Vol.145-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はシャープから登場した「AQUOS R9 pro」。ライカ社との協業でカメラ性能をアップさせた、シャープの開発意図を探る。
今月の注目アイテム
シャープ
AQUOS R9 pro
実売価格19万4600円〜
2024年のスマートフォンに現れた大きな傾向のひとつに「AIの搭載」がある。
正確に言えば、スマホへのAI搭載は以前から行われていた。カメラの画質向上や音声認識は、AIの力がなければ実現出来ない。ただそこに「生成AI」を中心とした様々な新しいAIも登場し、それらをスマホの中に組み込むことが差別化要因になり始めている。
こうした傾向は、GoogleやAppleといった大手プラットフォーマーが中心になったものだ。生成AIなどの開発には大きなコストが必要であり、プラットフォーマーとして広く様々な機器に組み込んでいく前提がないと、なかなか元が取りづらい。
一方、大手の言うがままに生成AIを搭載しても、機能自身は「同じプラットフォームを採用する他社」も提供可能なので、差別化が難しくなる。Androidの場合、GoogleのPixelもライバルになるのが悩ましいところである。プラットフォーマーを除くと、総花的な機能を開発して自社製品に実装するだけの量を出荷できるのはサムスンくらいのもの……という部分もある。
では他はどうするのか?
シャープはかなり特徴的な取り組みをしている。生成AIとして「留守番電話」に特化した機能を搭載しているのだ。
文字による留守番電話の書き起こしや確認といった機能は珍しいものではない。
なぜシャープが重視するのかといえば、“携帯電話での留守番電話の仕組みが、日本と他国では異なる”からだ。携帯電話事業者側に留守番電話の機能があるのは日本型であり、海外はあくまでスマホ側で行うことになっている。海外のプラットフォーマーは日本に合わせたものを作ってはくれないので、シャープは日本向けにAIを作って対応することになったわけだ。
これは、今後の日本メーカーにとって大きな教訓を含んでいる。
グローバルな企業の日本最適化が、今後も綿密なままだと期待するのは難しい。人口が減って購買力が下がるとすれば、日本語を重視してもらえるとは限らないし、ご存じの通り、すでにその傾向は出ている。
だとすれば、彼らがサポートできないところは日本メーカーが作って差別化要素としつつ、コアな機能はグローバルなプラットフォーマーのものを使ってコストと機能の最適化を行う……というのは有用な方法論であり、今後増えていってほしい形ではある。
シャープはそこに「留守録」という切り口を見つけているわけだが、他にはどんな切り口があるのだろうか? そこでなにをするかが、2025年以降、メーカーにとって知恵の絞りどころになっていくのだろう。
ただ、それができるのは「日本メーカー」とは限らない。日本市場を重視する中国メーカーが手がける可能性もある……というのが、いまのメーカーの力関係を考えると現実的な路線なのかもしれない。
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