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2018/12/29 7:00

【西田宗千佳連載】個人商店へのモバイル決済導入は「働き方改革」だ!

「週刊GetNavi」Vol.74-2

モバイル決済の話をすると、次のように反論されることが多い。

 

「現金でいいじゃないか。設定もいらないし、どこでも使える。販売店側に準備もいらない。停電になっても使える」

 

たしかにそのとおり。すぐにモバイル決済だけになって現金が不要になる世の中だったら、クレジットカードの利用率はもっと上がっている。モバイル決済の利点の多くはクレジットカードがもっていた要素であり、別に新しいものではない。日本についていえば、2000年代にSuicaなどの交通系ICカードが生まれており、その延長線上にある「モバイルSuica」がすでに日常的に使われている。

 

なのになぜ、バーコードを使ったモバイル決済が注目を集めているのか?

 

ポイントはいくつかあるが、もっとも大きい理由として「Suicaやクレジットカードが使われていないところに浸透させられる可能性がある」というものが挙げられる。

 

特に個人経営の店舗、小規模な専門店や飲食店の場合、いまでもクレジットカードやSuicaが導入されていないところは多い。理由は主に2つある。ひとつは、決済用の機材が高いこと。数万円から数十万円といった出費なのだが、規模の小さい店舗に痛手なのは事実だろう。そしてもうひとつは、「売り上げが手に入るまで時間がかかる」こと。多くの個人商店は小さな資金で運用されているため、売り上げがすぐに立たないと経営が難しい。現金商売なら、売った瞬間に現金が手に入るので、小さな規模でも回しやすいが、クレジットカードなどでは入金日が月末・翌月以降ということも珍しくなく、経営的には望ましくない。

 

バーコード決済は、これらの問題を解決できる可能性がある。導入コストは「スマホ」があればOK。特別な機材の導入は必須ではないので、極限まで小さくできる。入金サイクルの問題は、サービス設計の段階で「すぐ入金できる」仕組みを整えればいい。実際、バーコード決済系は、すぐに入金されること、決済手数料が少ない(期間限定で無料)ことをウリにしている。

 

しかも、こうやって決済していくと、現金時代よりも働き方は絶対に楽になる。終業後の売り上げ集計の際、手作業で現金と売り上げ伝票を付き合わせる作業が減るからだ。電子決済ならすべて記録されているし、いまの会計サービスなら、それらを読み取って自動集計することもできる。毎日の作業を減らすことができれば、導入コストを取り返すのも難しい話ではない。要は、モバイル決済の導入は個人商店にとっての「働き方改革」なのだ。

 

実は、スマホやタブレットが出てきたとき、同時に低価格なクレジットカード決済サービスが生まれており、特に海外では注目されたトピックだった。だが、日本においてはクレジットカード決済額の小ささもあって、当時は話題にならず、改めてモバイル決済の導入で大きなテーマになってきたというわけだ。

 

とはいえ、個人商店での決済は額が小さい。大手事業者がこぞって大規模キャンペーンを仕掛け、銀行の設立まで考えるほどの規模か……というとそうでもない。

 

では、なぜここまで加熱しているのか? 特に、銀行を軸にした動きが発するのはなぜなのか? そのあたりは次回のVol.74-3にて解説する。

 

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