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2017/4/14 8:00

【西田宗千佳連載】国際サービスらしい「回線」「圧縮」などへの徹底が安定を生む

「週刊GetNavi」Vol.53-4

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ネット配信は低コストにスタートできるのが最大の利点である。しかし、放送と同じように大規模な人数に同時に配信を行おうとすると、「混雑に弱い」というインターネットインフラの特質が問題になってくる。サーバーを増強し、回線を増強し、必要なシステムを準備すれば、もちろんカバーできる。だがそうなると、「低コスト」という利点がなくなっていく。

 

こうしたことから、ネット配信はいかにギリギリのところを見極め、コスト効率のよいインフラを作るかが事業のポイント……と思われることが多い。実際日本では、そうした発想で運営している企業も多いようだ。

 

だが、あえてインフラへの投資を積極的に行う企業もある。それは、世界規模で配信ビジネスを展開する、NetflixやAmazonのような企業だ。放送が国単位のビジネスであるとすれば、これらの「国際的ネット配信」企業は国単位を超えた、放送ではできない規模のビジネス、ということになる。複数の国で配信することを前提にシステムを作り、コンテンツを調達すれば、1つの国向けに作ったものを複数束ねるより、ずっと効率よくビジネスが行える。

 

例えばNetflixは、世界同時に大量の映像を配信するため、映像をキャッシュしておく独自開発のサーバーを、世界中のインターネット・サービスプロバイダーに無償配布している。ネットが混まない深夜に必要な映像を少しずつ先に配っておくことで、各地からNetflixにアクセスする人は、アメリカ本社のサーバーまでデータを取りに行くことがないよう、配慮されている。この仕組みがあることで、人口の少ない太平洋の真ん中の島国でも、東京でも、サンフランシスコでも、巨大なデータである4Kの映像が世界同時配信できる。同社によれば、Netflix利用者のアクセスのうち95%がキャッシュサーバーまでのアクセスで終わり、インターネットの基幹線に出て行く通信は5%しかないという。だから、世界中の人が使ってもあまり混み合わないのだ。当然、こうしたシステムの構築には大きなコストと技術開発が必要だが、Netflixは現在、196か国・9400万人以上にサービスを提供しているので、十分に利益が得られる。

 

実はDAZNも、Netflixと同じく「巨大かつ国際的なサービス」にすることで利益を得ようと考えている。彼らはイギリスの企業で、ヨーロッパを中心にビジネスをしており、日本のスポーツを買い付けたのも、他の国のファンにも通じる、と考えたからである。だから、ネットワークシステムの開発や、ネットワーク帯域には十分に投資し、余裕を持たせている。

 

だが残念ながら、彼らには経験が欠けており、Jリーグ開幕前にトラブルを完全に洗い出すことができなかった。現在も、まだ画質面でトラブルが起きているユーザーもいるという。

 

これから彼らは経験を積み、問題を解決していくことだろう。DAZNの関係者は真摯で、改善が期待できる。それが一段落した時、彼らはようやくビジネスのスタートラインに立てる。