「週刊GetNavi」Vol.30-4
AppleがApple WatchやMacBookなど今春の新製品より投入した「フォースタッチ」技術は、振動によって「押した感覚」を再現し、タッチだけでなく押し込みを操作に取り込んだタッチセンサー技術である。電源を切るとまったく動かないのに、通電して使うとスイッチを押し込めるように感じるのは、なかなか新鮮な驚きがある。
こうしたことはAppleの魔法のような技術……というと美しいのだが、そうではない。実は研究開発の現場では、ずいぶん昔から、多くの企業で可能性が検討されてきたものである。そうした企業の中には、日本企業の姿もある。
2011年の家電展示会・CEATEC 2011では、KDDIが、京セラの技術を使った「新感覚スマートフォン」の展示を行っていた。当時の取材メモを見ると、ソフトウエアキーボードは「押し込むと決定」されて、「ボタンを押した力でパンチの距離が伸びる」ゲームがデモとして用意されていたようだ。これはまさに、今年Appleがやっていることそのものだ。
当時の端末とAppleの「フォースタッチ」の違いは“厚み”。2011年のKDDIによる試作機は、当時のスマートフォンの2倍程度の厚みがあった。だが「フォースタッチ」は、劇的に薄いMacBookに内蔵されており、分解記事などを見ても、特別に分厚いデバイスが使われている様子はない。「フォースタッチ」やKDDIの「新感覚スマートフォン」で使われているのは、業界では「ハプティックデバイス」と呼ばれる、振動を操作に反映することを目指したデバイスだ。前回(Vol.30-3)で説明したように、回転型のバイブレーターではなく、リニアモーターを使った板状のものが使われるのだが、2011年当時は、その薄型化に問題があったのだろう。
キャッチコピーとは異なり、技術は魔法ではない。だから、発想も技術水準も、どこか1社だけが突然とんでもないものを生み出す、ということは少ない。製品になるまでには同じような発想の末、同じような苦労をする。そのなかで、先に商品化できたところが果実を得る。
どうやら、Appleの「フォースタッチ」用のデバイスは、日本電産と中国のAAC Technologiesで分散して生産されているらしい。Appleがパテントで守った上で、パートナーに生産を委託しているのだろう。
どう生かせば製品に結びつくかは、今回Appleが示した。同じようなデバイスを求める端末メーカーが、京セラや日本電産のようなパーツメーカーに協力を依頼し、製品に搭載していくことになるだろう。
いかに製品まで持っていくか、その過程で困難があっても「勝てるまで、出来るまで止めない」意思と資金力を持っているところが、最初の商品化に成功するわけだ。Appleと日本の端末メーカーの差は、結局そこに尽きるのだろう。
●Vol.31-1は「ゲットナビ」7月号(5月23日発売)に掲載予定です。
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