「週刊GetNavi」Vol.31-3
前回書いた通り、携帯電話事業者は自社のために端末をメーカーから調達して販売している。だから、SIMロックを解除して乗り換えたとしても、他社のネットワークの価値を最大限に活用できるわけではない。
他方で、そうした点が影響しづらいところもある。いわゆるMVNO事業者だ。これには、日本のMVNOの特殊性が関わっている。MVNOは回線を借りて事業を行うが、日本において回線貸し出しは、NTTドコモが中心となって行ってきた。結果的にMVNOで使われる携帯電話端末も、NTTドコモの回線だけを考えれば良かった。「NTTドコモが販売した端末」で「NTTドコモの回線を借りたMVNO」を利用する限り、SIMロックの問題は発生しない。だからこそ、多くのMVNOはシンプルにビジネスが展開できた。
この点は、SIMロック解除が義務化された後も変わらない。SIMロック解除の義務化で「NTTドコモ以外の回線で使われていた機器」でMVNO回線が使われる可能性が出てきたが、その量は多くはない。結局は「NTTドコモのエリア内で使えます。NTTドコモで使っていた機器にSIMカードを挿して使えます」とプロモーションするのがもっとも簡単で確実だ。
実際、多くのMVNOはSIMロック解除を冷ややかな目で見ている。「意味がない」と話す人々も多い。その通りだろう。一方で、MVNOにとってSIMロック解除がプラスの影響を持つのも、また事実なのである。SIMロック解除の義務化というトピックによって、「回線選択の自由」という考え方がニュースとして伝えられるからだ。MVNOはその一角であり、MVNOのビジネスに注目する人が増えるのは間違いない。
MVNOとして、SIMカードを販売するビジネスがそれで上向くわけではないだろう。結局、SIMカードを買って使う人はある程度IT機器について詳しい人であり、数は多くない。MVNOがアピールする「低価格で必要なサービスの分だけ支払う」というあり方は、スマートフォンの料金体系が高くて二の足を踏んでいる、どちらかというとITには詳しくない人々の側でのニーズが大きい。そうした人々にはSIMカードを差し替える、というやり方ではなく、低価格な端末とMVNOの回線をセットにした商品の方がわかりやすく、ニーズが高い。
冷静に考えてみれば、携帯電話端末と回線をセットにして売る、というやり方は、大手携帯電話事業者と変わらない。端末とセットにするなら、そもそもSIMロック解除など関係ないからだ。MVNO事業者は、これからビジネス拡大をしていくべき市場が「ITに詳しくない人々」であると知っており、そこに最適化したビジネスモデル構築を行っている。だからこそ、MVNO事業者は「SIMロック解除」を重視していない、ともいえる。
このあたりを考えると、SIMロック解除とはなんのために行われているのか、少々むなしいものを感じる。
だが、「回線販売」には直接的な影響はないものの、端末、すなわちハードウェアの調達まで考えると、SIMロック解除にはいろいろとプラスの要因もある。それがなにかは、次回(Vol.31-4)で解説したい。
「Vol.31-4」は6/15(月)ごろ更新予定です。
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