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2018/4/5 6:30

【西田宗千佳連載】「在庫リスク」が電子書籍の売れ方を決める

「週刊GetNavi」Vol.65-2

↑Amazon「Kindle Oasis」

 

電子書籍ストアにおいては、新作と旧作を比べると旧作の販売数のほうが多いのだという。正確な統計があるわけではないが、電子書籍ストアへのヒアリングに基づく筆者の推計では、おおむね新作2に対して旧作8、といった割合であるようだ。

 

それに対して、一般的な書店では新作書籍のほうがずっと売れる。店内を見回しても、旧作の姿は意外と目立たない。

 

なぜこのような違いが生まれるのか? もっとも大きく影響しているのは「在庫」に対するリスクである。

 

どんなベストセラーでも、ヒットコミックでも、売れやすいのは「新しい」もので、過去のものは時間の経過とともに売れにくくなる。これはすべてのものに共通する法則であり、電子書籍であろうが紙であろうが違いはない。だが、在庫リスクに対する考え方が根本的に違うため、紙と電子書籍ではビジネスの手法が大きく変わる。

 

在庫は、紙の書籍に関するビジネスにおいて、もっとも大きなリスクである。紙の本は「生産」して「仕入れ」て「在庫」しないと売れない。製造したものを備蓄して販売するという意味では、食料品や家電製品とまったく変わらないのだ。

 

書店にも出版社にも無限の倉庫があるわけではないし、持っていると「資産」として計上されるため、経営上のリスクになる。だから本は自然と、「売れる可能性のあるものは店頭を含めた流通内に置く」「売れなくなって来ると出版社の倉庫に戻り、倉庫が埋まりきる前に、古いものから断裁処分していく」ことになる。出版流通の制度は複雑で、説明しようとすると本連載の趣旨から外れていくのでざっくりと状況だけを述べるが、現状書店は「売れるものだけを在庫し、売れなくなるとすぐに出版社へ返品する」形になっている。だから、よほどの巨大書店でない限り、「比較的新しい本しか在庫がない」のが基本で、その結果、新しい本しか売れない。当然といえば当然の話だ。

 

だが、電子書籍ストアはまったくビジネス構造が異なる。在庫をいくらもっても、リスクはまったくない。売れる本でもそうでない本でも、同じ「データベース上の情報」でしかない。書籍のデータは出版社から仕入れるが、電子書籍ストアは「原本のデータをコピーして顧客に売るビジネス」であり、在庫という考え方がないのだ。

 

だから、いくら古い書籍を在庫してもリスクは小さい。販売手数料の問題もあり、永続的に販売リストに載り続けるわけではないが、それでも、よほどのことがない限り、一度販売リストに載れば、ずっと販売が続く。

 

そうなると、過去に人気だった作品、定評のある作品を売っていくことは、非常に効率の良いビジネスになる。だから「過去の作品をまとめ読み」するビジネスが、電子書籍ストアでは重要になるのだ。結果的に、すべての新刊は過去の名作と横並びで競争することになる。そうすると、新刊の販売比率は自然と落ちていき、旧作との併存になっていく。

 

新作と旧作が競い合うという現象は、音楽や映画など、すべてのコンテンツの「デジタルストア」で同様に起きている。過去の作品を売ることはコンテンツ提供側にとってもメリットが大きく、重要なビジネスモデルである。

 

では、そんななかで、電子書籍ストアはどうやって販売促進をしているのか? そのあたりは次回のVol.65-3以降で解説しよう。

 

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