を汚さず、家庭であれば2~3回はおいしく使用できるそう。こうした松島さんがプロとして会得してきた揚げ方を実践すれば、後片付けも楽ちんで、まるで煮込み料理を作っているようなゆとりさえ持ちながら楽しめるはず。揚げ物には、「天ぷら」や「フリット」「フライ」「素揚げ」など、衣の種類も揚げ方も多種多様。ぜひ好みの揚げ方を見つけて、気軽に楽しんでみてはいかがでしょうか。
Profile
料理家 / 松島由恵
DoraTheFood主宰。建築業界で長く働いたのち、フレンチレストランでアルバイトをしながら料理家の道へ。雑誌の撮影現場やアパレル企業へのケータリングやお弁当の宅配をはじめたところ人気が集まり、現在ではレシピ開発・スタイリングをメインに活動、ときおりケータリングも行っている。『エキゾチック薬膳』(家の光協会)が、11月16日に発売予定。