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2017/6/14 6:30

【西田宗千佳連載】管理を切り口に進むMS、課題は「アプリ」

「週刊GetNavi」Vol.55-4

↑Windows 10 S
↑Windows 10 S

 

Googleが「Chromebook」で、Appleが「iPad」で教育市場を攻めようとしているなか、マイクロソフトはなにで攻めるのか?  答えはやはり「Windows」だ。

 

ただし、普通のWindowsではない。

 

他社が教育市場で切り札としているのは、「普通のPCは管理が大変で、教育市場では負担が大きい」という問題を解決している点である。PCはタブレットに比べて自由度が高く、どんなソフトも入れることができる。だからこそ「アプリを入れたら調子が悪くなった」「設定を変えたら調子が悪くなった」ということが起きる。ChromebookにしろiPadにしろ、その辺は簡単だ。使えるアプリに制限があるため、そもそも問題は起きづらい。また特にChromebookでは、端末を集中管理する「G Suite for Education」という仕組みを使い、学校全体で機器の状態を把握し、仮に再セットアップが必要になっても短時間で済む構成を整えている。

 

だから、マイクロソフトはその機能を持ったWindowsで臨む。そもそもWindowsには企業向けの管理機能がある。それを教育市場向けに修正し、アプリのインストール元も「Windows Store」からのみに絞ることで、Chromebookと同じ体制を整えた。これが、教育市場向けに提供される「Windows 10 S」である。またライセンス価格も非常に安く抑えられているようで、教育用PCをメーカーが販売する場合にも、200ドルから500ドル程度と、Chromebookと同じ価格帯が実現できる。

 

一方、問題はもちろんある。Windowsは様々なアプリがすでにあることが利点だったわけだが、Windows Storeで配布されるアプリの数や種類では、iPadに負けている。Microsoft OfficeなどはWindows Storeで配布されるようになるので改善されるものの、Windowsの利点がスポイルされることには変わりない。特に日本では、日本語変換ソフトにMS-IME以外(要はATOK)を選ぼうとすると問題が出る。そのため、どうしても必要な場合には、2クリックで「Windows 10 Pro」に変えてしまう仕組みも持っている。

 

一方で、Windows 10 Sには、「PCとして使ううえでのメリット」もある。アプリの実行範囲を決め打ちできるため、OSのレイヤーがシンプルになり、起動やスリープが非常に速くなるのだ。近年はノートPCのスリープ復帰が速くなった、とはいうものの、スマホのそれに比べるとやはり遅い。しかし、Windows 10 Sの場合には、スマホにかなり近い速度でスリープから復帰する。また、アプリを自由に入れられない一方で、動作トラブルも起きづらい構造になるため、PCとしての安定性も格段に上がる。米・マイクロソフトでSurfaceハードウエア・エンジニアリング担当副社長を務めるブレット・オストラム氏は「個人でも、Windows 10 Sの安定性を評価して使う人が増えるのではないか」と話す。

 

そうなるには、やはりマイクロソフトが、アプリストアであるWindows Storeを充実させ、他にアプリをインストールする必要性を感じないような時期が来ないといけない。個人的に、それはまだかなりハードルが高い道のりだと感じるが、PCの未来のひとつであるのも、また事実である。

 

●Vol.56-1はゲットナビ8月号(6/24発売)に掲載予定です。

 

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