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2017/1/31 8:00

【西田宗千佳連載】“いまの有機EL”理想と現実

「週刊GetNavi」Vol.51-2

↑東芝 レグザ X910シリーズ
↑東芝 レグザ X910シリーズ

 

テレビにとって有機EL(OLED)パネルはある種の“聖杯”のようなものだった。テクノロジー業界で“聖杯”とは、“誰もが求めてやまないが、どうしても見つからないもの”の代名詞。いうまでもなくキリスト教からの引用なのだが、“この業界、聖杯が多すぎる”といわれるくらい、欧米では定番になっている言い方だ。

 

とは言いつつ、有機ELはまさに“テレビにとっての聖杯”である。なにしろ、本物はまだ量産に至っていないのだから。

 

LGディスプレイが量産に至った“WRGB方式”の有機ELは、白色の有機ELにカラーフィルターを付けたものだ。これは量産が容易であるが、“テレビにとっての聖杯である有機EL”とは違ったものだ。

 

多くのテレビメーカーが量産に向けて努力していたのは、赤・緑・青3色の画素が独立して光る“RGB方式”のものだった。だがこちらは、量産性(すなわちコスト)とサイズ、寿命の問題から、いまの液晶パネルと競争できるものができなかった。RGB方式の理想的な有機ELができればすばらしい画質のテレビができることは、有機ELを使った“マスターモニター”の存在でよくわかっている。映像制作の現場で使われるマスターモニター、特にソニーの「BVM-X300」は、2014年発売でありながら、いまだ民生機の及ぶところではない画質を実現している。ただし、映像は明るくないし、価格も390万円弱と、コンシューマ向けとはかけ離れた世界だ。あのクオリティの一部を家庭に持ってくることが、RGB方式有機ELの狙いであり、それがまさに“聖杯”だった。

 

だが結論からいえばそれは失敗し、各社は現状、RGB方式有機ELのテレビ向け量産を諦めた状況である。

 

WRGB式有機ELは、有機ELらしい発色・コントラストを実現しているものの、理想的な画質ではない。輝度がRGB方式有機ELや液晶に比べ低く、暗い場所での微細な発色に弱く、色の出方が均質ではない。要は“強いところはとても良いパネルだが、弱いところを知っていないといいテレビを作りにくい”ものになっているのである。有機ELテレビのデモは“黒い背景に輝度と色彩の強いもの”を配置する映像を使うのが一般的だが、それは、色が濁りにくい、という有機ELの強みをアピールしやすいだけでなく、現在のテレビ用有機ELでは液晶と差が出づらい“中間調での正しい発色”“ごく弱い光の中の表現”を見せる必要がない、という事情も存在しているのは事実である。だから、店頭などで有機ELテレビを確認する際には、そうしたデモ的な映像ではなく、“普通の映画”“普通のテレビ番組”で確認させてもらうようにすべきである。

 

それでも、2015年から16年に供給された世代のパネルに比べ、2017年に登場する製品に使われているパネルは品質の良いものになっている。量と質の両面で改善が見込めたことが、今年の“有機ELフィーバー”を生んだ、といえるのだ。

 

別の言い方をすれば、苦手な領域があったとしても、それをカバーしうる良さがあり、苦手な部分を技術的に緩和する方法もある、というのが、各テレビメーカーを有機EL採用に走らせたものでもある。

 

そして、その“緩和する方法“”利点“は、メーカーごとに考え方が異なっている。

 

それがなにかは次回Vol.51-3で解説したい。

 

●Vol.51-3は2月7日(火)更新予定です。

 

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