Vol.76-4
2月24日(現地時間)、マイクロソフトはバルセロナにて発表会を開き、「HoloLens 2」をお披露目した。2019年中には出荷を開始し、出荷国には日本も含まれる。
HoloLensは現状もっとも進んだAR機器(マイクロソフトはMixed Realityと呼んでいるが、他社製品と並べるために本稿ではARで統一する)である。HoloLens 2は2016年発売の初代モデルに比べ、大きく進化した。処理性能の向上ももちろんだが、画質・画角が改善され、より装着しやすくなったほか、両手の10本の指を認識して動作するなど、まさに「正当進化」「完成度向上」というべき製品になっている。
だが、HoloLens 2が普通のPCのように、多くの人の手に渡るか……というとそうではない。価格が3500ドルと高いからだ。非常に有用だが、マイクロソフトはまず企業向け市場を狙っており、個人はターゲットとしていない。
まず企業向け市場を狙う理由は、ARグラスなら色々な場所に映像を重ねられるというだけでなく、情報を見るために「キーボードやマウス、タッチパネルを必要としない」ということが大きい。何らかの機材を補助的に使うこともできるが、主な操作方法は音声やジェスチャーだ。
そうした使い方がまずマッチするのは、工場や工事現場、店舗や倉庫といった、PCが使いづらいシーンである。両手で作業をすることが必須の「第一線の現場」で情報支援を行うのが、まずは堅いニーズというわけだ。
これは新しい発想ではない。ARといえる機能はなかったが、もう10年以上前から、工場・軍事などの目的で「頭部に装着するディスプレイ」は使われていて、その延長線上にあるものといえる。
一方、それだけでは大きく市場が広がらないのも事実だ。いま注目されているARグラスは、最終的には広くコンシューマに向けて普及させることを目指している。
マイクロソフトは製品を先行して販売しているが、同じような製品の開発をアップルやグーグル、他のスマホメーカーが行っているのは公然の秘密である。他のメーカーがまだ出してこないのは、コストの問題が解決していないことに加え、「個人市場にふさわしい製品」の姿が見えていないからだろう。
ベンチャーは1000ドル程度でシンプルなARグラス・スマートグラスを作って販売しようとしているが、これらは、スマートウオッチに表示される情報をメガネに表示するようなソリューションを考えている。HoloLensほど野心的ではないが、技術的なハードルは低いし、消費者側にも「どう使えばいいのか」のイメージがしやすい。おそらく当面は、ガジェット市場でこうした「シンプルなスマートグラス」が注目され、市場が構成されていくだろう。
そのあとに来るのが、本格的なARグラスの時代だ。シンプルなスマートグラスの普及で低価格化したデバイスを使い、HoloLensのような性質をいくらか備えた製品が出てくることになる。個人市場での姿はまだ想像の域を出ないが、本当に普及することになれば、PC・スマホに続く「新しいコンピュータ」の姿になるだろう。
とはいえ、マイクロソフトがHoloLensを作っているのは、なにも企業向け市場が手堅いからだけではない。来るべき「ARグラス時代」を見据えて、技術と開発ノウハウを磨き、パートナーを集めるためだ。現在手元にある技術に自信があるからこそ、先にカードを表にして「勝負」にかかっているのである。
●次回Vol.77-1は「ゲットナビ」5月号(3月23日発売)に掲載されます。
週刊GetNavi、バックナンバーはこちら!