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2018/8/7 7:00

【西田宗千佳連載】ハイセンス傘下で活性化する「REGZA」のブランド

「週刊GetNavi」Vol.69-3

この原稿を書いているのは、2018年の7月末である。夏の段階では、2018年12月1日からスタートする「新4K8K衛星放送」に標準対応したテレビは、東芝のREGZAシリーズしかない。対応チューナーを内蔵しているのがREGZAだけだからだ。初回に書いたように、「新4K8K衛星放送」で利用する著作権保護の仕組みは、策定が遅れた。対応できる機器の開発と量産には時間がかかり、今夏までに商品を出荷するのはリスクが大きくなった。そこで他のテレビメーカーは、「チューナー内蔵モデル」の投入は年末以降とし、「必要な方には、秋に発売される外付けチューナーを購入いただく」という形を採ったのだ。過去に販売された4Kテレビで新4K8K衛星放送を見るためにも外付けチューナーは必要なので、この対応は妥当なものといえる。東芝は他社よりリスクを採ったのだ。

↑東芝レグザ「65X920」

 

東芝がリスクを採った理由は、同社のテレビ事業がおかれた状況と無関係ではない。東芝は、社内の不祥事が続き、経営難が続いていた。テレビ事業は不振ではなく、ブランド認知も高かったのだが、利益率では苦しんでいた。なにより厳しかったのは、経営難から、積極的な営業活動が難しかったことにある。2016年・2017年には、商品性こそ他社に劣らなかったのに、広告や店頭でのマーケティングが後手に回り、シェアを大きく落としていた。一時は国内シェア20%を誇ったが、2015年以降、10%前後に近づいてしまっていた。

 

そして、東芝本社は業績回復を目論見、テレビ事業を、中国・ハイセンスへと売却する。売却後も、テレビ事業での「東芝」、「REGZA」のブランドと開発・営業部隊の陣容は維持されたため、「東芝のREGZA」はそのまま維持されている。だが、数年間の落ち込みに加え、「事業売却された」というニュースの印象は、販売的にプラスの要素にはならないだろう。

 

そこで、彼らは積極策を採ることにした。新4K8K衛星放送は、多くの人にとって気になる要素。テレビ業界にとっては、10年に一度の大きな変化である。ここでリスクをとって積極策を採り、他社に先駆けた営業施策を仕掛けた……と言える。

 

こうしたことができたのは、REGZAチームに開発陣と企画・営業チームがそのまま残っていたからであり、「東芝」ではできなかった積極策を「ハイセンス」が支えた、という部分が大きい。ハイセンスは日本において、主に低価格テレビのビジネスを行っているが、東芝・REGZAとのダブルブランドによって、トータルシェアの獲得を狙っている。ハイセンスは、世界規模ではすでに家電業界での巨人であり、中国市場で得た資金もある。「東芝」でフラストレーションを抱えていたREGZAチームと、日本市場での地位拡大をもくろむハイセンスの思惑は一致した。日本のテレビ市場は「大きいが成長市場ではない」ため、他のメーカーは「利益率重視」「冒険はしない」保守的な戦い方を選びがちだが、REGZAはそうではなかったのである。

 

では、本当のところ、テレビにおいて「新4K8K衛星放送」はどういう意味を持つのだろうか? その辺は次回のVol.69-4で解説する。

 

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