Vol.149-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は廉価版として登場したiPhone 16eの話題。これまでのiPhone SEではなくiPhone 16シリーズとして登場させた狙いを探る。
今月の注目アイテム
Apple
iPhone 16e
9万9800円~(SIMフリー・128GB)

他のモデルと同様にして製造・開発効率を高める
iPhoneの新型である「iPhone 16e」が発売になった。この時期に出るiPhoneはいわゆる廉価版に当たるもので、2022年に発売された「iPhone SE(第三世代)」以来、3年ぶりの新モデルだ。
今回はデザインなどが大きく変更になっているが、理由はおそらく2つある。ただし、どちらも“これからの世代に合わせた設計変更”という言い方でまとめることはできるだろう。
1つ目は、「Apple Intelligence」に対応するためだ。Apple Intelligenceは、この4月から日本でも使えるようになったAppleのAI機能。それ自体が魅力であるが、Appleとしては「Apple Intelligenceが搭載されていること」を基本路線とし、iPhone自体の性能の底上げをしておきたい、という考えがあるだろう。
2つ目は、iPhone SE の設計が古くなっており、ここから製造効率を上げるには、できるだけ他のiPhoneとの共通性を高めておく必要がある、ということだ。
実はApple Intelligence搭載にも同じような意味合いがある。ソフトを進化させていくうえで、“多くのiPhoneが同じ機能を使える”方がソフト開発効率も上がる。
ハードウエアも同様で、基本的な設計が同じである方が部材の一括調達がしやすくなり、生産性は上がる。iPhone SEは“そのモデルの発表時に安価なモデルの部材を大量調達して生産に備える”ことでコストダウンをしていると想定されるのだが、Touch IDのついたiPhoneはiPhone SEだけになってしまったので、これまでの設計を継続する方がコスト効率は悪くなっていると考えられる。
細かな機能を割愛して価格の上昇を抑える
新たな要素として投入されたのが、Appleオリジナル通信チップ「C1」の採用だ。使っている分にはこれまでと大きな差を感じないだろうが、Appleとしては、クアルコム製通信チップへの依存度を減らして、消費電力やコスト面での最適化を進める「戦略的技術」でもある。
一方で、Apple Intelligence向けに「A18」プロセッサーを搭載したことは、コスト面ではまだ不利だ。そのためか、カメラセンサーを減らしただけでなく、ディスプレイの輝度を落としたりMagSafeを搭載しなかったりと、非常に細かい機能カットがなされており、これらは価格を下げるための方策と見られる。
その割に安くない……という評判も聞かれるのだが、これは特に米ドルと円の為替相場の問題。3年前に比べずっと円安になってしまったので、日本での販売価格はどうしても高くならざるを得ない。
そのうえで、各携帯電話事業者は様々な施策を用意し、毎月の支払い金額を下げて入手できるよう努力している。それだけ、「春の新iPhone」はビジネス上重要である、ということだ。
では、同じく他社から出る春向けスマホと比較するとどう見えるのか? 前出の新チップ「C1」の特徴はどこにあるのか? それは次回以降で解説していくことにしよう。
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