Vol.150-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。
今月の注目アイテム
マイクロソフト
Surface
米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

マイクロソフトはここ数年、個人向けには「ARM版Windows搭載PC」、正確には「Qualcommと協業したSnapdragon系プロセッサーを搭載したPC」を強く推している。特に2022年以降はその傾向が明確だ。昨年登場した「Surface Pro」「Surface Laptop」シリーズも、6月から日本での発売が決定した新製品も、個人市場向けはSnapdragon搭載のARM版Windows 11搭載製品だ。企業向けにはIntel製プロセッサー搭載品もあり、個人がそちらを買うことも不可能ではないものの、基本はARM版だ。
ARM版は、過去のアプリケーションやゲームとの互換性が完全ではない。ビジネスアプリケーションは意外と問題ないものの、ゲームは不正対策モジュールの問題で動作しない場合が多く、周辺機器のドライバーにも対応していないものが多い。個人としてはリスクを避けたい、という気持ちになる人がいるのも理解できる。
では、なぜマイクロソフトはARM版を推しているのか? それは、Macとの競合の問題だ。
Appleは2020年に、Intel製プロセッサーからApple自社設計のARM版プロセッサーである「Appleシリコン」に移行した。その判断は大成功し、Macのバッテリー動作時間・発熱の少なさ・コストあたりの処理能力は劇的に改善している。
では、IntelやAMDの最新プロセッサーが大きく見劣りするのか、といえばそうでもない。それでも、動作時間の長さや発熱の少なさではx86系に比べ優位だと感じる。マイクロソフトとしては、Windows PCの進化のあり方として、Mac、特にMacBook Airの性能と消費電力のバランスに“競合できる製品”を求めていたのだろう。x86系は安心だが、消費電力の面でなかなか同レベルにならない。
マイクロソフトは、自社のPCとしてSurfaceを大量に売らねばならないのと同時に、“今後のWindows PCはどうあるべきか”を示す必要もある。そう考えると、MacBook Airを意識し“市場でトップクラスの製品を作らねば”と言う意識になるのもわかる。
互換性の問題はニワトリとタマゴのようなところがあり、多数の製品が市場に出れば解決していく部分がある。これまでは価格の問題もあってなかなか数が増えなかったが、ここからは変わってくる、とマイクロソフトは期待している。
一方でそのためには、現在のSurfaceの価値の核にある「Copilot+ PC」の価値をしっかりと訴求し、新しいプラットフォームとしての認知を高めていく必要がある。ただそれは現状、道なかばという印象が否めない。その点がどう変わっていく可能性があるのかは、次回のウェブ版で解説していきたい。
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