「週刊GetNavi」Vol.53-3
前回(Vol.53-2)解説したように、ネット配信の利点は「コストの低さ」「自由度」にある。特にスマホが生まれて以降、我々はどんどん「待たされること」が苦手になってきている。好きな時間に好きなものを見られること、見たいと思ったら一気に見られることなど、自分の事情に合わせてコンテンツを楽しめることが最大の利点だ。DAZNも、スマホからテレビまで様々な機器を使い、好きな時間に好きな場所で見られることを最大の特徴としている。
だが、問題はこの自由度を実現するために、放送のような「専用道路」ではなく、インターネットという汎用の経路を使っていることにある。
インターネットは様々な用途で共用される通信回線だ。それだけに経路は複雑になる。まず配信元のサーバーがあり、そこから複数の経路を使って自宅へと届き、さらに自宅内での無線LANなどを介して端末まで届く。これがモバイル回線であれば、途中の基地局の状況によっても変わってくる。
これら経路のどこにトラブルがあっても通信品質が落ち、画質に影響してくるのがネット配信の不利な点である。
とはいえ、通常は問題ない。現在のインターネット回線は十分な余裕がある。ただ、想定以上に同時アクセスがあると、回線だけでなくサーバーにも負荷がかかり、トラブルを引き起こす。一般的にネット配信のトラブルは、経路のどこかで混雑などが原因でデータが流れなくなることだ。
だが、ことDAZNにおいては、ちょっと違っていた。DAZNのジェームズ・ラシュトンCEOは、「サーバーや回線には十分な余裕があり、多数のアクセスがあったことが原因ではない」と話す。
ではなにが問題だったのか? 問題は、映像をデータ化するプロセスにあった。
DAZNでのJリーグ中継は、各スタジアムでJリーグ主導のもと撮影が行われ(これは、中継映像の著作権をJリーグが持つためにそうなっている)、その映像をイギリスにあるDAZNへとまず送り、そこでデータ化した上で、あらためて配信処理をする……という流れになっている。このなかで、今回トラブルがあったのはDAZNでのデータ化である。DAZNは今回、オンデマンドの強みを活かすため、試合が終わったらすみやかに、全試合のダイジェスト版と見逃し配信版を配信できるよう準備を整えていた。手間を減らし、すばやく作業を行うため、DAZNは「自動化ツール」を使っていた。試合開始・終了のタイミングや前半・後半のタイミングを自動的にチェックし、そこで映像をカットし、エンコーディング(圧縮)に回す。Jリーグでは同時に7試合がおこなわれるので、これを7試合同時に回した。
実はここにトラブルが潜んでいた。
自動化ツール自体は、DAZNのほかの中継でも使われているもので、これまでトラブルを起こしたことはなかった。内部で7試合よりも多くの試合を処理したこともあったそうで、Jリーグだからトラブルが起きる、とは思っていなかったという。だが、「ごくまれなタイミングで発生する」(DAZN)不具合が存在し、Jリーグ中継ではその条件が発生、不具合によってサーバーが止まってしまった。そこに不具合があることを前提としていなかったので、二重化もされていなかった。
要は、開幕前の検証で問題を洗い出せなかったのが原因なのだ。トラブル以降は自動化を止めて手作業にし、システムも二重化することで、同じようなトラブルが起きることに対処している。
では、DAZN以外の配信企業はどうしているのか? そこは次回のVol.53-4で解説したい。
●Vol.53-4は4月14日(金)公開予定です。
週刊GetNavi、バックナンバーはこちら!