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2017/3/31 7:00

【西田宗千佳連載】放送とネット配信は「専用道路か公道か」の違い

「週刊GetNavi」Vol.53-2

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ネット配信のトラブルは、いうまでもなくネット配信が持っている特質に依存する。放送と比較すると、その違いは明確だ。

 

ネット配信と放送の違いは2つある。

 

ひとつは、「片道の専用道路か双方向の一般道路か」ということだ。放送は電波を使って家庭まで映像や音声を届ける。厳密に言えば、ケーブルテレビはどうなる……という話があるのだが、ここではちょっと忘れておいてもらいたい。放送に使う電波は国が管理しており、放送局ごとに割り当てる。いうまでもなく、アンテナは受信専用だ。だから、「放送局が、全家庭に向けた専用道路を国から借り受けている」ような状態だと思えばいいだろう。利点は、専用道路だから混雑がないこと。放送の特徴として、同じ電波を同時に皆が受信する、ということがあり、エリア内では何人が受信しようが、受信品質に問題は出ない。だから「皆が一斉に同じものを見る」には非常に向いている。

 

もうひとつの違いはあらゆる意味で「コスト」であり、放送の欠点といえる。放送の受信にはアンテナが必要で、これがハードルになる。地上波でも大変なのに、衛星放送となるとさらに大変だ。放送局側の設備も大規模なものになる。国民の共有財産を使う事業だから、国や地方自治体との協力なしには成立しない。だから「免許制」である。

 

また放送は「一方通行」であるから、見るだけになる。だから、タイムテーブルに沿って流れてくるものを見る構造になっている。

 

一方でネット配信は、経路に「インターネット」を使う。インターネットはあらゆる通信が通る。受信専用ではなく、こちらから情報を送ることもできる。放送が専用道路ならば、こちらは公道のようなものだ。

 

汎用の経路を使うということは、コストが非常に安くなる、ということである。極論すれば、いまやスマホひとつでも放送局と同じ事ができる。友人にビデオメッセージを送ることと、1億人に映像を見てもらうことの間に、本質的な違いはない。ネットで映像配信を行うのに免許はいらない。見る側としても、インターネットに接続できる機器さえあればOK。スマホやPCが普及した現在ならば、地上波のテレビを受信するより簡単だ。

 

自分からも情報を送れるのだから、「見たい」というリクエストを送れる。この特性を活かすと「オンデマンド性」が生まれる。見たいものを好きな時に選んで見られることは、放送にない圧倒的な利点である。

 

ネット配信にももちろん欠点がある。それは、映像の品質を安定させるのが難しいことだ。でもそれは、単に「混雑しやすいから」ではない。より多層的な問題があり、そこが2月25日・26日に起きたDAZNでのトラブルの原因といえるものである。それがなにかは、次回のVOl.53-3で解説したい。

 

●Vol.53-3は4月7日(金)公開予定です。

 

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